le livre

□としょかん
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資料を探しに、図書館へでかけた。別に、インターネットで好きなだけ情報は手に入る。
けれど、できるだけのことをしたかった。電子媒体になっていないものも、目を通したい。何か、読んでいなければどうにかなってしまう。


図書館にはマットスペースがあって、そこに男が座っていた。胡座をかき、そこに小さな女の子をのせている。女の子の膝の上には大きな絵本。
おそらく、親子だと思われた。確証がないのは男が若く見えたからだ。年のはなれた従妹、もしくは若い叔父と姪―そう言ってもおかしくない。
週中の午後、普通の大人ならまだ会社にいるだろう時刻。学生か、無職でなければ、何か特殊な職業…。
ひょこ、と少女が顔をあげた。まるいブラウンの瞳とばっちり視線があった。
気まずくて目をそらし、急いで自分の目的の場所へ向かう。

蔵書検索用のパソコンを開く。
人のまばらな館内。本のページをめくる音。誰かが使っているパソコンのクリック音。
その中に、時々少女の声が混じる。
「これはさかな」「これはおはな」「これはりんご」…
男の声は、トーンを落としているのでよく聞こえないが、一緒に絵本を読んでやっているに違いない。
小さな少女。自分にもあんな時期があった。父親と母親に絵本を読んでもらった。そして、もう永久に戻らない―。

唐突に、子供の笑い声があがった。思わずそちらをむく。
先ほどの二人に、図書館員が注意をしている。
少女は「おこられちゃったねー。パパ」と無邪気に笑った。父親(やはり親子だった)は子供に「しーっ」と唇に指をあてるが、それがおもしろかったのか、また笑い声をあげた。
父親は娘を抱きあげ、反対の手にいくつかの絵本を抱えて立ち上がった。
腰の位置が高い。顔は少女にさえぎられてよく見えないがブルネットの髪と褐色気味の肌が東洋的な雰囲気だ。
貸出カウンターで手続きをすませた親子が出口へと向かって行く。
「パパー」
「んー?」
「かえでね、おおきくなったらまほうつかいになるの」
「そうかー」
「でね、ママのびょうきなおすの」
そのあと、父親が何と応えたかは扉に閉ざされて聞こえなかった。

fin.
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