白鬼小説

□お前は私を苦しめていなかったのに
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▽1「お前は私を苦しめていなかったのに」

私は不誠実な男が嫌いだ。

今日はこちら(地獄)に白澤様が来るらしい、そんな噂が女たちの間でされていた。

彼は大体週に一度はいくつかの薬草を取り揃えて、薬を売りにこちらに降りてくる。

そのたびに、男女関わらず多くの人々が白澤の周りに集まっている。
吉兆の印と呼ばれる彼には、不思議と人が集まるようだ。

どんな人柄が良い人なのかと姿を見てみれば…
「あは!君可愛いね〜!今夜僕と遊ぼうよ♪」
白澤はいつもその都度特定の女を選び出しては、その女と一夜限りの関係を築く。つまり、女たらしなのだ。

私はそれを見るのが不愉快だった。不誠実さの滲みでた彼を見ているだけでも、虫酸が走るほどに。
自分が女であったとしても、明らかに彼を嫌っていただろう。


――――…

その夜、私は残った仕事をしていた。
そこに、客人が現れた。その客人が誰か知るや否や皮肉を叩いてやる。何故ならば、私はこの男が嫌いだから。

「今日はいい女性に出会えなかったようですね。残念でしたね。」
「第一声がそれって、僕のことほんとに、嫌いなんだね。」

「えぇ、嫌いですよ?で、何がどうなって、貴方が夜の時間帯に男の目の前にいるんですか。」

「ねぇ、君ゲイなんだろ。」

「…だとしたら、なんだというのですか?」

「仕事忙しくって君のソレ、使い切れてないんじゃないの?僕が使ってあげようか?」

なんなんだ、コイツは。
普段人々に見せない妖艶な笑みを私に向ける。

「反吐が出ますね。第一あなたのような男が一番たち悪いんですよ。貴方とは寝ませんよ。」

「何?愛してる男としか寝れないタイプ?」

「…。」

気がついたら手が出ていた。

「痛っ…。」

「自業自得ですね。サッサと帰ってくれませんかね。」

「ねぇ、…」

「帰れ。」

私はもともと声の低い方だが、自分の出せる一番低い声を轟かせ、彼を睨み付けた。

「…。…また来るよ、鬼灯。」

逃げるようにして、白澤はその部屋を出て行った。

静かになった部屋で私はポツリと呟く。

「何が"吉兆の印"ですか。」

私は彼と寝るつもりも好きになるつもりもない。

何故ならば、彼に恋したところでその愛は偽りでしかないのだから。一夜の夢にしか過ぎないのだから。

何度も言うが、私は彼に落とされるつもりはことさらない。

私は不誠実な男が嫌いだ。
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