ばらかもんたんぺん

□再開する主人公
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「清〜タオル返して」

清の家の玄関の前で叫ぶ。

ガラッ

数秒で出てきた清は、ちゃんと甚平に着替えていて、ついさっき起きました感がなかった。多分しっかり九時起きとかしてるんだろう。

「タオル返してください」

無言で見下ろす清に片手を差し出す。

無反応な清に首を傾げていると、清は突然泣き出した。

「うぐっ、お前だけだよっ、律儀に玄関で呼び出してくれるのはっ」

号泣する清に困惑する私。おろおろしていると清がそう呟いたので、ああ、と納得した。

「ここら辺の人、みんな裏からくるもんね。ところでタオル」

清の背中をさすりながら一緒に玄関に入る。

「すまん、まだ乾いてない」

「やっぱ洗ってたんだ、いいよありがとう。明日また取りにくるわ」

いい子だなこいつ。前々から思ってたけどさ、こいつっておっきい子どもじゃない? うるさいとことかヤキモチ焼きなとことか。

中に入って二人で座ると、私はふと隣の部屋に目が行った。ちょっと覗いてみる。

「……!」

思わず呼吸が止まった。床から天井までびっしりと貼り付けられた半紙。その一つ一つに書かれた字。

「……相変わらず頑張ってんだねー」

そう呟くと、清は隣の部屋の襖を閉めた。

「まだだ」

その一言で清が何を言いたいのか理解した。苦笑して「ふーん」と言うと、机の上にあったお菓子を食べだす。

「おい、勝手に食っていいなんて」

「はっはっはいいじゃん別に」

頭を鷲掴んでくる清。冷や汗を流しながら笑っていると、縁側のほうから声が聞こえた。

「せんせーい! 遊びに来てやったけん!」

その声で盛大に舌打ちした清。

「チッ、こいつがいる時に来るとか面倒くさいことこの上ねえな」

「ねえあんた私のこと嫌い?」

座ったまま清の甚平の胸ぐらを掴んでガンを飛ばしあっていると、縁側のほうから悲鳴が。

「キャー先生が女の人ば連れこんじょる!」

「あの女運がない先生に限って! そんなことはないと信じてたのにっ」

「せん……せい……?」

やって来たのはショートカットの元気っ子とメガネの文学少女、清の腰くらいの大きさの、向かって右の前髪を結んだ女の子。

清は髪の毛をかきあげる。

「おい待て、よく聞けお前ら」

事情を話そうと待ったの手を出す清を無視し、三人は私をチラ見しながら肩を組んで何やら話し始めた。

あの三人、もしや……。

「おい誰ぞあの東京美人」

「先生の彼女さんじゃない?」

「でもなる、先生は彼女いないって言ってたの聞いたぞ!」

「確かに先生のことだし彼女いたらそんな嘘つかないもんね」

「なんかすごくこっちば睨んどるぞ」

「いやいやあれは多分先生と同じで目つき悪いだけだよ美和ちゃん」

「じゃあ先生の妹ってことか!」

「いやそれは違うけ。……うーん……」

「どうしたの」

「タマ、あの東京美人どっかで見たことばなかか?」

「ん? ……言われれみれば、あるようなないような……」

尚も続けられている会議に少し悲しくなる。

そうだよね、覚えてないよね……。

親戚の人が私に「あら〜レイちゃん! 私よ覚えてる〜? 小ちゃいころよく遊んだ」って言ってきた時に「全然覚えてなくて……」って言った後の「そうよね〜」の笑顔に隠された悲しみが今やっとわかった気がする。

「おい、お前のこと知らないみたいだけど」

耳打ちしてきた清。私は涙目で応答した。

「しょうがないさ……もう六年くらい会ってなかったんだから……」

「涙目なってんぞ」

ティッシュを押し付けて来た清に感謝の言葉を述べつつ涙を拭う。

「つーかさ、六年くらい前って……オレらが高校の時だろ。こいつら今のなるくらいってことになるし、覚えてる方が奇跡なんじゃない」

「ぐぐぐ……それなら、ヒロシは……ヒロシなら覚えててくれてるって確信がある!」

「ヒロにどんだけ絶対な信頼置いてんだお前は」

そう言って外を見た清。

「もう昼頃だし、来ると思うんだけど……」

「あんたヒロシのことヒロって呼んでんだね」

「悪いか」

頭をチョップされ、痛むところを抑える。

すると庭から誰かが入ってくる気配がした。

顔を向けると、何やら金髪のフッツーな高校生が。

……あの普通さは、もしや……。

「ヒロシ?!」

「んあ? 誰あんた。先生の彼女?」

そう言うヒロシに寄って行き、胸ぐらを掴んで睨みつけ……見つめる。

「うおっ、この眼光……まさか!

レイ姉?!」

やっと思い出したヒロシに抱きつく。

「ヒィロシィィイイあんたならわかってくれるって、覚えててくれてるって信じてたぁぁああ金髪になっちゃってもーー」

「ちょっちょっちょっ、重い重い痛い痛い! 落ち着けってレイ姉!」

「え?」

「どういうこっちゃば」

「レイ姉?」

困惑する三人とヒロシ。清は頭を抑えて唸っていた。

流れる涙を拭い、清の横に並んで軽く会釈をした。

「やあみなさま改めましてこんにちは。覚えてるかな、鹿田レイです」

一瞬訪れる間。

するとタマが絶叫する。

「え?! あのレイ姉?! 月刊誌で漫画好評連載中の?! 数年前は頻繁に来てたけど鹿田さん一家が引っ越してそれ以来来なくなったレイ姉?!」

「地味に心に来るのやめて」

私だって忙しかったんだからさ……。

清は鼻で笑っていた。

「あっ清あんた笑ったな笑ったでしょそうでしょ、いいよ別にあんたの恥ずかしい詩を朗読してやる」

「ヤメろ!!!!それなら俺だってお前の漫画朗読してやる!!!!」

数秒間の沈黙。

「「悪かった」」

熱い握手で和解しました。

「あ、先生ちゃんぽん」
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