原作設定short

□You get what you pay for.
1ページ/3ページ

*シリアスです。
*キャラ崩壊注意。




閉ざされた魂も致命傷の傷跡も君の全てが愛しいんだ。
死んでしまった君を抱きしめた時、心底、僕は安堵した。



始まりは10歳の秋だったと思う。
人気の無い午後の路地裏、バチン、と強い力で頬を殴られ僕の体は地べたに倒れた。手にもつ買い物の紙袋から買った食料品が散乱する。
「あ」
「っ…い、た」
「ごめ…あ。ゴメン、アルミン!」
僕を殴ったエレンが持ってた荷物を放り出し膝をついてすぐに僕を起き上がらせる。殴られた被害者よりも殴った本人が痛そうな顔をするのはどういう事だ。
「だいじょうぶ、つぅ…!大丈夫だよエレン」
「悪い、ホントにゴメン…カッとなってつい…殴るつもりはなかったんだ!ホントに、ホントにゴメン!ごめんアルミン」
「いいよ、僕も言葉が悪かった。エレンにとってそんな重大な決断に僕が口を挟むのは良くなかったんだ、こっちもゴメン。…気にしないでくれ、僕は大丈夫だから」
「でも、でも血が…!お、俺ミカサ呼んでくる!」
「だぁいじょうぶ、大丈夫だよエレン」
僕を殴ってしまったのが自分でもよほどショックだったんだろう、エレンは完全にパニックに陥っている。走り出そうと、その背中を見せた。子供ながらにそれでも貧弱な僕なんかよりしっかりした背中だ。エレンの震えている腕を掴んで引き止める。
「口が切れただけだよ。心配しないで、僕は大丈夫だから」
「…俺、おれ、ホントに殴るつもりなくて、ほんとに」
「わかってるから」
腕を引いてエレンと正面に向かい合うように僕も顔を上げる。エレンは泣きそうになっていた。出来るだけの笑顔で僕は優しくエレンに言い聞かせた。
「気にしてないから…ミカサには言わないでおこう。きっとエレン怒られるからね。僕の言葉がエレンの勘に障っただけじゃないか、僕が悪いんだそうだろう?何も謝る事じゃないよエレン」
エレンの目が戸惑うように大きく開かれる。きっと笑った僕の唇から伝い落ちる血を凝視してるんだろう。痛む頬を押さえながらそれでも僕は懸命にエレンを宥め雪の降る中、その日は何とか家路についた。僕とエレンの特殊な利害関係が成り立ったのはこの時からだ。以来5年間、僕は事あるごとに人知れずエレンに殴られ続けられる。



「アルミン、その頬はどうしたの…?」
相変わらずミカサはカンが良い。昨日殴られた後すぐ冷やしたから腫れは引いているはずだ。それでも白い湿布を頬に貼っているだけですぐに察してしまう。『何があったか』ではなく『誰に殴られたか』、を。
「昨日階段で転んじゃって」
「嘘。転んだだけではこうはならない、誰に殴られたの正直に言って」
「…」
「…また、エレンね…」
「そうは言ってないよミカサ。早とちりしないで」
「でもそうなんでしょう」
「…」

「おい、どうかしたか二人とも」

「ジャン…何でもないよ」
「んぁ?アルミン、お前左頬に貼ってる湿布どうしたんだ?誰かとケンカでもしたか?」
「ちょっと…階段で、ね」
「?階段でケンカでもしたのか?」
「いや…」
「アルミン。上手くない嘘はつかなくていい」
「ん?嘘ってなんだよ…?アルミン、イジメでも受けてんのか?」
「…」
あぁ、面倒なことになったなぁ。
訓練生が多く集まる食堂でミカサに捕まったのはまだしもジャンに気付かれるのは痛い。出来ればこれ以上他の誰かに知られるのは避けたいしここから出ていきたいけどそろそろエレンが雑用を終わらせてここに来るころだ。エレンが来たら、またジャンとややこしい事になる。
(ガチャ、ギィ。)
…もう遅いけど。
「おいエレン、アルミンが誰かにケンカ吹っかけられて殴られたみてぇだけどお前知らねぇか?」
「え…っ。」
「…」
食事を受け取るトレーを持ったままエレンと僕の目が合う。瞬間エレンは顔を歪めて何か言いたそうに口を開いたけどすぐに視線を逸らした。苦しそうに唇を噛んで眉を顰めている。そんな顔、「自分がやった」と言ってるようなものじゃないか。
「え…エレン、お前がアルミン殴ったのか?お前らいつも仲いいじゃん、何かケンカでもしたのかよ」
「…」
「エレンじゃないよ。ね?僕が勝手に階段で転んで頬打ったんだそうだろエレン」
「っ…」

「エレン。どうしてアルミンを殴るの」

エレンに対してのみ優しい言い方をするミカサだけど珍しくその声には少々の怒気が滲んでいる。
黙ったまま目を細め床を見てるエレンとは反対にジャンがミカサの声に青ざめた顔で反応した。
「いや、ミカサ。お、落ち着きましょうよ、これは男二人のもも問題だろ?な、あの」
「エレン。あなたが前から私の知らない所でアルミンに暴力を振るってるのはとっくに知ってる」
「…」
あの、その、ミカサちゃん。ねぇ…何でもないです。
ジャンは心折れてしまったようで口をつぐんでしまった。エレンへのミカサの問い詰めはまだ続く。
「どうして事あるごとにアルミンを殴るの?アルミンがあなたに何をしたの」
「…」
「エレン、黙っていてはわからない。とにかくまずアルミンに謝って。それから話し合おう」
「もういいじゃないかミカサ。僕は大丈夫なんだから…ちょっと言い合っただけだよ。ね、エレン」
「…」
「アルミン、甘やかさないで。それにちゃんとけじめをつけとかないと、これから私たちも親友としてやっていけないでしょ…これはエレンのためでもある。エレンが何か悩んでいるなら、それを解決するのは私たちの役目でしょ」
「…でも、」
ガタン!
耐え切れなくなったのかエレンがトレーを投げ出して食堂から出て行った。いきなりの事でその場にいた僕たちはすぐに追いかける事が出来ない。
「エレン!」
案の定、すぐに追いかけたのはミカサだ。でもエレンの背中はとうに先できっとミカサの足でも追いつかない。その後を健気にジャンが追った。僕はその場に一人取り残される。
「お、おいミカサ!外は雨だぞ!」
「…」
土砂降りの雨音を聞きながら。取りあえず途中だった食事を再開した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