le livre

□スイッチ!
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「やる気スイッチ〜!」
自分の膝の上でくつろぐ猫の、鼻にある模様を押しながら虎徹さんが笑っている。
ここはシュテルンビルトのシルバーステージにあるカフェで、僕たちは仕事の合間のランチを摂っていた。
今、虎徹さんの膝を占領している猫は近所で飼われているのか毛艶がいい。気ままにカフェのオープンスペースを歩き回り、何を思ったのか虎徹さんの膝に自ら飛び乗ったのだ。
猫と戯れる虎徹さんは可愛い。無邪気で素敵だ。だが、僕の方を全く見ないというのは問題である。
「さっきから言ってる『やる気スイッチ』ってなんですか?」
虎徹さんの気を引こうと質問を投げかけても
「ん〜?こういう小さいポッチがある子に言うんだよ」
と顔も上げずに答える。
猫の方はそれが気持ち良いのか、お腹まで見せ始めた。
「…やる気なんて出ないじゃないですか」
「ははは、じゃあ『やる気ないスイッチ』だな」

会社に戻り、デスクに向かう。
午後は特に予定がないので、虎徹さんの始末書を提出し次第トレーニングセンターに行くことにした。
パソコンを開き、依頼されていたコラムの原稿を推敲する。殆ど直すところもないが、虎徹さんが書類を書き終わるまでの時間潰しだ。
ところが当の虎徹さんはなかなかペンが進まない。
「虎徹さん、それが終わればトレーニングに行けるんですから早くしてください」
「わかってるけどよー」
あー、とか、うー、とか言うだけでちっとも書類を見ようとしない。
「…貴方も『やる気スイッチ』があれば押してあげられるんですけどね」
「おれの『やる気スイッチ』は見えるとこにはアリマセーン」
「…そうですか」
椅子から立ち上がり、虎徹さんの背後に回る。そして
「じゃあどこにあるんですか?」
耳元に囁いてやった。
「ばっ…!バニーッ」
虎徹さんの顔が真っ赤になる。
「ほら、早くしないと別の『スイッチ』押しますよ?」


fin.
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