ばらかもんたんぺん

□東京の住人
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「……」

「おーい」

「…………」

「おーい?」

「………………」

「おいっ! ガン無視か!」

清が怒ったような声を出す。そこに私の裏拳が飛んだ。

「ちょーっと黙っててくれる……?」

冷や汗を大量にかきながら清に吐き捨てた。彼は何かに気づいたかのように少し目を見開く。

「……薬忘れたのか」

なんでこういう時だけ察しがいいのかなこの書道家は!

「そうですよ悪いですかほっといて今なら悟り開けそうだから」

「んなもん開くな」と呆れたようにつぶやいた清はポケットを漁る。そして何かを私に差し出した。

「ほら、酔い止め」

「うわああああああなんで持ってるのサンキュージュノンボーイ!」

「……」

私は急いでその薬を飲む。ああ、やっと落ち着ける……。

何故酔い止めが必要なのかと言えば。私が乗り物に弱いのもあるけど、そもそもの話ーー

現在、大空の上にいるから。

つまりは飛行機です。めっちゃ揺れる。

「ジュノンボーイはともかく、だいぶ前お前が酔い止め忘れた時に散々な目にあっただろ、だから川藤に持っとけって言われてて」

いやあよかったよかったさすが俺、と自惚れに浸っている清をジト目で見つめた。

「……散々な目に、って、私乗り物で吐いたことは一回もないんですけど。少なくともあんたらの前では」

「俺らの前じゃなかったら吐いたことあるのか……。いやほら、この世の終わりを嘆くやつみたいに騒がしかっただろ」

どんな比喩表現だよ。

そうツッコみたい気持ちを抑えて、椅子に深く座り直した。窓の外を見る。いつものありきたりな空だった。でも、綺麗。

酔い止めを清に返し、一息ついた。

「にしてもびっくりしたわ、東京にお呼び出し、しかも許してくれるんだって? あのカンチョー様が」

昨日、突如家に来た清が言った言葉、「東京に帰るぞ」。さすがの私もびっくりした。3回くらい聞き返した。怒られた。

「そのニュアンスだと今度はお前が怒られる番だな」

「……言うなよ?」

「言えるかよ」と清に冷たく返されたが私はめげない。

「……東京、ねえ」

晴れ渡った雲の上、密かな不安を抱えながら、鉄塊は大空を飛んでいく。

……そういえば、お父さんの原稿の締め切り、もうすぐだったな。

思い出したくもないことを思い出し、胃がキリキリと悲鳴をあげた。
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