エルリ小説
□英雄の名は。
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ゆったりと休日の時間を満喫する。天気がいいと、この家からは遠くに山々が見える。この街は好きだ。何より、平和だ。
──ピンポーン
ドアホンが鳴る。
「…?…誰だ」
「母さーーん!俺のサッカーのやつどこに干してある?」
「リヴァイ!お願い!ちょっとエルヴィスので手離せないから出てくれないかな!」
「分かった。」
ドアを開ける。
「宅急便です!こちらにサインか印鑑をお願いします。」
渡されたのは、大きな封筒だった。
封筒には分厚い冊子が入っているようだが
何も思い当たりのないものだった。
「これ、あったよ、エルヴィス?ちゃんと探しなよね?」
「仕方ねぇだろ!いつもの場所に無かったんだから。」
「はいはい。どこかの誰かさんとおんなじで態度が大きいね!」
クスリと笑うと、こちらをチラリと見てくる。
「ん、宅急便?あれ?私に届くようなものあったっけ?」
「…………。」
「……え、アルミン…アルレル…ト…。これまた、懐かしい名前だね。」
「え、アルミン?誰?母さん。」
両親の反応にエルヴィスは半ば困惑した。
「巨人がいた頃の、戦友、かな?」
「ふーん?父さん…なにが、届いたんだ?」
『……巨人駆逐戦果を後世に残そうと思い、アルバム作成で資料を集めております。近々リヴァイさんがよろしかったら、今度お話ししたいです。資料を同封しました。……』
「見てみろ、ハンジ…これ、写真だぞ?一人一人の証明写真か。」
「………うん。こんなの、あったね。もう何十年前かな…すっかり、忘れてた。」
子供の前で、この頃を話すことは今までなかった。
いつか話すべきだと思っていた。
が、それが今であると確信した。「エルド…ペトラ…オルオ…」
並ぶ顔写真の上をなぞる。
どの顔も、もういない奴らの顔だった。
「エルヴィス。いいか?コイツらが、今の平和な世の中のために死んだやつらだ。ともに戦った、英雄だ。」
「……英雄…。」
「…!…」
「父さん…?」
「くそ…。もうどんだけ時間たったと思ってんだよ、くそっ…なんで」
なんで、今になって、涙が止まらないんだ。
溢れだした涙が頬を伝わって、落ちる。
「エルヴィンの奴…これしか、写真残ってねぇんだな」
まだ若く、緊張も混ざったその凛々しい過去の英雄の写真を指差す。
「いいか、エルヴィス。
これが、片腕を失ってなお、戦地の指揮を続け、巨人から奪還した、今を導いた英雄だ。彼こそいなこれば、きっと、今はない。
」
涙が止まらなくともなお、話し続けた。
今まで、俺は一度も泣いたことがなかった。閉じられた心が、今になって解けていくのを感じた。
「エルヴィン・スミス。彼は俺たちの恩人であり、──
────そして、お前の名はその英雄からとった。」
終わり