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□かま騒ぎ
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「やだ、そうなの?ざんねーん」
甲高いオカマ特有の声と、七福神のえべっさんばりにふくよかな巨体を、左右に揺らしてぶりっ子したホドンは、赤いランプが点滅しているカメラに目線を送ると、ビデオレターまで撮り出した。
「ユノさぁぁん!!見てる?ネコでもいいわ、ホドンお金だけはいっぱいあるから電話して?一回のデートはいくらから受付可能?」
見事な機転の効いた返しだった。
スタッフも緊張感から解放され、安堵から脱力してよろけたりもしている。
すかさずホドンの笑いのバトンを受け取ったのが、キャラクターの面白さから最後列にいるキーだった。
「ホド子みたいに物欲は満たせてあげられないけど、食欲は満たせてあげれるキー子も、ご連絡お待ちしております」
独特のファッションセンスが話題を呼び、今ではおしゃれ女子が毎週キーの衣装をチェックするために、番組を見ているのだ。
「ここにいる何人が料理得意だと思ってるのよ?きー子。それにお金は邪魔にならないけど、料理に重たい愛情ぶっこまれると、胸焼けするわよ。胃薬とお友達状態になるわ」
ウィンクまでして、愛嬌ばっちりに決めたキーに、強烈な突込みをいれたのが、最前列の司会者席よりの端に座ったキュヒョンだった。
ヲタク気質のあるキュヒョンは、ゲーマーから尊敬される偉大な存在だが、この番組における存在意義は、ちょっと不細工な白人がタイプの男たちへのささやかな贈り物と言ったところか。
ヲタク気質と病弱さを物語る肌の白さと相反して、下半身はでっぷりとしており、お尻も比較的どっしりしていて、悪く言えば下半身デブなのだが、こういうのが好きな男もいるらしく、その需要に答えるために、キュヒョンの衣装は、いつもミニスカートだ。
「あら、胸焼けを起こしたくても起こせないキュー美が、えっらそうに言うわね?」
キュヒョンを瞬殺したのは、彼の親友のチャンミンだ。
キュヒョンとは間逆の、最前列のモニター側の端に座っている。
たれ目とぷっくりとした涙袋で、小動物系の可愛い顔の代表格みたいな顔立ちのチャンミンだが、その外見の甘めの容姿に似合わず長身で、メンバーきっての毒舌だ。
そのギャップがいい!!と、韓国というよりは海外のファンから根強い人気がある。
特に日本人の男たちと女性からは、絶大な人気を誇っている。


「ミン子、私にそんな口聞いていいと思ってるの?」
「なに?キュー美、本当のことを言う番組だから、私はルールに従ったまでよ?」
前から三番目の列の真ん中に座っていたミノが、二人のやり取りにおろおろし出す。
番組恒例のギュラインの図である。
ミノは二人に可愛がられているため、二人が口撃しだすと、おろおろして身を乗り出してしまうのだ。
いつもそれを隣に座るドンヘが、まぁまぁ心配すんなと宥めている。
「なら、私も隠しちゃダメよね?」
勝ち誇った顔で笑うとキュヒョンは、大きな声で言い放った。
「貴方がユノさんのモニター写真をガン見していたの、私が気付かないとでも思い?顔に似合わず、むっつりなのはアンタの長所よ」
どっと笑いの波がスタジオに押し寄せる中、ユノの恋人のテミンだけはやる気なく、スカートだというのにど真ん中で大股開きで座り、終始無表情だった。
これには、その秀でた美貌も相俟って、大物女優の風格が漂い、不機嫌な大物女優みたいな新人が来たぞ!!とかま騒ぎファンのネズチンたちの間で、騒がれ、バリタチのテミンの様子にネコファンも放送されたその日のうちに、沢山ついたという。
こうして恋のかま騒ぎは、今日も五月蝿く幕を閉じるのであった。


ピっとテミンに見つかる前に、テレビを消したユノは、録画したデスクもいそいそと見つからないように隠すと、ソファに座り、相方の白いテディベアに話しかけ出した。
「テミニ、本当可愛いし、綺麗だったよな?やっぱりセンターだったし!でもあれじゃテミニの良さが伝わってないよな?テミニの可愛さはあんなもんじゃないよな?くまさん?笑顔がさぁ、めちゃくちゃ可愛いんだから。もっと愛嬌見せさすためにはどうしたらいいんだろうな?」
クマさんは、喋れないながらに思う。
ユノが番組に出たら、笑顔見せるんじゃない?と。
クマさんの思惑が、ばっちりプロデューサーとシンクロしているのは、また別の話だ。





「お題は、ひと夏のアバンチュールから恋人になれるかどうか」
ホドンがモニターに映し出された文字を声に出して読むと、今日も良質な筋肉をつけた足を放り出した彼女?たちが次々と、お喋りで時には騒音になりそうな口を動かし出す。
ざわざわと文字通りスタジオが五月蝿くなったところで、本日の口撃の火蓋を切ったのは、イトゥクだった。
「ヒチョ美が一番そういうの詳しいんじゃないかしら」
ロングストレートのウィッグを耳に掛けながら、スホを挟んで隣に座るヒチョルの顔を前傾姿勢になって覗き見る。
「やだ、イト子。変なイメージを視聴者に植え付けないでくれる?いくら私が可愛くって美しいからって、僻んじゃ、ダ・メ!ひと夏の恋の経験は・・・想像したことはあるけどないわ、とてもじゃないけどヒチョ美にはむりぃ〜勇気がないもの」
今日も聞いてるこっちが、むず痒くなるぐらいの高い裏声を使い、俯き加減で恥かしがり屋な女子演出して反論したヒチョルだったが、ぽろりとドンヘが零してしまった言葉のせいで思いもよらない告白をしてしまうことになる。
「でもヒチョ美姉さんの恋は、夏の終りとともに終わるからトークテーマにそぐわないわ」
ドンヘは、本人は天然という意識がないようだが、たまに破壊的なド天然さを発揮する少し馬鹿な残念な子なのだ。
草食動物を彷彿させる目の離れ具合といい、性格もまんま草食系で、男の格好だと、一部の女子からイケメンと称される部類らしい。
本人がみんなの彼氏と言うからには、それなりの理由があるようだ。
そんなドンヘは、ヒチョルと付き合いが長いせいか、みんなが避けて通る道を空気の読めなさから、堂々と通ってしまうときがある。
まさに今がその時だ。
しかし、この草食動物が肉食動物(ヒチョル)の餌食になることはない。


