原作設定short

□If the sky falls we shallcatch larks.
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額に当てられた手が涙の伝ったエレンの頬に添えられる。さっきまで痛いくらいに腰に爪を立ててた綺麗な指が壊れ物でも扱うようなその優しさにエレンの眉が顰められた。そうされる度エレンの羞恥心が酷く掻き毟られるのをリヴァイは知っているのだろうか。おそらく知っててワザとそうしているのだろう、慰めも憐れみもかけないのが彼なりの優しさだとエレンは気付いている。無関心そうな無表情で彼はいて、倒れそうな自分にただ黙って肩を貸すような、きっと。そんな人間なのだ。現に彼は今も
「たまには大人の言うこともきけ、エレン」
こうして好き勝手にやってくれるのだから。彼は心地よい無神経さで、エレンの強情な虚勢を許していく。
「は…ふ、んん…ぁ、め…」
「………」
「…あぁッぁ…リヴァ…」
―――首筋に唇が落とされそのリップ音が、耳を、思考を犯していく。指が脇腹から胸へ上がり、抵抗しようか迷いながら伸ばしたエレンの手の下をすり抜け先ほど触れることを許さなかった、胸への愛撫を再開する。
「〜〜〜っ…ふ…!」
ぶるりと体を震わせて耳まで赤くしたエレンが手の甲で顔を隠す。観念したのか自ら望んでかあいたもう片方の手は快感に耐えるかの様にシワの寄ったシーツを握りしめている。何も言わないリヴァイが無防備になった体に指を走らせ首筋から耳裏まで舌を這わせればか細い悲鳴のような声が上がりエレンの体がしなった。顔を隠すエレンの手を自分の首にまわしリヴァイがゆるりと埋めたままの自身を腰ごと揺らし始めた。今までの貪るような打ち付け方じゃないそれは、まるで熱に浮かされるように、じわじわと追いつめられる様で。新たに知る快感に怯えるようにエレンは何度もリヴァイの名を呼ぶ。
「ふぁッあぁ、リヴァ…り、ばい――リヴァイ…」
「………」
「はぁ、グスッ…ふ、あぁぁ…」
「………」
どうしていいかわからず、ただ。何故だかどうしようもないスンとしたものが込み上げてきて。顔を見られない様にエレンはリヴァイの背中に手を回し肩に顔を埋めしがみつく。耳元で上がる嬌声に湿っぽいのが混じるのを聞きながらリヴァイは目を細め自分の体でエレンをシーツに縫い込めた。









