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□ストレンジャー
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昔から、それこそ練習生時代から下手な女の子より可愛いと評判だった子で、俺も本当に可愛いと思ってたけど、今も中性的には変わりないけど、男としての成長も感じる。
特に背中に腕を回してみて、骨格が俺の知ってる華奢なテミンと全然違う。
比べれるまでもない。
「失礼します」
すぐに何かに気付いたテミンは、真顔になるとそう言って俺の着ていたTシャツを捲りあげた。
驚きすぎて無抵抗な俺を他所に、可笑しいなとぶつぶつ言いながら、次はジーンズのベルトを外そうとしだす。
これには流石に色々まだ把握できなくて、気が動転している俺も、テミンの手を上から掴んで静止する。
「ちょ、何んだよ?」
ピタっと止まったテミンだったが、また笑顔をにこっと浮かべて、事も無げに言い放つ。
「キスマーク探してるんです。昨日、恋人と盛り上がったんでしょう?」
茫然として、固まった俺を他所に、ニコニコと天使の笑みを浮かべたままテミンは、ベルトのバックルを外していく。
え?なんで男と付き合ってるのが、この子にばれてるんだ?
知ってたのは、メンバーとヒチョリヒョンぐらいだったはずなのに。
まさか、実はみんな知ってたとか?
にしても、まだまだ赤ちゃんみちたいに可愛いシャイニーにまで、バレてたってことか?
それってダメだろ?先輩として終わってないか?!
はっとした俺は、またテミンの手を掴む。
危ない。
ジーンズの前は広げられていて、下着見えてるし。
「な、なんで後輩のお前にキスマークを見せなきゃいけないんだよ?」
あまりに狼狽えてしまったせいか、どもってしまった。
けど、テミンはそんなこと気にも留めずに、俺が泡を吹いてしまいそうな事実を、さらりとこれまた言い放つ。
「だって、今の貴方の恋人は俺なんですから、知る権利あるでしょう?」
「え?なんて?」
「ん?知る権利ある」
「ちがう、もっと前」
「今の恋人は俺?」
「そう、そこ。誰が誰の?」
聞いた瞬間、テミンは一瞬片眉を上げて、嫌そうな顔をしたと思えば、今度はにやりと悪い顔で笑い、俺の首筋を掴むなり、触れるだけのキスをした。
そして、唇が触れないギリギリの距離で、こういうことですと楽しそうに笑った。
七年後、俺は七歳も年下に手を出す大人になっているという衝撃の事実に立ち直れずにいると、テミンは俺の心情を察したように、真面目な顔になる。
「ユノヒョンは、俺のことなんか全然意識してなかったですよ。もしかしたら、これがきっかけになっただけかも」
「これ?」
「だって、夢じゃないんですよね?」
俺も夢だと思いたいけど、そうじゃないみたいだ。
コクンと頷けば、なんか映画みたいだとテミンはクスクス笑う。
「映画?」
「こういう映画なかったですか?自分が死んだ未来に行って、誰と結婚してるのかとか、大きくなった息子に会うみたいな」
チャンミンが好きだと言った日本の女優さんが出ている映画に、そんなのがあったような気がする。
「多分、この出来事があって、ヒョンは俺を意識しちゃうのかもしれませんね」
確かに、自分と年齢の変わらないテミンを前にして、違った感情が湧いてくるのは事実だ。
俺の知ってるテミンは、まだ中学三年生で兎に角可愛い。
でも、意外に今でも既に男っぽくて、将来有望だと密かに事務所のスタッフたちには、評判だ。
「にしても、あの頃はただただヒョンに目を奪われてばっかりだったけど、実は疲れてたんですね?」
ぐっと顔を寄せてきたテミンが、そっと目の下に触れてくる。
隈でもできてるんだろうか?思わず自分でも触ってしまった。
「当然ですよね」
その言葉は、今の俺には知らないこれから起こりうる全ての出来事を知ってる人間の言葉だった。
