公安課

□Love in the ice
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瞳を開くとそこはまだ、漆黒の宵闇の中。


あぁ、夢を見たのか。

その余韻に浸るように、俺は少しの間目を閉じた。

地平線の向こう側へ沈む夕陽と、優しく微笑む父と母。


両親と来た最後の想い出の場所だ。

一度だけ、あの場所を訪れた事があった。
あの時は淋しくて苦しくて、胸に穴が開いたような気持ちになり、すぐに立ち去ってしまったのだが・・・



こんな穏やかな、優しい夢を見る事が出来たのは・・・


そっと耳を澄ますと、規則正しい寝息がひとつ。

目線を落とすと、唇にうっすらと微笑みを浮かべた綾が身体を寄せる様に眠っている。
あたたかな温もりと、甘い香り。
頬にかかる長い髪を直しながら、そっと口付けを落とす。

「・・・んっ・・・」

綾は僅かに身じろいで「んふふっ・・・」笑いながら、更にその身を摺り寄せた。
勿論、眠ったままで。


初めての夜を迎えたのは、昨日の事。
緊張も破瓜の痛みも、ついぞ口にすることは無く、この想いを受け止めてくれた彼女に、俺は抱き締める事しか出来なかった。


ひとたび触れてしまってからは、胸の内に灯る炎は納まる所か更に燃え上がる。

幼い頃両親と死別してからは、ずっと要らないものと取り扱う事を放棄していた感情(こころ)総て。

綾に出逢って、そして愛するようになってからそれを思い出させ、俺の中へと呼び戻してくれた。
それどころか誰にも奪われたくないと思える程、愛おしく思える女性(ひと)が居るだと、その想いを綾は微笑んで抱き締めてくれた。


「ありがとう」


耳元に囁きかける。


久しぶりの休日。瞬く間に時間は過ぎた。離れ難い気持ちは同じで、今夜二度目の契りを交わした。


「直ぐではないけれど、秀樹さんともっと悦び合いえるようになりたいです」

はにかむ様にそう微笑む綾は、いつだって俺の核心をついてくる。

くるくるとよく変わる表情も、彼女の言葉も、いつも俺の思う以上の事を伝えてくれる。


だから、何があっても守り抜こうと、絶対に悲しませることはすまいと、その誓いを込めてもう一度くちづけた。


俺の、最後の女性に。


それから・・・


そう遠くないいつか、綾と二人であの海へ行ってみよう。




2015.03.28UP

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