le livre

□家族の肖像
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雑誌の取材の合間。虎徹さんが何やらカメラマンと話し込んでいる。
虎徹さんの身振りからすると、カメラについて質問しているらしい。

虎徹さんは写真を撮るのが好きだ。
スマートフォンにはヒーローたちや街の風景、食べたもの、そして家族の写真でいっぱいだ。
虎徹さんの部屋にも、リビングにも、玄関にさえ奥さんと楓ちゃんを納めた写真立てが溢れている。
楓ちゃんはフィギュアスケートをやっているから、それを撮るために新しいカメラが欲しいのかも知れない。
それに、虎徹さんのお母さんやお兄さんがこちらに来た時や、実家に帰省するときにもカメラは必要だろう。
虎徹さんの、家族の写真が増えていく。

オフの日。特に予定もなく、虎徹さんが訪ねてくる約束も無かったから、ゆっくり起きてカフェラテを煎れた。
ポケットに入れていたスマートフォンがメールの受信を知らせる。
相手は虎徹さんだった。
『午後2時、シルバーステージで待ってる』
指定された場所は、商業地区より住宅街に近い。
このメールの後、いくら聞いても『来ればわかる』という返事だったので、虎徹さんがどんなサプライズを用意しているのか楽しみにすることにした。

「バニー!こっちこっち!」
指定された場所に近づくと、虎徹さんの方から僕を見つけて手を振った。
「ここ…写真館ですか…?」
「そう!ゴールドの、取材に使うような所じゃなくてさ、こういう小さいスタジオを探してたんだよ」
そう言って虎徹さんは中に入って行く。
受付に名前を告げると、既に予約を取っていたらしくすぐスタジオに通された。
白い背景布や窓枠のセット、造花の飾られたテーブルなどの道具の中に、一人掛けのアンティーク調の椅子がある。
「まずはこちらに座って撮影いたしましょうか」
店主らしき初老の男性がカメラをセットしながら言う。
「あの…虎徹さん、これはいったい…?」
「見たまんま、写真撮影だよ」
「いえ、それは分かりますが、急になんで…?」
「バニーとは、取材以外に二人だけで写真撮ったことないだろ。大事な…家族なのに」

『家族』──その言葉に胸が熱くなる。
4つで両親を失った自分には、両親と映っている写真はごくわずかだ。ほとんどは火事で無くしている。
リビングに、写真立てがひとつ。

「バニー、これからたくさん写真を撮ろう。いろんな所に行って二人の写真も、彼奴らと一緒のも、もちろん俺の家族とも。でもまずは二人だけで、ちゃんとした写真を撮ろう」
虎徹さんが微笑んで、けれど照れくさそうに言う。
「…ええ。これが記念すべき一枚目ですね。次は結婚式で。虎徹さんウェディングドレス着てください」
「ヤだよ!バニーが着ろよ!」

一枚目は、椅子を挟んで笑いあう写真になった。


fin.

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