ばらかもんたんぺん

□やってまいりました五島
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「はー、飛行機狭かった……」

相変わらず誰もいない島の空港。東京とは違うこの空気は昔から好きだった。

伸びをして周囲を見渡す。ここら辺につい最近東京で買った新車が着いてるはずなんだけど。

……ないね。

郷長に任した私が馬鹿だったね。あの不精なおっさんがやっといてくれるはずないか。

ため息をついて、村のほうへ歩き出す。

別荘についた後に清の家に顔出さなきゃな。確かお隣さんだったはず。森挟んだお隣さんだけど。

あー、郷長別荘の掃除してくれたかな。急な話だったから子どもたちに頼めなかっただろうし。

……そういえば子どもたちに、私がこっち来るの言ってなかったな。引越しってワケじゃないから引越し業者もきてないし、全く気付いてないんじゃね。郷長にも他言無用って言っちゃったし。

照りつける太陽の下、帽子もなしに歩く。東京の引きこもりがちの生活や生まれついての体質もあって白かった肌がじりじり焼ける。私焼けても黒くなった後三日くらいでまた元通りになるからなあ。

丁度通りかかった自動販売機の前で止まる。コーラとオレンジの炭酸飲料を二本買うと、オレンジの炭酸飲料をその場で飲み干した。あー、生き返る。

体力の限界を感じて、運よくなるのじいちゃんが通りかかるのに希望を託し、その場に座り込んだ。みんなに買ってきた東京のお土産が重い。十個以上あるしな。重い。重い。つらい。

東京ガールのメンタルが崩壊しかけたころ、遠くから念願の、懐かしい音が聞こえた。

「こ、この音は……!」

立ち上がって荷物を引っ掛け道路のど真ん中に出る。

ドッドッドッドっとやたらうるさい音を響かせたそれは、すぐにこちらにやってきた。

「じいちゃぁぁあああん!」

思いっきり降る腕に気付いた様子のなるのじいちゃんは、うるさい車を止めて私に向かって叫んだ。

「なんだぁ、レイかぁぁあ?!久しぶりだのぉぉお?!」

ドッドッドッドっていう音がうるさくてあまり聞こえない。しかし辛うじて聞き取れたので私も叫び返す。

「じいちゃーん、別荘までこれ乗せてってくれない?!」

おうよ乗ってきと返してくれたじいちゃんの車の後ろに乗る。すぐ動き出したそれは相変わらずうるさかった。

少し進むと、懐かしい海が見えた。

どうやっても絵の具では表せない色の海。何年ぶりかのその海は、私の帰りを変わらずに待っていてくれたよう。

思わず笑みがこぼれた。
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