原作設定short

□A rose by any other name would smell as sweet.
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「もうお帰りですか!?まだ始まったばかりなのに」
「お連れの方の具合が悪いのでしたら上の個室でお休みになればよろしいでわありませんか。私もっとお話ししたいですわ」
「よければ僕の主治医に見せればいいよ!ねぇそうしなよ!」
「そんな急いで帰ることもあるまい、せっかくの酒と肉料理だ、君ら兵士じゃ滅多に口に出来んだろう?もう少しわしらと話を」

「うるせぇ。黙って道をあけろ」
怒気を含んだ静かな一声で引き止める貴族の人間を全員黙らせた。裏口から人知れずに抜け出そうとしたがぐったりとするエレンを胸に抱き上げていればどうしても目立ってしまう。やっと城内から外に出られたが、後を追うしつこい連中もいる。
「いやいや、まぁ待って!今日はこの、エレン君の話をぜひ聞こうとだねぇ、まぁ…せめて、最後ぐらい顔を見せてもらってもいいじゃないか。いやそう怒らずに…」
「………」
…へ、いちょう…!胸の中からか細く叫ばれ、はっとしてリヴァイは足を止める。
「エレン。しっかりしろ」
「――ん、ぅッ…!」
いよいよ薬が全身に回ってきたのだろう腕の中身悶えるエレンの体が熱い。縋るように服を掴み、パクパクと口を開け荒い呼吸を繰り返すエレンの唇が、弱々しく必死にリヴァイを呼ぶ。他の人間にエレンの今の状態を隠すためスカーフで顔を隠していたがエレンが動いてずれてしまったのか隠しているのは額から両目の部分までで、それ以外は上気した素顔を覗かせてしまっている。それを見た男の一人が
「――ぁ!なるほど、だからか…へへ…」
「………」
男がリヴァイと目を合わせ、下卑た薄ら笑いがすぐに消えた。ヒシヒシと伝わる怒りが肌を刺し数歩男は引き下がる。
「い、いや…笑ったわけじゃ…」
「………」
無言で一通り男を睨んだ後リヴァイは再び歩きだす。送迎用に用意された馬車の一台に乗り込み馬の手綱を握る御者に行先を伝える。抱きかかえるエレンを椅子に下ろしドアを閉める瞬間

―――チッ!バケモノのくせに…!

男の声が耳に届いた。


社交パーティー、など建前で、中身は夜な夜な行われる貴族による欲の貪り合いのような淫会。実際は下の舞踏場で相手を見つけ上の個室で一晩の情事を楽しむ実に不健全なもの。常識のぶっ壊れた人間の集まりに問題は付き物らしく、薬を盛られたり望まない体の関係を強要されたりと色んな噂が絶えない。中には、様々な情報を聞き出せる利点を利用しそれ目的で招待を受ける者もいるだろうが、一兵士のリヴァイにはそれは性に合わない。会場に着く前にエレンには十分に「出されたものは一切口にするな」と言い聞かせたのに、それが甘かった。
「は…ん、んんッ〜〜…う、ぁ…は、あう…」
ガタガタと揺れる狭い馬車の中、向かい合うように設置されたベンチのような長い椅子に座り、目の前の椅子に横たわるエレンをリヴァイは腕を組みただ黙って見ていた。よほど強いのを飲まされたか、さっきからエレンは身じろぎ続け、口から言葉にならない悲鳴か喘ぎのような声を発している。触れるもの何もかもが辛いらしく、椅子に取り付けられたクッションを握りしめたり自分の服を引っ張ったりと落ち着かない。押し寄せる快感に必死に耐えようとしているのが、見ているこちらにも痛いほど伝わってくる。
「――ッ……ぃ、あぁ…うぅッあうぅ…!ふッーーー!!は、や、」
「………」
「〜〜〜、ぃ、やだ、これッ!!うんんぅ…!はふ…は…」
「………」



――えーでも怪物あいてはちょっとー…

――バケモノと一緒に死んじまえ

――チッ!バケモノのくせに…!



「………」

(今日、こいつがそう呼ばれるのを俺は何回聞いただろう)
咽び泣き始めたエレンとは対照的に静かな心でぼんやりとリヴァイはそんな事を思った。
「うぁ…へ、ちょ…んあぁ!!く、そ…んっん…!!」
「………」
かたかたと、エレンの指が震えている。自分に助けを乞うようなその唇から透明な唾液が伝って落ちるのをリヴァイはどこか別次元から見るような目で見ていた。
(バケモノ、か。そうだろな。巨人になるこいつをバケモノ以外何と呼ぶ。あいつらにしては至極正しい事を言う。だが)
「ふ、ふぅ…はー…は、ひゃふッぁ…!!」
「………」
(バケモノと呼ぶその相手を、お前らは。一体どんな顔して見てるんだ)
バケモノ、怪物。好き好きにエレンを蔑み呼ぶ人間その誰も彼もが。舌なめずりした飢えた顔をして舐めるようにエレンを見てくるんだから笑える。まったくもっておかしな事だ、クツクツと笑いが込み上げてくる。リヴァイは片手で自分の目を押さえた。目の前でよがるエレンの声がどこか遠くへいってしまうような錯覚を覚える。
(どんな名でこいつを呼ぼうと。例えどんなにこいつを蔑もうと。こいつを目の前にしてよだれ垂らしてる時点でお前らはもう、こいつに屈してんだよ)
肩が震えるほど笑えて来て思わずリヴァイは項垂れた。自分たちが一番えらいと思い込んでる家畜の集まりがたった一人の少年一人手に入れようと必死で、しかもそれが叶わずなら今度は蔑んで貶してくるのだ、悔しそうな敗者の顔で。あぁおかしい、実に滑稽だ。そしてその笑いが、唐突に止む。

(――…俺と同じにな…)
「ぃ、ちょう…ひぅッふぁ、は…!!へい…ちょ…!タヒュケテ…!!ひっう!…!」





花は、例えどんな名で呼ばれようと甘く香り自身が花である事は変わらない。何に縛られることもなく花としてそこにある。ただ、花には虫が寄る。払っても払っても、その甘い香りを嗅ぎつけては虫が寄る。
ならいっそのこと。その花を自らの手で手折ってしまおうか。





「辛いか、エレン」
リヴァイの指の腹が流れた涙で濡れるエレンの頬に触れる。
「…へぃ…ちょ…は、ぁッへいちょ…」
「辛抱しろ、もうじき調査兵団本部に着く。どこか空いている部屋を借り、お前を連れて行く。今日はそこで休め。地下室には帰らねぇ」
「……は……は…」
熱で潤んだ金の瞳に自分が映る。その映るもう一人の自分も、あの貴族達と同じ目をしている。

「着いたら、俺が楽にしてやる」


がたり。

大きく揺れた馬車がエレンの体を揺らした。スッと離された手を目で追い、自分を見るリヴァイと視線が合う。いつも通りの無表情で不機嫌そうだが何故か、いつもと少し違う。自分を見るリヴァイの目が何か隠し持ったような目をしていてエレンの心臓がドギリと脈打った。
何を。何をして兵長は、この熱を沈めてくれるというのか。
緩やかな警戒音が響いた気がしたがしかし、それも湧き上がる体の疼きに掠れてしまう。押さえきれなくなったエレンの口から触れられてもいないのに甘い声が上がる。

あぁ、もう。この熱から楽にしてくれるなら何だっていい。

降りてくる快感に耐える様にエレンは歯を食いしばって唸り、身悶えながらクッションに顔を埋めた。



.fin
*あとがき→
2014/04/09
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