le livre

□Like a milk syrupのおまじない
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危ない、と思った瞬間に体が勝手に動いていた。
がつん、と頭部に衝撃がくる。
驚いた顔で振り向いたバーナビーを見て、ああ怒られるなぁとか、でも無事で良かったなとか呑気に思っていた。



ばさばさばさーーーっ!!

「ふぇっ!」
何かの上に腰から着地し、木の葉が舞い上がった。幸い、床は柔らかく痛めることはなかったが。
「いらっしゃいませ」
頭上から声をかけられ手が差し伸べられる。
洒落たカフスの白いシャツ、細身の黒いベストに蝶ネクタイ。クールな美貌。
「バニー…ちゃん?」
「はい僕はバニーです。お客様、お洋服がトランプまみれですよ」
「へっ?」
さきほど木の葉と思ったのは、赤と黒、ダイヤ、ハート、クラブ、スペードの紙片。
「さあ、こちらへどうぞ。良いお茶がありますよ」
そんなことを言って自分の腕を引いてくれるバーナビーの頭には真っ白ふわふわの兎の耳があった。
うながされるまま席につく。
「あのさ、バニー…」
「茶葉はウバで良いですか?」
「あ、うん。あのー、その、耳、ナニ?」
「耳は耳ですよ」
「うさぎの、耳。」
「当たり前じゃないですか。僕はバニーです」

………。
いや、いや、いや、いや。そんなことないだろう。
いつも自分が「バニー」と呼ぶと「僕はバニーじゃない!バーナビーです!」と青筋立てて怒るような青年が、今はウサ耳つけて「ウバはミルクティーがいいですね」なんて言ってるのだ。
おかしい、これはおかしい。
そもそもここに来る切っ掛けはなんだ。
この、ブルーの壁に真っ赤なドア。床に敷き詰められた落ち葉のようなトランプ。おかしな部屋だ。
自分は、何をしていた?
「あ!犯人!」
そうだ、そうだ、そうだ。確か銀行強盗を追いかけて、バニーが一人を捕まえたんだった。
ヒーローTVのカメラに向かってアピールしている時に、車の陰からもう一人が出てきて、そいつの体が青く光って体当たりをしてきたから、バニーの前に立ちふさがったら頭に衝撃を感じて…。
と、言うことは、この状況はそのNEXTの能力なんだろう。きっと、異次元か異空間とかに飛ばす能力だったにちがいない。
さて、ここから出るにはどうすればいいのか…。
「お客様、お茶が冷めてしまいますよ」
―とりあえず、目の前の「バニー」が淹れてくれたお茶を飲んでから考えるか。
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