「変わりはないかリヴァイ」
「ねぇな。クソガキにこき使われる毎日だ、エルヴィン」
昼前の淡い光が中庭に面する窓から差し込む団長室に二人の男がテーブルを挟んで向かい合わせにソファーに座っている。一人は手にした書類に目を通しながら、もう一人は手に紅茶の入ったカップを持ちながら。部屋の扉の向こう側を通る他の兵士の足音を聞きながら目を合わせず二人は話していた。
「はは…そうか。でも案外仲良くやってるようで安心した。噂は聞いてるけれど、まさかここまでリヴァイの心が寛大だとは思わなかったよ。呼び捨てにタメ語を使われてるそうじゃないか、その噂を聞いたときは信じられなかったが」
「15のガキにキレても仕方ねぇだろ。俺はあいつの部下の位置にいるからな、目立つ事を避けてるだけだ怪しまれんのはまずい…が。いい気にはなれねぇな」
「すまないな、理解してくれて助かる。だが、もうじきそれも解放されるから安心してくれ。長い間よく耐えてくれた」
「…どういう事だ?」
「不正の事実を掴んだ。☓☓商会と憲兵団による物資の横流しの件だ、これでようやく、やっと決着がつけられる。長年☓☓商会のおかげで民衆も兵団内も乱れていたが足を引っ張る一部の有害な組織を、一掃できそうだ。巨人より有害な人間だよ…裁判が終われば彼らには兵団からは消えてもらうが、だが、消える人数も多い上に重役の人間も含まれているとしたら穴があく…その際はリヴァイ。お前に、調査兵団の兵長を任したい」
「……エレンも消すのか」
「ああ、兵団からは消えてもらう。☓☓商会の跡取り息子である彼が15歳の若さで兵長に就くのも☓☓商会の裏工作だ。おそらく憲兵団だけでなく調査兵団内部にも内通者が欲しかったんだろう…私を団長の座から引きずり下ろすために。結果も実力もない少年が調査兵達をまとめる事など出来ん。下手に権力を持たすのも危うい。今はお前に信用を置く兵達のほうが圧倒的に多いだろう。実質兵長の仕事をしてるのはお前だと聞いたが?」
「エレンの班にいるんだ、何かと仕事はまわってくる。他の兵に指示出したりすんのは確かに俺だが報告書や書類作成はすべてあいつの仕事だ…あいつはよくやってる」
「そうか。兵を統率出来てないとなるとそれは問題だな。次の遠征までに彼には兵長を降りてもらえればいいがこちらの手筈が間に合うかどうか…」
「………」
「………」
カチャン…飲み終わったカップをソーサーに戻す音がいやに大きく響く。リヴァイの視線がエルヴィンを捕らえるがエルヴィンが視線を書類から上げる事はない。リヴァイの何か言いたげな視線には気付いているだろうに。
「…なぁエルヴィン」
「何だ」
「☓☓商会の一人息子だといっても、血は繋がってねぇんだろ」
「ああ。だがそこは問題じゃない」
「いや問題だ。あいつは10才の時目の前で母親を巨人に殺され父親は行方知れずになり、孤児だったあいつを拾ったのがたまたま☓☓商会だった、それだけの事だ。養父に言われるがままの言いなりの生活から抜け出し母親の仇である巨人を一匹でも多く殺すため、あいつの意思で調査兵団に入隊した。兵長に就任したのはあいつが望んだことじゃねぇ、エレンの居場所を知った☓☓商会が勝手に話を進めたからこうなった。エレンは☓☓商会と縁を切りたがっている」
「ほぅ、それは初耳だな」
「エルヴィン。ふざけんのはやめろ、ハンジから報告されていたはずだ。エレンは☓☓商会とは関係ねぇ、養子ってだけでただのお飾りにされてるだけだ。あいつも、こっち側の人間だ」
「それでリヴァイは私にどうしてほしいんだ?」
「………」
「私たちはお前の言葉で十分信用できるが民衆たちはどう思う?血の繋がりはなくとも誰が何と言おうと彼は立派な☓☓商会の子息だ。民衆が知りたいのは彼の意志じゃなく、彼の処遇なんだよリヴァイ。長年抑圧に耐えようやく悪の根源から断ち切れるというのに、その芽を残していたら今度はこちらがあられもない噂を立てられるかもしれない。全てがひっくり返った不安定なその時期に不安に煽られた民衆たちがそれを耳にしたらどうなる?…一度悪夢を見た子供を寝かしつけるのは、骨が折れるぞ」
「………」




痛っ!

ドンっバサバサ……

あれぇ、兵長いたんすか〜?





「………」
「………」
扉の向こうの会話が静かな室内にまで響いてきた。リヴァイも、もちろんエルヴィンにもその会話は聞こえている。
「………」
「………」



お疲れ様でーす兵長っごめんなさい見えなかったですわ〜存在が。半透明なのか見えないんですよね〜すいまっせ〜ん

………

兵長〜昨日どこ行ってたんですかぁ?探しましたよ〜…夜中に抜け出すなんて兵長も隅に置けないなぁ、今度一緒に娼婦街行きませんかぁ☓☓商会会長みたいな金持ちのおっさんいーっぱいいますよ兵長大好きでしょうそういうのぶふふふっ!

兵長今日もお仕事一人でお疲れ様でしたー、はは。掃除楽しかったですかー?じゃあ俺たち本部戻りますねー。兵長お仕事頑張ってくーださーい

…勝手にしろよ

あ?

こらこらケンカしないのっ兵長になんて口きくのよ…やぁだ兵長もこわーいwwそんな怒ったらぁ、女の子みたいな可愛い顔が台無しですよぉ?きゃはは…笑えよクソガキ。じゃあ、私達失礼しますぅー

…昼食後、中庭に集合だ

えぇ?

はぁ?

昼食後、お前らは俺と一緒にこの本部の中庭の掃除だ。兵長命令だ

………

………

返事ぐらい出来ねぇのか!?

