Dream
□Hopefully
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高校3年・春。
隣の席に座る彼女に、今まで感じたことのない気持ちを抱いた。
今までこれが恋だと自分で思ってきたものとは全く違うソレに、戸惑いもしたが、抑えられない想いに本当の恋を自覚した。
だけど、すでにみょうじには恋人がいた。
そいつが他校生だと聞かされてはいたものの、まさか宮城県の高校バレー界でも1、2を争う有名人・及川徹だとは思いもしておらず、初めて名前を明かされたとき随分と落胆したものだ。
「ねえ、菅原くん」
「ん?」
それでも、たまにこうして電話をくれることとか。
「今から、家出られない?」
「いいよ」
少しでも会えることとか。
そんな些細なことで、一喜一憂してしまう。
一瞬でも会えるなら、俺は君の元に飛んでいくよ。
家から自転車で15分ほど走ると、みょうじ宅の最寄りの公園に着く。
夜1人で公園で待たせることはどうしてもできなくて、俺が公園に着いてからいつも連絡を入れる。
「着いたよ」
「うん。今から行くね」
Tシャツにデニムのミニスカートで現れたみょうじに少し見とれた。
「よ」
「こんばんは」
小さくニコリと微笑むみょうじ。
笑ってはいるが、いつもと様子が違うことなどすぐに気付いた。
「何かあった?」
「んー」
ベンチに二人で腰かけて、空を見上げる。
少しだけ肌寒い夏の終わりの夜、満点の星空が広がっていた。
澄んだ空気のおかげで、星がよく見える。
「徹がね…」
口を重そうに開くみょうじを急かすことはせず、ゆっくりと待つ。
「最近、徹がなんでわたしと一緒にいてくれるのか、全然わかんなくて…」
「?」
「徹に想われてる自信、ない…」
女子に騒がれている様子は容易に想像がつく。
それが、みょうじを不安にさせているだろうことも。
「告白されるのはいつものことなんだけど…」
敵ながら天晴れ。
なんて、呑気に思った。
「いつもは断って終わりなのに、そうじゃない子がいるみたいで…」
「どういうこと?」
「連絡頻繁に取り合ってたり、一緒にお昼食べたり?」
こんなこと普通に友達同士ですることだってわかってるんだけど…と俯くみょうじ。
「不安?」
「うん」
じゃあ、俺と連絡を取り合って、こうして会ってるみょうじはどうなの?
なんて、追及することはできなかった。
「直接聞いてみればいいのに」
「一度…聞いてみたよ」
「及川はなんて?」
「ただの友達でしょ、って」
彼女的に、彼氏を好いている人と彼氏が仲良くしているのは気分が良いものではない。
だけど、及川を好きなその子と俺は同じだ。
あわよくば、なんて小さな期待を捨てきれずにいるのだから。
「菅原くん、わたしがワガママなのはわかってる…だけど、このぐちゃぐちゃな気持ちをどこにぶつけたらいいのかな…」
俺が。
俺が受け止める。
だから、その一瞬だけでも俺のことを見て欲しい。
みょうじのそばに俺がいるということに、気づいて欲しい。
「…及川にぶつけなよ。」
「え… 」
「不安だって言いなよ。みょうじが選んだやつなんだから、きっとわかってくれるよ」
俺はみょうじが好きだ。
好きだから、及川との仲を壊すようなことはできない。
彼女を傷つけるようなことはしたくない。
君に出会えた、それだけで…。
「そうだよね、愚痴ってても変わらないもんね」
「俺はいつでもみょうじの味方だよ」
「ありがとう」
俺がどんなに好きでも、いっしょにいられる時間は及川には勝てない。
それでも、みょうじと出会えたことには感謝してる。
みょうじに笑顔を向けてもらえるだけで、今は…。
「がんばれ」
「うん!…菅原くんの彼女になる人は幸せだね」
「…」
じゃあ、俺の彼女になる?
なんて、やっぱり言えなかった。
Hopefully
(2015.01.20.)