マーシュの魔術労働

□寮
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昇級試験は下から順番に受けていくのが基本だけど、授業や独学で身につけた技術が必要なレベルに達していれば、ひとつ飛ばして上の級を受ける人もいる。
「…フェルトザラート」
早く1級に到達すれば魔女になれるのも早いし、独立して専門職に就くにも有利になるらしい。
「マーシュ・フェルトザラート!」
私は将来何になるんだろう…なんてぼんやり考えてたら、女教師に名前を呼ばれた。
「は、はいっ」
ラピス・ラズリ先生だ。“瑠璃紺の魔女”と呼ばれる若い美人教師で、生徒にも人気がある。
優しい先生だっていわれてるけど、なんだか私には厳しい気がする…私のミスが多くてよく叱られるせいかな(ノ∀`)
「3級試験を受けてみませんか」
「え」
クラスメイトの多くは4級を受ける予定で、私もそのつもりだったけど…
「あなたはもう少し頑張れば3級の合格ラインに届くと思いますよ」
「はあ…でも私、料理が全然ry」
4級試験で一番心配なのが調理。
「3級なら調理はありません」
「そ、そうなんですか?」
知らなかった(ノ∀`)
「そのかわり3級からは本格的な魔術実技中心の試験になりますが…あなたには可能性を感じます」
3級か…もし合格したら、みんなと違うクラスになっちゃうけど…
「まだ期限までは充分時間もありますし、考えてみてください」
「…はい」
4級のために苦手の調理を克服する時間を、ほかの教科にあてることができれば…いけるかも?
「では、決心がついたら私のところへ…わからないことがあれば何でも訊きに来てくださいね」
そう言って私の頭を軽くなでて微笑み、風のように去っていくラズリ先生。
…よかった、今日は叱られなかった。
「相変わらずだね。ラピス先生」
「うむ。獲物を狙う魔女の目だった」
いつの間にかルームメイトの二人が私の左右にいる。
「わ、びっくりした…獲物って何?」
「あんたのことよw」
「そーそー。やたらマーシュに構うよねラピス先生って」
「いつも叱られてるだけだよ
「マーシュが可愛いから気になってるのよ」
「ロリコンの魔女だからねw」
瑠璃紺ry
「そんなことないよ。今日は試験の話をしてくれただけだし…」
「3級受けるんだよね?」
「いいなー3級!エリートコースじゃん」
二人とも話聞いてたのかw
「一緒に3級受ける?」
「危ない橋は渡らない主義」
「私は調理も安全圏だし」
二人は予定通り4級を受けるみたい。

学園の食堂もあるけど、私たちには調理スキルも必要だから自分たちで食事を作る場合は必要な食材を調達することから始まる。
「えーと…片栗粉、片栗粉…」
野菜なんかは栽培できるけど、調味料や粉物は学園の敷地内にあるお店で買う。
「こっち」
「えっヾ(゚д゚)ノ゛」
見慣れない女の子に声をかけられた。
「片栗粉だべさ」
きれいに切り揃えられた黒髪と、珍しい服…派手じゃないけど目立つ女の子。
「うん…ありがと」
片栗粉の袋を手に取って、思わずまた女の子を見る。私より年下っぽい。
「なんもさ」
方言…かな? 変わった服着てるし、どこか遠くから来た人かも?
「私、マーシュ・フェルトザラート。5級」
「6級の御形蓬子(ごぎょう・ほうこ)でした」
名前も変わってるなぁ…
「ゴギョーさん?」
「蓬子でいいわ」
そう言って空中に文字を書く女の子。…名前みたいだけど、なんか難しい字だ。東洋魔術の何かで見た字に似てる。
「ホーコさんね。よろしく」
ホーコさんは片栗粉の近くにあった別の袋を手に取る。
「それ何?」
「上新粉さ」
ジョーシンコって何だろ…粉物みたいだけど聞いたこともない材料。
「何作るの?」
「お団子^^」
団子か…それなら私でもできるかな?
「のっこし作るべ。摩周ちゃんも来るかい?」
「マシューじゃなくてマーシュ…」
休日だし、せっかくだからお邪魔することにした。
ホーコさんのルームメイトは留守みたいだから、私も手伝おうと思ったんだけど…
「…ごめん
お団子って丸めるだけだと思ってたけど、意外と難しい…不器用な上に初心者の私は戦力にならなかったOTZ
「なんも、なんも」
ホーコさんは慣れた手つきでてきぱきとお団子を作っていく。
「おいしい!」
ホーコさんのお団子は、お店で売ってるのよりおいしかった。
やっぱり私には料理は向いてない。…3級受けよう。
「どうぞ」
「失礼します」
ホーコさんと別れて(おみやげにお団子もらった)、ラピス・ラズリ先生の部屋へ。
「…あら、いい匂い」
「手作りのお団子です」
「いいわね。あなたが作ったの?」
自室だと先生もリラックスしてるのか、口調がいつもと違う。
「いえ…私には無理でしたOTZ」
「そ、そう…お茶いれるわね」
「お構いなく…」
若い教師は二人部屋の人もいるけど、ラズリ先生は魔女としての実績では群を抜いてるから、ベテラン教師と同じ待遇の一人部屋なんだ。

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