各々、必死に笑いを堪えて、肉食獣の獰猛で凶悪な視線から逃げを打っている最中、耐え切れず小さくだが、笑い声を漏らしてしまったのが、二列目に座っていたウニョクだ。
しかも、丁度ヒチョルの後ろだっただけに、まともに睨みつけられてしまった。
「ちょっ、ドン子ったら!違うのよ!?ヒチョ美姉さんの場合は、アバンチュールじゃないの!本気なのよ?だけど続かないのよ」
慌てたわりには、ナイスフォローでも何でもない、もっと悪い真実を暴露してしまうウニョクに、ホドンは大爆笑し、他メンバーは心の中で思った。
今日こそ、その長い歯茎を削られるぞと。
「あん?わざとだよ。わ・ざ・と。キムヒチョル様の本気を受け止めんのも、疲れちまうんだよ。だから相手を思いやって、別れてやってんだよ。これがお前なら一生本気で愛してもらっても、物足りないだろうがな?」
ドスが効いた本来の声でヒチョルは反論し、気が済むなり、やだ!!今ヒチョ美に悪魔がとりついてた、こわ〜い。なんていう白々しい演技を一通りこなすと、隣で魂を飛ばした状態で、ぼけーっと座っているテミンを肘でつっついた。
「テミ子は、アバンチュールから恋に発展したことあるの?」
急に話を振られたテミンは、注意散漫だったこともあり、何拍か間を空けてしまう。
すかさずその間に、滑り込んできたのがキーだった。
「聞いてくれますか?キー子、実はこの間、アバンチュールしたいっていう人と出会ったんです」
キーの唐突な告白に、テミン以外のメンバーは後ろを向いて、話をするキーを注視する。
「でも、その人・・・恋人がいらっしゃるみたいで」
つらそうな表情で話す、キーの表情に釣られて、周囲の表情も同じく硬くなっていく。
「え?それでお前、恋人いる人と、その、しちゃったのか?」
設定をばっさり切り落として、真剣な顔つきで質問してしまっているのは、ミノだ。
その真剣さを如実に物語っているのが、眉間の深い皺。
普通にしていると可愛いのに、男の表情になってしまうと途端に、ミノの女装はクオリティが下がってしまうから、残念だというのは恋かまファンのネズチン、みんなの共通の想いである。
「したかったんだけど、できなかったんだ。その恋人さんが、彼はネコだって言ったから」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」」」」
会話をしていたはずなのに、一瞬にして会話の意思疎通ができなくなってしまう会話も珍しい。
話を聞いていないテミンを除いて、スタジオにいる全員がハテナマークを盛大に浮かべている中、椅子から立ち上がったキーが、カメラマンさん!!と自分にカメラをスイッチングするように要求するなり、両手を広げて、満面の笑みを刻んだキーは、愛嬌満点の可愛い声ではっきりと言った。
「ユノさん、貴方とアバンチュールがしたい!!」
そして手でハートを作って、ウィンクした途端、辛辣な言葉が銃弾の如き強さと速さで以って、飛んできた。
「一言言っておくけど、ユノヒョンは面食いだから」
ボソッとやる気のないテミンの口から出て来たのは、どこまでも平坦な声だったが、キーの胸を叩きつぶすには、絶大な威力だった。
いや、少々強すぎたと言えよう。
自分自身のビジュアルに自信などないキーは、床に崩れ落ちた。


「ちょっと、テミ子。貴方と同じ列の端の子が、なら俺いけるじゃんって顔してるけど、どう?」
にやにやとしまりのない顔つきのキュヒョンが、何処かほっとしている様子のチャンミンを目で追いかけながら訊ねれば、詰まらなそうにウィッグの髪の毛の毛先を指でつまんでいたテミンは、ちらっとチャンミンを一瞥するとすぐに毛先に視線を戻して、先程よりも冷たい声でこう言ったのだ。
「美白パックしてから出直したらいいと思います」
テミンの回答に大満足したキュヒョンは、椅子から転げ落ちながら笑い、そんなキュヒョンに駆け寄って、チャンミンは足蹴りを食らわし、ヒチョルはお?俺いけんじゃんと誇らしげにいい、ホドンはエステに電話予約をするために、もうお開きだと言うのであった。
本日も、かま騒ぎはこうして、やかましく幕を閉じた。

ピっとテレビを消したユノは、何やら不満そうに唇を尖らせる。
抱っこしているテディもぎゅーっと潰れて痛そうだ。
「一回目よりも二回目の方が可愛くなくなってる。」
あ、そういう不満ですか?ユノさん。とクマは思う。
だから、ユノさんがスタジオに行けば解決するよ?とクマは今日もユノに意志だけで伝えようとするのだった。




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