何がこれから起こって、自分は何をしているのか、聞いてしまいたい衝動に駆られる。
だけど、聞いても結局は、結果は二つのうちの一つでしかない。
そう思いながらも、不安という名の恐怖に負けて、目の前のテミンに全てを聞いてしまいそうになる。
「今の、この時代の貴方も俺には眩しすぎますよ?」
そんな俺の心情をやっぱりこの子は、慮るのだ。
あんまりにも、優しすぎる目で見つめてくるテミンは、ほぼ同級生だと言うのに大人びていて、抱き締められたくなる包容力を感じさす。
今、2008年にいる俺たちよりも、よっぽど大人に思えるのは、何故なんだろうか。
「そっか。シャイニーは?ずっと五人か?」
俺の問い掛けに、目を丸くしたテミンは、噛みしめるように答えた。
「はい。危ないときも沢山ありましたけど」
同じ五人という構成に、やはり親近感を持って俺たちは接していた。
それだけじゃなくて、メンバー全員が本当に仕事だけが全てのように努力する子たちだったから、余計に可愛く思っていたのだ。
「流石、輝く子たちは違うな」
羨ましさから、零れた本音だった。
それにテミンは何も言わずに、茶化すような物言いをして、自分が開けた癖にジーンズのボタンとファスナーを直していく。
「今の俺には目の毒だ」
「確認しなくていいのかよ?」
俺の知らないテミンだとしても、実質後輩であるテミンに、弱い部分を見せたのが恥ずかしくて、照れ隠しにそう言えば、テミンは誰とユノヒョンが付き合っていようと、今の自分との関係には、絶対の自信があるから実は興味がない。
けど、今の俺が必要以上に隠すから、昔の俺を虐めたくなったそうだ。

「俺も結構独占欲強いから、ヒョンは隠したのかもしれないですけどね。何だかんだ俺なんかより、ずっと色んなこと考えてる人だから」
ちょんっと俺の鼻先を指で突っついたテミンは、俺の手を引いて立ち上がらせると、ベッドに座らせてくれる。
思えば、腰が抜けてからずっと床に座り込んでいたのだ。
「にしても、色っぽくて嫌になる」
「へ?」
「昨日、誕生日だったからかな?」
首を傾げて、舐めるように俺をじっと見たテミンは苦笑すると、あ〜とため息混じりに声を上げて、俺の首筋に顔を埋めた。
「お誕生日、おめでとうございます」
「ありがと、っ、いてっ!」
テミンが肩に歯を宛がって、じわじわとめり込ませていく。
きっと、昨日俺を抱いた男に嫉妬してるんだろうな。
なんで自分でも止めないのか分からないけど、そのままにさせておいたら、歯形がついただろうそこを、テミンが舐めた。
咄嗟に唇を噛みしめたから、変な声は出なかったけど、危ないとこだった。
「これ、浮気になるんですかね?」
今度は首筋に顎の下まで這い上がって、ちゅっちゅと口づけながら、そんなことを聞いてくるテミンに困ってしまう。
「テミンは浮気じゃないんじゃないか?」
「本人がそう言ってくれるなら、有難いです。あ、間違えないで下さいね?ユノヒョンの相手になんか気を遣ったりしませんよ?俺はユノヒョンにだけしか遣う気しかありませんから」
囁きながら、耳たぶを噛まれて背筋が震える。
「お前って、結構酷い性格だな?」
「どこが?だって、貴方を不安にさせるやつが悪い。確かにあなたは人たらしがちで、八方美人だけど、愛してあげたらちゃんと誠実な愛で返してくれる人なのを、俺は知ってる」
そんなとこが可愛くて好きなんですと、ほほ笑んだテミンは、俺をベッドに押し倒した。
「もっと意識してもらえるようなこと、していいですか?」
俺の髪を梳かしながら言うテミンを見上げる。
もう何もかも今は同い年のテミンの手の中にあるような気分だった。
自分の来た時代に戻れるのだろうか?とか、戻ったとしてもその先に待ち受ける困難と試練に、情けないくらい負けそうな気分だと言うのに、現実逃避染みたこの時間に、大丈夫だと言ってもらってるような錯覚を起こす。
俺の知らないテミンがそうさせてるのか?
