マーシュの魔術労働

□寮
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平衡感覚は、悪くないほうだと思う。
むしろ平衡感覚のテストではクラスで1位になったことがある。…これ、ちょっと自慢。
問題は…多少、手先が不器用なことかな。だから髪を結ぶとき、毎朝何度かやり直すんだけど…
「あ、ドヤ顔してる」
うまく結べたとき、ルームメイトがそう言った。
「え」
「いつもしてるよねw」
これは、もうひとりのルームメイト。
ここは学園の寮で、私たちは三人部屋。全員同級生の女の子。
「そ、そう…?」
二人に言われて、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
別にそんなつもりじゃないんだけどな。たぶん誰もいなくても同じ顔してると思う。髪を上手に結べたら、なんとなく気合いが入るのだ。
「今の顔とっといてみんなに見せたいねw」
同級生といっても、歳や入学が同期なら皆一緒ってわけじゃない。
「や、やだっ」
この学園は特殊だから…ある重要な試験に合格すると、その人だけ昇級になる。
「いいじゃん。可愛いし」
「可愛い、可愛いw」
「なんかバカにしてる…」
私がちょっとムッとした表情になったとき、
「その表情いただき☆」
両手で四角い枠を作って私に向けると、ぱっと何かが光ってカシャって音がした。
これは魔術。いわゆる魔法に近い術で、私たちはみんな学園で魔術を学ぶ。ここは、言わば魔女の学園。
「撮らないで!><」
鏡に映したように空中に浮かぶ、私の拗ねた顔。それを、窓を拭くように手でこすると、跡形もなく消えてしまう。魔術を打ち消す、これもまた魔術。
私たちは同級生だから、だいたい同じくらいのレベルの魔術を使える。
「遅刻するよ
…でも、学園には私と同い年でも、遥か上の級に進んだすごい魔女もいる。
私たちは、まだ魔女ですらない。卒業資格を得る1級試験に受かるまでは、魔女見習いと呼ばれる。
「もうちょっとなんだけどな…この火加減が」
「なんで料理の授業なんかあるんだろうねぇ」
「いいから早く行こうよ
一人前の魔女は最低限一人で生活できるスキルを身につけないといけないから、料理くらいは魔力を使わずにできる必要があるらしい。
食事は魔力を回復する手段でもあるから、そのための料理に魔力を使ってたらきりがないし。
…私も、もうちょっと器用だったら料理くらいry
「マーシュ・フェルトザラート」
教室で女教師が私の名前を呼ぶ。
「は、はいっ!」
なんとかぎりぎり間に合った(ノ∀`)

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