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□レイドバック
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「お前さ、テミニヒョンのこと好きなの?」
俺が今吐き出したばっかりの精液を、日焼け止めでも塗るかのように、指で腹筋の上に広げながら、ジェジュンは言った。
「ン、突っ込んだまま、言うことか?それ」
「だって、エッチしてる時が一番素直じゃん?お前」
それに可愛いと耳に囁きながら、舌をねじ込まれる。
ぐっと前傾姿勢になったせいで、中に入ってるジェジュンのが、最奥を掠めていく。
吐き出しばかりで冷め始めていた熱が、再び呼び戻されてしまいそうだ。
「ぁ、っ、俺を抱いてるお前も、相当可愛いけどな?」
さらさらの髪に手を差し込んで、自分の体に引き寄せてしがみつく。
足も腰に絡みつければ、ぐっと繋がりが深くなって、接合部分がぐちゅっとやらしい水音を立てた。
それだけでまた火がついて、腰を自分でゆっくり動かして、いいところに当てる。
「はぁ、あ、じぇじゅっ、も、うごけっ、あん、あ」
「エロっ。訂正、お前はエロ可愛いわ」
たまんねぇと言ったジェジュンは、試合中にもよくする下唇を舐めるという癖を、しているに違いない。
「んぁ、ああ、そこいいっ、!」
がつがつと再び腰を振り出したジェジュンの白い肌に爪を立ててやった。
さっき無粋なことを言った罰だ。
これで暫く彼女とセックスできないだろう。










シャワーを浴びてさっぱりした俺は、後は寝るだけと、バスルームのドアを開ける。
すると、チャンミンが仁王立ちで立っていて、しかも般若の如き形相で、思わずひっ!と変な声を出して、後ずさった。
猫の首根っこを掴むように、俺のTシャツをびりっと嫌な音が響くほど掴んだチャンミンは無言で歩き、ベッドの上で正座させられてるジェジュンの横に、ぽいっと俺を放った。
「正座」
有無を言わさない厳格な声が、狭いホテルの部屋に響く。
最早命令のようなチャンドラの言葉に、従順に従う。素早くジェジュンの隣に正座をすれば、最後の最後まで説教をさす優秀な先輩たちには、感謝しかないと言って、冷めきった視線を俺たちに満遍なく向ける。
そうか、チャンドラの説教も今日で最後になるのか。感慨深い気持ちになるなー。
「今日は絶対しないって言いましたよね?セックス。だから一緒の部屋になることを許可したんですよ?僕は」
そして始まった恒例のお説教。
腕を組んでため息を零すチャンミナは、監督よりも怖いけど、最後だと思えば何だか寂寥感で胸が締め付けられる。
有り難く拝聴しなきゃな。うん。
しかし、改めて思う。
年下なのに、何でそんな威厳に満ち溢れてるのかな〜。
次期キャプテンは、真面目だからお前らの代より俄然やりやすくなると、春高優勝で本日故郷に錦を飾ったチームへの賛辞すら忘れて、言い放った監督の嬉しそうな顔が、この状況になって頭を過った。
納得だ。
チャンドラが居れば、チームも大丈夫。
「チャンミンくん、童貞の君には分からないのか?俺が被害者だってことが」
そんな俺の感傷を踏みにじるかのように、聞き捨てならない言葉が、親友の口から飛び出す。
「ジェジュンっ!!」
裏切ったな!!
きっと睨みつけても、ジェジュンはチャンミンに、自分の無罪を訴えることに必死で、俺の方を見向きもしない。
「ユノヒョンが艶やかでセクシーなのは、昔からでしょう?親友のアンタがそれを知らないとは言わせませんよ?なのに、同室になった。もはやアンタは被害者でも何でもない。寧ろ、完全犯罪を企む凶悪犯です。優勝して、アドレナリン爆発してるユノヒョンが、誘いかけてこないはずないでしょうが。何か異議申し立てがあるなら、受け付けますが?お?」
淀みなく淡々と言葉を紡ぐチャンミンに、俺はお〜、とただただ感嘆して、手を叩いた。
凄いな、チャンミナ。
学年トップの頭は、伊達じゃない。
「チャンミナ、凄いな?お前、弁護士になれるぞ」
「待て待て待てえええええ!!一番大事な公平さを欠いてるじゃねえか!お前は、ユノの弁護人じゃないだろ?!あ?裁判官は平等に判決を下すもんだろうが!?だいたい童貞のお前に、俺の親友を抱くという複雑な葛藤は分かるまい!ユチョン!!俺は、ここに弁護人のユチョンの召喚を要請する」
「ありがとうございます、ユノヒョン」
喚きたてるジェジュンは華麗に無視をして、俺ににっこりと品良く笑ったチャンミンは何故か俺の頭を撫でる。
気持ちよくて、思わず目を瞑った。
「って、お前・・・。俺の話は無視か?」
「っるさいですね〜。てか、アンタに葛藤なんかあるんですか?抱く以外の選択したことあったか?お?してから物言え。この俗物」
「アンタだ!?おまっ、仮にも先輩に何だ、その口の利き方!!」
「反論できないからって、突っ掛からないで下さい」
ヒョンの話は聞くだけ無駄ですと、滅多切りにするチャンドラ。
これには流石に、ジェジュンが不憫になった。
「チャンドラ〜、俺が悪いんだ。その、したくてジェジュンに同室になってって頼んだから」
ごめんなさいと、頭を下げれば、またチャンドラの手が俺の頭を撫で出す。
この感触好き。
テミニヒョンを思い出すから。
テミニヒョンも俺が苦手なレセプション(サーブレシーブ)を頑張ったら、頭を撫でて褒めてくれた。
「チャンミン、お前名残惜しさから、俺らの部屋来たんだろ?ユノをそんな風に撫で撫でできることもなくなるもんな?」
と言うより、ジェジュンとのこんなやり取りもできなくなるから、来たんじゃないのか?
