めいたんていこなん
□天空の怪盗と探偵
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「……飛行船?」
『そう! 園子が誘ってくれたんだけど、咲はどうする?』
蘭から何やら電話があったと思えば、飛行船のお誘い。園子からこの時期に、ってことは……その飛行船はレディースカイを展示するベル・ツリー号でしょう。
是非とも行きたいところですけども、快斗と従業員として潜入する計画なんですよね……。
私一人じゃ怪盗業とプライベートを両立させるなんてできないしぃ……、どうしようか。
せめてサポート役が欲しいなあ。
「ってことでどうでしょうお兄様」
「断る」
場所はアパート、104号室。
目の前に胡坐をかくゆず兄はきっぱりとそう言った。
「なんでよケチ」
「ケチもくそもねーだろ。あーんな犯罪の巣窟に突っ込めってのか」
銃口向けられるとかお断りだ、と腕を組んでそっぽを向く。昔見た映画の内容、覚えてるんだ……。私はあんまり覚えてないんだけど……。文句言っておきながら一緒に見てきてくれたんだよな、天空の難破船。
それはともかく、どうにかしてゆず兄を説得しなければ……。
「……今ならキッドを間近で見れるよ」
「ふん」
どうやらどう説得してもゆず兄の考えは変わらないと見た。
そっちがそう出るならこっちだって考えがある……!
「私がテロの餌食になっていいの?」
「コナンとキッドっつー最強最悪の味方がいるじゃねえか」
「でもわかんないよ、ちゃんと映画通りに進むかわからないし」
それに、と言葉を続ける。
「ついつい私が手を出しちゃったら、どうする?」
我ながら今、悪質な笑みを浮かべていると思う。現にゆず兄の表情がひくついているし。
ゆず兄の数少ない弱点のうちの一つ。私が無茶をほのめかしたら大体言うことは聞いてくれる。
してやったり、と笑った。
「じゃあ、よろしくねゆず兄」
「てめえ……」
うんざりしながらも、否定はしなかったゆず兄は、そう言えばと指をたてた。
「俺園子とか蘭とか小五郎のおっちゃんと知り合いじゃねーだろ、さすがに見ず知らずのやつをベル・ツリーに乗せるなんて」
それは大丈夫だよ、とお茶を飲みながら否定した。
「コナンがね、ゆず兄のことをみんなに話してたし、そもそも少年探偵団と博士ともゆず兄は知り合いだから」
言い返す言葉がなくなったのか、ゆず兄は諦めたようにため息をついた。
「ま、そもそもおじさんと蘭とは一回会ってるんでしょ?」
「どこでそれを」
「へへへ、コナンに聞いた」
私の笑顔に先ほどより倍近く深いため息をついたゆず兄は、「俺のモブライフが……」と遠い目をしてつぶやいた。
「とにかく、日程はさっきいった通りだから、寝坊しないでね」
「ふいふい、可愛い妹のためだよ、遅刻なんてするか」
「かっこいい兄のために、無茶はなるべくしないようにするから」
私の言葉に訝しげに目を細めたゆず兄だったが、「じゃ俺バイトだから」と立ち上がった。