ばらかもんたんぺん
□東京の恐怖
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「半田先生、一日お世話になります」
案内された部屋で、机を挟んで向かい側の半田先生にお辞儀をした。
「ああ、ゆっくりしていきなさい」
相変わらず渋くてダンディなお方……。こんな両親から美形の清が産まれるのも納得出来る。
半田先生が返事をすると、奥からえみさんが顔を出した。
「部屋の準備出来たわぁ。荷物どうぞ」
その声に返事をして立ち上がると、清が藁にもすがるような目でこっちを見てくる。
「自分のお父さんでしょ」と視線で伝え、半田先生にお辞儀をすると振り返らずに部屋を出た。
えみさんは来客用の部屋に通してくれた。相変わらず純和風。そして畳の香りが素晴らしい。
「ふふふ、私の部屋でも清さんの部屋でもいいのよ?」
「遠慮しておきます」
おちゃめな冗談に真顔で返すと、荷物を置いた。ふとあることを思い出す。
「そうだ、遅れてすみません、お土産です」
荷物から取り出したお土産をえみさんに渡す。えみさんは包みを見て「お煎餅! ありがとう」と笑った。
そんな笑顔に和んでいると、廊下からドタドタと騒がしい足音が響く。
そして私の部屋の前で止まると、律儀にノックした。
「おいレイ! 今すぐ川藤のとこ行くぞ!」
ドアを開けながら「なんでよ」と返せば、清は「久しぶりのあの空気に耐えられない」と蚊の鳴くような声でつぶやいた。
「子どもか。しょうがないな、フジに今どこにいるかメールするから」
質素すぎる内容のメールを送ると、一分も経たないうちに返ってきた。
「……ここの家の前だって」
「……神崎」
「でしょうね。えみさん、ありがとうございました。ちょっと出かけてきます」
振り返り、えみさんを見た。にこりと笑って手を振ってくる。
「ええ、行ってらっしゃい」