ちらっと窺うようにチャンミンを見れば、部屋に何のために来たのか、当初の予定を思い出したとこだったらしく、少し気まずそうに話し出す。
チャンミンがこんな表情するなんて、珍しい。
「ユノヒョン、ミノに聞いた話なんですけど」
チャンミンには、一つ年の離れたミノという弟がいる。
「うん、ミノがどうかしたのか?」
テミニヒョンが通っていた強豪校で、一年にしてレギュラー入りを果たしている有望株だ。
確か、今年はベストエイトで負けたんだったけ?
「テミン先輩が、バレー辞めるみたいだって言ってたんですよね」
「え?」
頭が真っ白になった。
だって、あのバレーボールのことしか頭にない人が、バレーから離れられるわけがない。
一日中ずっと空中姿勢を研究できるような人が?
バレーを辞めて何をするんだ。
「まぁ、そうだよな。いくら春高で二連覇に導いた超人だとしても、あの身長じゃ進退考えるよな・・・。テミニヒョンって、来年大学卒業だったけ?」
「そうですね。でも実業団からは、オファーは来てるみたいなんですけど・・・。今日はお祝いの差し入れ持って、ホテルまで来てくれるみたいなんですけど」
「その話に触れても大丈夫なのかの、相談ってわけか?」
「はい」
「あ、ユノ!」
居ても立っても居られなくて、部屋を飛び出してロビーに降りた。
決勝で戦った奴らが、今度の世界ジュニアの件で話しかけてくるけど、俺はもうそれ所じゃなくて、広いロビーへ隈なく視線を向け、テミニヒョンを探す。
ロビーの外にある車付けまで出ようとした所で、丁度テミニヒョンがユノ!と笑顔で声をかけてくれた。
両手一杯の荷物を、半分持てばユノの好きな苺のケーキだよ?と綺麗な顔で、更に綺麗にヒョンは笑う。
大好きなケーキも、ヒョンの笑顔も何だか今日は曇って見えてしまった。
「ん?どうした?MVPにも選ばれて、優勝もしたのに浮かない顔して。あ〜、分かった。後半のからきっしダメになったサーブ気にしてんだろ?体重後ろに乗ってるわ、ボールにミートしてないわ、ドツボに嵌ってたもんな?ああいう時は、ドライブかけて」
「ヒョン、バレー辞めるって本当?」
思いきって話をきりだせば、ヒョンは困り顔で笑った。
「リベロは嫌だからね」
「リベロでって言われてるの?」
ヒョンは目を丸くして驚いた。
実業団からのオファーの情報も、俺が知っていたからだろう。
「違う。けど、やれてもせいぜいピンチサーバーだよ。セッターに今から鞍替えできるほど、プロは甘くもない」
手詰まりなんだと、現実を噛みしめるように呟くヒョンに、納得がいかない。
突然立ち止まった俺に合わせるように、ヒョンも立ち止まる。
「ヒョンが、自分で自分の可能性を潰してることが俺は許せない」
「どこの世界に、175のエースストライカーがいるんだよ」
「ヒョンなら初めてになれるよ?」
分かってないよ、ヒョン。
自分の才能を。
優勝したさっきですら、出なかった涙が出そうになる。
ぐっと奥歯を噛みしめて我慢すれば、真っすぐ視線がかち合った状態のヒョンを、睨みつけてるみたいになった。
「ユノ、お前って今何センチだったっけ?身長」
「183?かな?」
「男の成長期は長くて大学一年まで。だからユノも、もう背が伸びない確率の方が高いだろう。でもお前はバレーセンスの塊みたいな人間だ、十分世界と渡り合えると思う」
大学に入学したら、すぐにバレー留学しろ。
ヒョンは、ヒョン自身の話はしてくれずに、そんなことを言い出した。
俺はもう将来は、プロになろうと思ってる。
だから、ヒョンの助言は有難いけど、今はそんなことよりも、ヒョンの話がしたかった。
「ヒョン、」
コートの袖口を掴めば、試合をしている時にだけ見せる真剣な横顔が、ボソリと呟いた。
「挑戦もせずに、逃げるなんて俺はただの馬鹿だな」
もう俺は何も言わなかった。
覚悟を据えたヒョンの顔が、俺の好きなかっこいいヒョンの顔をしていたから。



テミニヒョンは、俺がずっと憧れてた人だ。