それとも、俺がそう思いたくて脳を思い込ませようとしているのか。
「ユノ?」
きっと今、この時代にいる俺に呼びかけるのと同じていで今名前を呼んだテミンに、ドキっと胸が高鳴る。
そしてそれ以上に、胸が痛んだ。
未来の自分に嫉妬してるなんて馬鹿みたいだ。
今の俺にはいない、絶対的に信頼できる恋人を持つ自分に嫉妬するなんて。
「なぁ、意識させたいから抱くだけか?」
俺の本音に、テミンは目を丸くした後、笑った。
作り物の笑顔じゃなくて、素の表情で。
「ううん、愛してるから抱きたいだけ」
飾り気のない言葉が、無性に胸を打ったのは、暫くそういう言葉に飢えていたからかもしれない。
思い描く自分の未来を実現したいあまり、みんながみんな、優しさと言う名の感情を後ろ盾にして、下心を隠していた。
それが見えてくる癖に、見ない振りをして。
そんなことばかりしていたからか、冷えた心にテミンの真っすぐな言葉が、とても温かく感じた。
守りたいとか、慰めるようなことは決して言わずにただテミンは優しく俺を抱いて、大丈夫と言わんばかりに、愛情を注いでくれた。
そのことを不思議に思っている俺に、テミンはユノヒョンは自分に起きた全てのことを無駄に思わない人で、それすらも糧にする人だから、俺が出る幕じゃないんだと、誇らしくもあり、寂しいとばかりの苦笑を浮かべていた。
もっと今、同い年のテミンと色んなことを話したかった。
仕事のことや、将来の展望なんかも。
だけど、無性に眠くて眠くて目が開けてられない。
「疲れた?」
テミンの優しい声に、頷く。
「もっと喋りたいのに」
「喋れますよ、俺はヒョンから離れないから」
違うよ、今のお前とだよ。
そう思うのに、もう言葉にならずに俺は眠りの淵へと落ちていく。
現実と夢の世界とを行き来していた俺は、身体を揺さぶられている感覚に、うっすら目を開けた。
「ユノくん、大丈夫?」
「え?ユチョン?」
目を開けたら、そこは2009年の自分たちの楽屋のテントで、目の前には俺の顔を心配そうにのぞき込むユチョンの顔が。
「俺、昨日無茶させすぎた?」
耳元で囁かれて、咄嗟に首を横に振る。
「でもずっと寝てたよ?大丈夫?もうすぐ本番だけど」
本番、あ、そうか、SMタウンだった。
全然大丈夫だと笑い、立ち上がって伸びをぐっとすると、ユチョンが慌てたように捲れ上がったTシャツの裾を押さえた。
「どうした?」
「いや、俺、つけた覚えないんだけどな」
困ったなと、相当慌てるユチョンに、自分でTシャツの裾を捲って腹を見る。
すると、そこには見覚えのないキスマークが。
「無意識にしたのかな?」
ヤバイなと頭を掻くユチョンに、俺は鏡の前に立って、今度は首元のあたりをそっと摘まんだ。
すると、肩のつけに歯形がついてあって、さっきまでの出来事が夢じゃないと物語っていた。
ということは、この腰と腹のきわどい所についたキスマークも犯人は同一人物だろう。
衣装に着替えながら、未来で出会った可愛い恋人に思いを馳せて、こっそり思い出し笑いをした。
テントから出た所で、俺の知ってる可愛いテミンと出会い、初々しく挨拶するその頭を撫でれば、満面の笑みが零れる。
このテミンがあのテミンになるなんて、やっぱり想像できないなと思っていると、ユチョンに腰を抱かれて、耳打ちをされる。
「触り方、やけにやらしかったよ」
そんなテミンをやらしく触ったつもりはない俺が、怪訝な顔をすれば、俺の首筋を手で撫ぜた。
「くすぐったいだろ?いきなり」
何すんだよと笑えば、さっきユノくんがテミンにしたことしたんだと冷たい目で見られた。
「え?こんなことしてないし、頭撫でただけだぞ?」
「性質が悪いな」
それだけ言って、すーっと何処かに行ってしまったユチョンを追いかけようとすれば、ヒチョリヒョンに肩を組まれる。
「痴話げんかか?拗ねたら、あいつ結構ややこしいんだろ?」
「分かってんなら、行かせてよ?ヒョン」
「無理。おもしれーもん。お、テミン。ユノヒョンがダンスでアドバイスあるってよ」
心底面白がった顔をして、ヒチョリヒョンは仕掛けるだけ仕掛けると、何処かに行ってしまった。
呼び止められたテミンは、シャイニーのヒョンたちの集団から抜けてきて、俺を嬉しそうに見つめてくる。
アドバイスなんてないのに。
どうしょうかと悩んでいると、テミンがヒョンみたいにセクシーでかっこよく踊れるようなアドバイスくれるんですか?と問い掛けてくる。
「あ、でも教えてもらってもまだ僕には実戦は無理ですけどね。色気がないから」
「心配しなくても、お前はセクシーな男になってたよ」
「え?」
テミンの大きな目が、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
当然だろう。突然先輩がわけわかんないこと言い出したんだから。
どう誤魔化そうと内心狼狽えていた俺を、ぶすっとしたユチョンが、早く行くよ、ユノとスタンバイへと連れ去った。
助かったとほっとした俺は、じっと俺とユチョンの後姿を眺めているテミンの視線には、気付いていなかった。



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2015 1206
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