le livre

□なつやすみ
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8月の中ほどに、僕と虎徹さんは長期休暇をもらった。
バディの両方が休むのは良くないと思ったが、虎徹さんの「バニーと一緒に里帰りしたい」という一言に強硬手段を使って二人一緒の休みをもぎ取った。
シュテルンビルトから電車を乗り継いで(恐ろしいほどの満員電車だった)オリエンタルシティの駅に降りると、ロータリーに古めかしい小型のバンが止まっていた。
「おっ、兄貴ー!!」
虎徹さんが手を振ると中から村正さんが降りてきた。
「バーナビーさん、遠いところ来てくださってありがとうございます」
「こちらこそお招きくださってありがとうございます」
村正さんが僕の荷物を運んでくれる。虎徹さんは荷物と一緒に後部座席に乗り、僕に助手席を勧めた。僕としては虎徹さんと座りたかったが「狭いから」と断られてしまった。…狭いからいいのに。
バンが走り出すと全開にした窓から風が入ってくる。都会とは違う、澄んだ風だ。
「バニー、バニー!ここ俺が行ってた小学校!!」
虎徹さんが指した方向には木造の建物が建っていた。シュテルンビルトの学校とは違い、こじんまりとしていて、グラウンドも地面がむき出しのままだ。
「アットホームなところですね。虎徹さんはどんな小学生だったんですか?」
「そりゃあ良くできた子供で」
「忘れ物が多くて落ち着きがない、って通信簿に毎回書かれてたな」
「おい兄貴!話に割り込むなよ」
「だって事実だろう」
バンは一軒の家の前に止まった。村正さんが鍵を開ける。
「あれ、楓とお袋は?」
「掃除と、買い物に行ってる」
「あー、そうか…。悪かったな」
「俺はまだ配達が残ってるから。また後でな」
「おう。ありがとな」
中に入る。確かジャパニーズの文化では靴を脱いで揃えてから上がるのがマナーだと折紙先輩に聞いた。
僕がまごまごとしている間に、虎徹さんはぽいぽいと靴を脱いで奥に入っていく。
「バニー、こっちこっち」
「待ってください虎徹さん」
荷物を持ってすたすた歩く虎徹さんを追って部屋に入った。
「暑いな〜」
がらがらと虎徹さんが大きな窓を開ける。外にはガーデニングと思しきスペースがあった。ガーデニングとは違って、縦一列に植物が植えてあるが。
「バニーちゃん座って座って」
床に置かれたクッションらしきものを勧められる。ジャパニーズ方式では『正座』だと聞いた。一応練習もしてきた。大丈夫だ、バーナビー・ブルックスJr。
意を決して座ってみると、いつのまにか虎徹さんはいなくなっていた。
「あれ?虎徹さー…ん」
心細くなって虎徹さんを呼んでみる。すぐにばたばたと足音がして、虎徹さんが手にグラスを2つ持って現れた。
「なんだ、バニーちゃん。そんな固くなるなって。脚くずして、くずして」
「ですが虎徹さんのご実家ですし」
「気にしなくていーって。ほら、麦茶」
テーブルに置かれたグラスには氷が浮いている。虎徹さんに会ってから、お茶やコーヒーを冷たくして飲むやり方を知った。あと、お茶に砂糖を入れないということも。
ちんちーん、と音がしたので振り向いてみると、僕の後ろに祭壇?があって虎徹さんがそれに向かって手をあわせていた。
向き直った虎徹さんと目が合う。
「…今のは?」
「ああ、報告。無事に帰って来ましたってじーちゃんとばーちゃんと親父と嫁さんとかーちゃんに」
「あたしゃまだ生きてるよ!!」
声の方を向くと、安寿さんが立っていた。
「この度はご招待いただきありがとうございます」
「あらまあ、そんなご丁寧に。ちょっと虎徹!ぼーっとしてないで、スイカ切っといで!バーナビーさんがわざわざ遠いところ来てくださったのに」
「いや、俺も今ついたばっかりなんだけど…」
「つべこべ言わない!」
「あ!!」
今度は安寿さんの後ろに楓ちゃんが立っていた。
「かっえっでぇ〜〜〜」
ハグしようとする虎徹さんの腕をすりぬけ僕のまえにやってくる。
「バーナビー!!本当に来てくれたんだ!!」
「はい、ご招待ありがとうございます」
「ううん、来てくれてありがとう!」
「ちょっと〜かえで〜!パパは〜!?」
「はいはい、おかえりなさい」
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