…はーい…りょうかいしましたぁ…

兵長のご命令なら何でもしますよー☓☓商会敵に回すのは嫌ですもんね〜…チッ

………




「………」
「リヴァイ。あまり彼に入れ込むなよ」
エルヴィンの言葉はいつも回りくどい。しかし、確実に核心を突いてくる。
「エレンに意思はなくとも今彼は向こうの手の中だ。何かと用心することにこしたことはない」
「俺が用心してねぇと言いたいのか」
「そういう意味じゃない、ただあまり入れ込み過ぎるな判断が鈍る。もうすぐこの現状がひっくり返るんだ、お前は常にこちら側に身をおいてもらいたい。今後のためにも…何が言いたいのかはわかるだろう?」
「………」

コン、コン。ドアをノックする軽い音。部屋の主が顔を上げ「入れ」と返事をする。

ガチャ
「失礼します。エルヴィン団長……あ、」
「やぁ、エレン。どうしたのかな」
「………」
「………」
書類を手に入ってきたエレンは先に部屋にいた無表情のリヴァイを見つけて立ち止まった。意味ありげに睨むように目を細めリヴァイを見るが、睨まれているリヴァイは動かず無表情にこちらを見るだけだ。
「エレン?彼がどうかしたかい?」
「…いえ。何でも…あー…リヴァイ」
「あ?」
「団長と話がある。悪いが部屋から出ていってくれ。あと昨日お前に任せた報告書だが、今日の夜までに提出してくれ。明日の朝には上に渡したい」
「………」
「ははは…すっかり兵長の仕事が板についたねぇエレン。部下の扱い方が上手いじゃないか」
「………それほどでも…」
「…………」
褒めとも嫌みともとれる絶妙な言葉を受けエレンが社交辞令の笑みを見せた。リヴァイが息一つ吐いて腰を上げ、黙って部屋の扉に手をつける。僅かに振り返ればエレンの背中の向こうに座るエルヴィンがやはり意味ありげな視線をリヴァイに向けていて。
「………」
リヴァイは黙って部屋から出て行った。





昼食を済ませ午後にまわした報告書を書き上げ、今日の仕事を一通り終えたリヴァイは自室で紅茶を飲みながらのんびりと外を見ていた。遠征や訓練や会議が無ければ一兵卒の仕事は事務と変わらない。同じように今日の仕事を終えた気の早い他の班の兵士達は混む前に夕食を済ませようと食堂に向かって行く。外は赤みを帯びてもうじき日が暮れるのを告げている。
「………」
窓から移した視線の先には今は誰も横になってない簡素なベッド。早朝にシーツも替えたのでベッドの上にはシミ一つない、まるで昨日の情事など無かったかのような完璧な整いようだ。
エレンはいつも、その行為が終わるとすぐに寝てしまうくせに朝がやたら早い。リヴァイが目覚める前にもう自室に帰り誰よりも早く仕事に精を出す。今日もリヴァイは一人のベッドで目が覚めた。乱れた跡はあるのに隣にいるはずの体温がない、そいうのを何回も見てると昨日の事は錯覚だったんじゃないかと思えてくる。
エレンは早朝の内に提出された報告書に目を通し部下も連れずに一人で馬で本部と旧調査兵団本部、団長室を1日中何往復もし上から命じられた雑用の掃除なんかに追われ、自室に帰れるのはいつも日が暮れてからだ。それから一通りの寝る前の準備を済ませ、人が寝静まった深夜。事に及ぶ日はエレンがリヴァイの部屋へ来る。エレン自身はそこで初めてリヴァイを誘っているつもりなのだが実はそれ以前に、今日の夜お前の部屋に行くぞ、というサインのようなものがエレンから滲み出ているのだが、本人はそれに気づいて無い。
日中エレンと偶然すれ違うときなど、こちらと視線が合う度、エレンがリヴァイを見つける度に普段は気の強そうなエレンの顔が一瞬、力が抜けた様に和らぐのだ。目を潤め眉まで垂らして、まるで迷子になった子供がやっと親を見つけ安堵したような表情。リヴァイにはその意味がわかっているが端から見れば男を誘っているんだと言われても仕方ない。それを昨日エレンに伝えようとしたが、言った所でエレンは変わらないだろう。味方なんか一人もいないこの兵団の中、親ではないが自分をよく知る人間を見つけ思わず本人の自覚なしに安堵する瞬間。それを戒めてしまうのは何だか躊躇われてリヴァイには出来なかった。気を付けさせた方がいいとはわかっていても。それが本人の無自覚による叫びのようで。
「………」
しばらくそうして視線をベッドに向けていたが残った紅茶を飲み干し席を立つ。廊下に出、賑やかに食堂に向かう他の兵士の間を逆向きにすり抜けながらリヴァイは本部の中庭に向かって歩き始めた。



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