あの人のフォームが凄く好きで、真似をしょうとした。
世界のどのトッププレイヤーよりも、耐空姿勢が美しかった。
ジャンプサーブもそうだ。
春高で連覇と共に、二回ともMVP選手にも選ばれたスター選手で、高校時代結局ヒョンに、俺は及ばなかった。
優勝して、MVP選手に選ばれても。
一回しか、成し遂げられなかったわけだし、その一回もテミニヒョンの手を借りてだった。
ヒョンとの出会いは、小学六年の頃。
世界U-23の招集を受けた時だった。
ヒョンは中学三年で、もう既に何もかも上手くて、俺はこの人みたいになりたいって思ったんだ。
そう、永遠の憧れだった。
昔は。
今は、気付いたら憧れ以上の感情がすくすく育っていた。




瞬間的に、ヤバイ!と思って、手を右に逸らしたというのに、手首にボールとぶつかった感覚がした。
俺の手に当たったボールは、綺麗に相手側のコートのサイドラインを越えて、ワンバウンド。
今日何回目か分からないブロックアウトで点数を、テミニヒョンにもぎ取られた。
くそっ!何回同じことされてんだよ!
悔しさのあまり太ももを叩けば、ミドルのクリスがドンマイと俺の背中を撫ぜてくれる。
「逃げるよりも、シャットアウトのやり方を覚えろ。脇が締ってない」
ネットを挟んだ場所で言われ、むっとする。
分かってるけど、どうしてもヒョンには出来ない。
この人が、身長が低い理由から死ぬほどブロックアウトの練習してるからっていうのは、言い訳でしかないのも分かってる。
それに何よりできない自分が悔しい。
スタメンとリザーブに別れ、今は試合形式の練習だ。
これが終われば、地獄の時間が待ってる。
レセプションに弱い俺のために、チームで一番サービスを狙える強力なサーブの持ち主のテミニヒョンのサーブを、20本綺麗にセッター位置にレシーブできるまで帰れないという特別な特訓が。
バレーは好きだけど、この自分の力量不足をまざまざと見せつけられる練習は、他の練習の比じゃないくらいどっと疲れた。
「ユノは、スパイク打ってるときは、羽根があるのにね?」
地獄の時間が特訓が終わり、二人だけで体育館の隅でストレッチをしていれば、寝転がった状態のヒョンが言った。
「羽根?」
「うん、羽根。ぴよぴよ飛んでるよ?お前」
「褒めてるの?それ」
「褒めてるよ?たまに上で止まってるように見えるし、かと思えば最高到達地点に行くのが速かったり」
見てて楽しいとヒョンは歯を見せて笑う。
「でも羽根がついてても、ヒョンをブロックできてないし、レセプション悪い」
「そんなの追々だよ。お前まだ十代だろ?やだよ、いくら次世代のエースでも、ユノにまだ全部は負けたくないし」
起き上がると、ヒョンは徐に俺の手を握った。
「また爪伸びてる」
代表の合宿中は、ずっと同室だ。
ヒョンは部屋に帰るなり、爪切りを出してきて、俺の爪を切ってくれる。
「ユノの手って綺麗だよな」
しみじみ呟かれ、自分の手に視線を落とす。
ジェジュンもよく褒めてくれるけど、俺はこの手が何だかカニの足みたいに見えて好きじゃない。
「しかも、こんな所に黒子あって、ちょっとエロいし」
中指の付け根にある黒子を、ヒョンの手が触る。
触るというよりも、手で嬲られてるようなやらしい触り方で、ぞくっとした。
「やらしくないよっ!」
そんな触り方されると、変な気分になりそうで、思わず手を引っ込めれば、ヒョンの視線が俺の顔に止まった。
「でも一番やらしいのは、ここだけど」
にこっと笑ったヒョンは、唇の上にある黒子を親指で、押しつぶすようにむにっと触った。
「でも、ここが何気に一番お気に入り」
ヒョンの顔が近づいたと思ったら、下睫毛の生え際を唇で啄まれる。
そこにも確かに黒子はあったけど。
何してんの?ヒョン?
意味わかんないよ。
びっくりしすぎて、ぽかーんっとした俺を気にすることなく、ヒョンは爪切りを再開しだした。

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