le livre

□オーヴル
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ドアの開いたモノレールに乗り込むと、反対側に立っていた男と目が合った。
「お、ライアン!」
「なんだ、おっさんじゃねぇか」
自分の前の相棒の、今の相方(回りくどいな)は偶然の再会に全開の笑顔を向けてくる。
おいおい、オレはアンタが解雇される一因になった男だぞ。
「こんな時間にここにいるってのはまたクビか、おっさん」
窓に映る景色は夕暮れだが、会社務めならまだオフィスにいる時間だ。
「おっさんじゃなくて『虎徹』!あと俺は休暇だったの!そういうお前は何だよ!」
公共の場所なのに声がデカイ。あ
とオーバーリアクション。
「オレはバカンス」
「なんだ、俺と一緒じゃん」
ぶぅ、と唇をとがらせる。まるで
子供だ。おっさんだけど。
「アンタどこ行ってきたんだ」
「俺?俺は実家。娘に会ってきたんだ〜。ほら、かわいいだろ〜」
頼んでもいないのにスマホの画像を見せられる。
「前に一度会ってるからいいって」
「そうか〜?あれからもっと可愛くなってるんだぞ〜」
「ハイハイ」
「お前にはやんないよ。バニーにもやらないけど」
「幼女に手を出すほど困ってねぇ」
その時、おっさんのスマホが着信を知らせる。
「あ、バニーからメールだ」
「なんだって?」
「駅まで迎えに来るって」
「相変わらず良い旦那っぷりだな」
「うらやましいだろ」
「んな訳あるか」
おっさんはオレと会話しながらメールの返信を打っている。古いタイプの人間に見えて、スマホの扱いはスムーズだ。機種は古いけれども。
「もうすぐでつくぞ、ライアンも一緒だよ、と。送信」
打ち込む内容を口に出すのはどうかと思う。それと今、余計な一文を入れてた気がするんだが…。
案の定、おっさんスマホが再び着信を告げる。今度は通話だ。
通話ボタンを押した瞬間、バーナビーの喧しい声が聞こえてきた。
『虎徹さん!?ライアンが一緒ってどういう事ですか?!ライアンに首洗って待ってろと伝えてください!!』
ぶつり、と電話が切れる。
「相変わらずだねぇ、ジュニアくん」
「まぁな。バニーと飯食うんだけどライアンも来る?」
「やめとく。殺され兼ねねぇ所に、のこのこ行くほど命知らずじゃないからな」
じゃ、とお互い軽い挨拶を交わすとおっさんは出口に向かう。
「あ、そうだコテツ。あんたの実家どこ」
「ん?オリエンタルタウン」
「は〜、田舎だな」
「んっだと!?ってか今!名前!」
コテツが振り返った瞬間に自動ドアが開いた。
「じゃあね〜おっさん」
「あ、ちょ、待てって」
ぐいぐいと肩を押してモノレールの外に追い出す。
「はーいまったね♪」
ぷしゅーと音をたてて自動ドアが閉まった。
コテツはまだ何か言ってるようだが、モノレールは動き出す。
くるくる変わる動物みたいな表情。相変わらずだ。
以前仕事をしていた所を訪ねるなんて柄じゃない、と思ったけどまぁ、楽しかったな。今度はもっと予想もつかない場所に行ってみるのもいい。
「…オリエンタルタウンか…」
次の行き先を考えると、口元が緩むのが押さえられなかった。

fin.
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