めいたんていこなん

□天空の怪盗と探偵
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「わー!」

 子供達が歓声を上げて、飛行船から地上のトロピカルランドを見下げる。

 夢のあるコメントを次々残す彼らが微笑ましくて思わず笑ってしまう。

「うーん、絶景絶景!」

 園子もこの景色に満足げだ。

「へえ……さあすが鈴木財閥ってとこだな……」

 ゆず兄も手すりに片手をかけて下を見ている。

「ちょっとちょっと咲」

 園子が肘でついてきたので、振り返る。顔はだらしなくだらけている。

「何」

「なあんで景村くんっていうあんなイケメンの存在を黙ってたのよ!」

 むふふと笑う園子の顔写真を写メって京極さんに送りつけてやりたい。

 ゆず兄とみんなの対面は先ほど終えた。元々大半と知り合いだったから、あまり時間はかからなかった。想像通り女子ウケもよかったし。

 小五郎のおじさんにも嫌われてはないようだし、いい感じにテロに合えそう。や、テロに合う時点でいい感じとは言えないんだけどさ。

「ゆず兄あんまり外に出たがらないからさ」

 嘘ではない言い訳としてから、また視線を景色に戻した。相変わらずワクワクする景色。

「お父さんすごいいい景色だよ。……ねえ、こっちきて見れば!」

 蘭が奥で唸るおじさんに声をかけるも、「うるっせー! 俺は今考え事してんだ!」と拒否されてしまう。

「もう……」

「そういえば毛利くんは高いところが苦手じゃったな」

 おじさんの様子を見てコナンが乾いた笑いを浮かべると、歩美ちゃんが声を出した。

「ねえ、キッドさんっていつもこんな景色見てるのかなぁ」

「羨ましいですね!」

 まあこんな高くないだろうけどね。いいなあ、私も空を自由自在に飛んでみたい。キッド様ほどハンググライダーを上手く操れないけど。

「でもよお、キッドほんとに来んのかぁ?」

 元太が胡散臭いとでも言いたげに園子を見ると、園子は「来るわよ」と呆れたように言った。

 そして携帯を取り出すと、メールを開いて元太に見せつけた。

「次郎吉おじ様のところにちゃあんと返事が来たんだから。ほら」

 今回のキッドの予告状は長いし漢字も多いから小一には読めないんじゃ、と思ったら本当にそうだった。元太は平仮名だけを読み上げると、園子は呆れて代わりに読み上げる。

 キッドって本当にキザだよなあ。まあそこがいいんだけど。

「あー! あたしのこともいただきに来てくれないかしらあ、キッド様ぁ」

 予告状を読み上げた園子が体をくねらせてそう言うと、哀が「前から思ってたけど、彼女かなりユニークな正確ね」と遠まわしに失礼なことを言う。コナンもなにも言えず「へっ、まあな」と否定しなかった。

「ところで」

 博士が場を仕切り直すように口を開いた。

「今回の客はわしらだけなのかのぉ」

 そんな博士の疑問に園子が我に返って答える。

「確か藤岡さんってルポライターの人が……あ、あの人」

 視線が奥に向く。そこには天パのケツあご気味のおっさんがいた。あいつだな、藤岡。

「次郎吉おじさまとキッド様の対決を是非書かせて欲しいって、自分から売り込んできたのよ。他には」

「あのぉすみません」

 園子が説明している途中、声が聞こえたので見てみると、ピンク色のポロシャツを着た丸めがねの小太りのおじさんが小五郎のおじさんに声をかけたところだった。

 そのおじさんは日売テレビディレクターの水川と名乗った。その他のスタッフを西谷、石本と紹介した。それから他愛のない話を持ち出す。

「本当は局を上げて取り上げたかったんですが、あいにく時期が時期で」

「時期? ……ああ、赤いシャムネコが」

 テレビ局もみんなも思ってはないだろうね、今からその赤いシャムネコとキッドが一緒にこの船に現れるなんて。

「けっ、おかげで、わしの自伝映画用のヘリの飛行許可もおりんかったわ。まったく忌々しいどら猫どもじゃ。のうルパン」

 そうこう話しているうちに、次郎吉さんがやってきた。愛犬のルパンも元気よく返事する。

「次郎吉おじさま」

 園子が次郎吉さんに寄るも、「どうもどうも!」とやってきた水川ディレクターに阻まれる。あらら。

 水川ディレクターが社交辞令を述べると、次郎吉さんは人数が少ないことを皮肉れた。それからまたあの細菌テロの話になる。

 カメラマンとレポーターが細菌が飛沫感染するんだ、怖いなと話していると、元太が「冷やしタンメンで感染するのか?」と光彦に小声で尋ねる。それを光彦は「飛沫感染です」と正した。

「咳やくしゃみで感染るってこと。特に子供には感染りやすいって話だから、気をつけることね」

 哀がおもしろ半分なのかそう言うと、子供たちは不安そうな顔をした。

「なあに、殺人バクテリアだかなんだかしらねーが、俺なんか、病原菌がうようよしてるところを飛び回ってきたが、こうしてピンピンしてるぜ。人間様は、細菌よりつえーんだ」

 藤岡が自慢混じりに子供たちをなだめる。

「ですよね」

 光彦がホッとしたような顔でそう言った。しかし藤岡はにやりと笑う。

「もっとも、おめーらみてえなガキは、ころっと逝っちまうだろうがな」

 そんな脅しにみんなは不安そうな顔になった。蘭も「やめてください、子供達を怖がらせるようなことをいうのは」と口を出す。園子も「そうよ、無神経すぎるわ」と応戦した。

 そんなみんなを見て藤岡は高笑いして去っていった。

「どうやら頭が病原菌に感染しているようで」

 私がそう皮肉れると、コナンが「コラ」と呟いた。

「ま、細菌になんて感染しねーから安心しろって」

 ゆず兄が事実を述べてみんなを安心させる。さすがお兄ちゃん、安心させる技は一級品。

「そうじゃ、例え日本のどこで細菌がばらまかれようとが、この飛行船に乗っていれば大丈夫じゃ。安心せい、あっはっは!」

次郎吉さんも鼻高々に言い切って豪快に笑った。これだからこの人は嫌いになれないんだよな……。
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