悪役のチケット 1
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「いたぞ!追え!」
私はいつものように店から物を盗む
人間の体というのは良くできていて
何かの機能を失うと、それを補おうと別の機能を活性化させる
私の場合は目が使い物にならなくなった代わりに、手と足の感覚が敏感になり、記憶力が鋭くなった
おかげでこの町の構成は頭に入っている
「はぁ…っ……」
路地裏の入り組んだ死角の多い道を走り
曲がり角に置かれていた木箱の中に隠れる
「いねぇ!」
「くっそ、逃げ足の早い奴め」
「今度はただじゃおかねぇ」
店の男達が路地裏から去っていった事を確認し
盗んだ物が入った袋を開ける
今日は、パン屋からサンドイッチを盗んだ
ひさびさのまともな食事だ
サンドイッチにかぶりつく
「うっ……」
ズキ、と腕が痛む
男達はサーベルを振り回していた。おそらくそれが運悪く腕を切ったのだろう
恐る恐る傷口に降れるとパックリと割れている
血がだらだらと足に落ちる
まぁ、いいか
私はサンドイッチを口に押し込み、木箱を出た
今日はどこに行こうか
傷口に麻布を押し付け
ふら、と歩き出した
これが、新たな私の日常