ばらかもんたんぺん
□面倒臭がり
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「はー、エアコンのきいた部屋ほど夏場のオアシスはないね」
誰もいない自分の家の部屋でソファに寝転びそうつぶやく。一人暮らしは独り言が言えて気が楽だ。元々独り言の多い清が羨ましくなる。
ふと突然鳴りだすテーブルの上のスマホ。手を伸ばして手繰り寄せ、発信者を画面で確認する。
「げっ、担当編集……」
凄く嫌な予感しかしなかったが、これも社会だと割り切って通話ボタンを押す。
「もしもし」
『あっ鹿田先生、島に無事着きました?』
明るい声色のまだまだ若い女性。いつも迷惑をかけてて申し訳なくなるけど改善する余地はない。
「つい先日に」
『そうですか、それはよかったです』
ところで仕事の話なんですが、との言葉に「ああ怪我したって言っとけばよかった」と内心後悔した。
『次回作の原稿まだですか? そろそろこちらに送ってもらわないと……』
「いや……あの……うん」
言葉を濁した私。数秒間気まずい沈黙が流れた。
『……まさかあのネームから全然進んでない何て言いませんよね?』
焦りを隠すようにそう言う担当編集。冷や汗がとまらない。
「あははは、何てこと言うの。まさかそんなわけ」
『鹿田先生』
「はいごめんなさい全くやってません」
ソファの上で土下座すると、電話の向こうから深いため息が聞こえた。
『だから言ったじゃないですか、先生は東京ですらギリギリなんだから、島じゃやってけないって! 私もアシスタントさんもいないんですよ! ことの重大さがわかってるんですか!』
キーンと頭に響く叫び声。さすが女性の声と言える。感心してる場合じゃないけど。
「うへへごめん本当ごめん、でもアシスタントさんはこっちにもいるし」
『突然のリストラの形になったアシスタントさんがその言葉聞いたらどうなりますかね』
やめて! やめて! そういうのやめて! めっちゃ心にくる。いや、でも別のアシスタント先手配しといたし大丈夫だよね、ウンウン。
『とにかく! 来週中には終わらせてくださいね!』
「来週中?!」
突然の宣告に今までにないくらいの大声で叫ぶと、電話が意図的に切られた。あっこれあの子本気だ……本気だ……。
数分間の通話時間をボーッと見つめる。ああ、もう無理かな。楽になりたい。でも漫画描くの楽しいしな。
そんな現実逃避してたってどうにかなるものじゃない、と悟った私は、鉛以上に重たい足取りで外に向かった。
「タマ連れてくるついでにお土産渡してまわろ……」