book1

□Prunus salicina
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春、進級とともに新しいクラスになる

仲良くなった子と別れるかもと思うと憂鬱になりながら校舎前に張り出される掲示板に向かう

掲示板の前には結構な人だかり


(あの中に入って自分の名前探さなきゃいけないのか…)


憂鬱な気分が更に落ち込もうとしている時


「あっ、奈々ー!」


一年の時から仲良しの智が掲示板の前に集まる人だかりから私を見つけて後の方へ出てきた


『おはよ、智』

「おはよー!ねえもうクラス見た?」


なんだかご機嫌な様子で私の両手をつかみぶらんぶらんする


『今着いたとこだから見てないよー?ご機嫌だけど、もしかして?』

「うふふ、そう同じクラス!やったねえ」

『ホント?よかったー』


二人できゃっきゃうふふしてると、緑の髪が横を通り過ぎて行く


智の視界にも入ったのか、その人を見ながらちょっと小さな声で話しかける


「そうそう、巻島くんも同じクラスなんだよ」

『巻島くんて、あそこの緑?の髪の』


うん、と私の発言に肯定した後、ちょっと近寄りがたいよね?って言っている

特に興味も無かった私は生返事をした後、教室へ向かった




・〜・〜・〜・〜・〜・




今日は授業はなく、一日準備みたいな日

まず担任の挨拶、その後新しい教科書などをもらい、二年になった生徒達へのよくある話なんかがあった

クラス委員などを決め終わると

少し時間が余ると先生が何かするか−?と言うと一部の人達が席替えしたいと言いだし、あれよあれよとクジが作られていった

出席番号順にクジを引いていく


(私の席は〜…)


喜ぶ声や落胆したため息やらが聞こえる中、クジの紙の番号と黒板に書き出された番号を確認すると、席は窓際の一番後

良い席に当たったことにひっそりガッツポーズをし荷物をまとめ素早くその席へ移動する


上機嫌に荷物を机にしまったりしていると、前の席に緑の髪、巻島くんが座った

巻島くんは少しキョロキョロした後、後に振り返って私を見て


「…前、見えるか?」


こっちを見た事に少しの驚きと、この席を死守したい気持ちで私は若干挙動不振で


『だ、大丈夫、全然見えるしちょっとななめればっ』


余計な事を口走り噛んで声も裏返った

とても はずかしい

羞恥心で耐えきれず机に顔を伏せた

向こうの戸惑いが感じられるので、気にしないで的な意味で片手を軽く上げ顔を伏せたまま本音を言う


『えー…良席だから変わりたくないという本音がありまして…だから、大丈夫デス』


小さい声でショっと聞こえて少し顔を上げるともう前を向いていた



席替えのすぐ帰りの礼で終わり、放課後になると智が奈々の席までやってきた


「奈々良い席でいいなぁ」

『ふふーん、いいだろー』


どや顔をすると軽くチョップを入れられた

智の席は真ん中の真ん中という微妙な席でやだなーと愚痴り、いいなーいいなーと言っている

あっ、でもと、突然止まる


「前の席巻島くんでしょ?前見えなくない?」


奈々より背高いでしょ?授業大丈夫?と心配してくれる


『大丈夫でしょ、見えなくても智に写してもらう!それに…居眠りには最適でしょ?』


なんて戯けて言えばまた頭を軽く叩かれた





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