浅河物語(仮)

□甲斐姫(仮)
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炎をまとった狼に矢を近づけると、触れてもいないのに鏃(やじり)に火がつく。
射手の若き女戦士は青の大弓に素早く矢を番え、狙いすまして放つ。
「ぱのさん」
「行きます〜」
雪景色の中に巨木のようにそびえ立つのは、魔物。ハリネズミに似た一見愛嬌のある姿だが、その赤い眼光は狂気を含み、見るものすべてをなぎ払おうと向かってくる。
その巨大ハリネズミ…アイシーゲルめがけて飛んでいく矢を追いかけるように、もう一人の女戦士…“ぱの”が駆け出す。
「アイシー!ヾ(`д´)ノ゛」
火矢を射かけられてもまるで効いていないように、アイシーゲルは逆立てた針状の毛を飛ばして反撃してくる。ぱのは“如意棒”と呼ばれる長い棍を振り回し、飛んでくる毛針を弾き飛ばし、如意棒を正面に構えて渾身の突きを繰り出す。
棒の長さは間合いの半分にも満たず、ただの牽制のように見えたが、突きの瞬間如意棒が伸びてアイシーゲルに届く。
「シゲッ('A`)」
杭を打たれたような一撃を受けてアイシーゲルが怯んだ隙に、
「どうぞ〜」
ぱのの如意棒に飛び乗り、一気に距離を詰める。あたしの武器はヘルニャーパンチ。弓矢や如意棒と違って、攻撃するには敵の懐に飛び込むしかない。
「このっ!」
手袋のように両手にひとつずつ嵌めた猫手型の武器。鋭い爪がついたそれで左右交互に殴りつける。往復ビンタのようにアイシーゲルに連続攻撃をお見舞いしたが、
「反撃来ます」
青の大弓を持った女戦士“しいしい”の警告どおり、すぐにアイシーゲルが反撃してくる。あたしは無理に距離を取るより、敵の背後に回り込んで攻撃をかわそうとするが…
「ヒケン(>д<)」
あたしの後からついてくる犬…ヒケンが悲鳴を上げた。犬にしてはあまり素早くないので逃げ遅れてアイシーゲルの標的になってしまった。
「何しとんねん。早よ下がりや!」
青い巨大なサソリ、ボスピオンがヒケンの前に立って盾になり、その間にヒケンはしいしいの後方まで撤退する。
「一旦退却しよう
ボスピオンもサソリにしては異常な大きさではあるけど、アイシーゲルはその何倍も大きい。普通のハリネズミとサソリの大きさの比率はそのままで、どちらも巨大化した感じ。
「私はまだ行けるの」
「甲斐姫が一番打たれ強いと思いますけど…」
「あたしは平気だけど、ヒケンがもたないわ(ノ∀`)」
「くーん(´・ω・`)」
しいしいが連れてる炎をまとった狼は、カグツチ。
ヒケンはカグツチの幼犬で、カグツチになるためには二段階の進化が必要。まだ子供のヒケンはとても弱い。
「まあ、誰か強い人が仕留めてくれるわ…たぶん」
あたしたち三人だけじゃ、全力で戦ってもアイシーゲルを倒すのは難しい。とにかく反撃が激しくて、長時間粘ることができない。
「どうです…?」
「やってるの」
雪化粧した木立の陰からそっと戦場を覗いてみると、よく見かける上級者たちがアイシーゲルを包囲してフルボッコにしてる。
「さ、さすがね…」
あたしたちが手こずってる間に、先輩の冒険者たちがアイシーゲルを討ち取った。それでも戦闘に参加していれば、あたしたちも撃破報酬を得られる。多少無理してでも参戦したほうがお得ってわけ。
「経験値だけ…」
「アイシクルオーナメント」
「やった(゚∀゚)何かのケージが出たわ\(^q^)/」
小動物を入れておく金属製のカゴみたいな物。もちろんカゴが欲しいわけじゃなく、中に入ってる生き物のほうに用がある。
すぐに持ち帰って開けてみたいところだけど、念のため先輩冒険者たちに確認しておく。
「なかったと思いますよ」
「今のところないね」
この世界ではせっかく手に入れた貴重なペットケージを開ける前に没収される“クエスト”があって、一個も持ってないものを二個も三個も差し出せと言ってくるから始末が悪い。
しかも開けた後で返上することはできず、未開封でなければクエストクリアと認められない。クエストがあると知らずにうっかり開けてしまうと、一個手に入れるのも困難な物をまた死に物狂いで探して来なければならなくなる。
「出てこい、あたしのシロハネちゃん\(^q^)/」
このケージに入ってるのは、ブルブル山脈に棲む白フクロウのような鳥、シロハネ。幸いシロハネのケージを没収されるクエストは今のところないそうだ。
ケージから出てきた純白の鳥は、あたしを見て首を傾げる。
「可愛い〜♪(*´艸`)」
しばらくあたしの周りを歩き、時折立ち止まってあたしを見る…といった動きを繰り返すシロハネ。
「あたしが御主人様よ。よろしくね」
シロハネは返事するかわりにひと声鳴いて、視界から消えた。
「飛んだ…!?」
鳥だから飛ぶのは当たり前だけど、こんなに近くで猛禽が飛び立つ瞬間を見られる機会はそうそうない。
「わっ><」

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