貴方へと繋ぐ明日

□貴方へと繋ぐ明日
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【001】廻る想いと記憶



それは――何度目の『記憶』だっただろうか?


記憶の中の貴方はいつも凛としていて、誰も寄せ付けない強い力と信念を持っていた。

記憶の中の貴方はどんな時も規律を重んじ、曲ったことが大嫌いだった。


無表情と言われるその下に隠された、灼けつく程の激情。
不器用で分かりづらいその優しさに、俺は何度救われた事か。

貴方と共に過ごした時間はとてもとても短いものだったけれど――……知らなかった貴方を知るたびに、貴方との日々を繰り返すたびに、俺の心に貴方が刻まれていった。

触れる指先の温もり、風に揺れる前髪、細められた目と緩む口元。
何気ない瞬間に見せるふとした仕草。
他愛もない言葉の掛け合い。

初めはただの憧れだった。

でも――……繰り返す記憶の中で、『憧れ』は『尊敬』に。

『尊敬』は――……『恋情』に……その形を変えた。


誰よりも高く、誰よりも早く、貴方は大空を駆ける。
折れる事の無い刃を携え、自由のために、貴方は舞い続ける。
多くの命と希望という願いを背負い、貴方は進み続ける。
悲しみと絶望の世界を。

どんなに傷つこうとも、飛ぶ事を止めなかった貴方。
小さくとも大きな背中で翻る双翼。
俺はいつもその背中を追いかけて追いかけて、手を伸ばしていた。

決して届くことは無かったけれど。

それでも俺は、貴方と同じ翼が欲しくて、少しでも貴方の側に近づきたくて、がむしゃらに飛び続けた。


でも――……それだけじゃ駄目なんだと知った。


それだけじゃ、『結末』は変えられない。
『貴方』を、『皆』を救えない。


作られた歴史と百年の安寧。
偽りの世界の中で、隠された真実と伏せられた現実。

それでも俺達は、この大きな壁に囲まれた『箱庭』の中で足掻き続けた。

ただ、大空を『自由』に羽ばたく事だけを願って。
壁外に広がる、まだ見ぬ景色を夢見て。
何者にも脅かされない、『安らぎ』を求めて。


途切れる景色と暫しの暗闇。


(――……あぁ、また終わる。そして……始まる)


 
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