Blood will have biood.

□第三話。
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●10000hitリクエストをしてくださったnetton様へ。
*今回かなり重度の流血、残虐な表現あります。苦手な方は注意して下さい!



「ねぇ、リヴァイさん。今日はここでしましょうよ…ね。今日もするんでしょ?しますよね?」
「お前は盛りのついたメス猫かエレン…今日はしねぇ。ガキはクソして寝ろ」
日もとっぷり暮れた夜の城内は昼と違い数人の使用人と見張りの兵士たちだけを残し薄暗い灯りと静寂に満ちている。今日は何かと催しがあったため、皆疲れてしまったのだろう。明日に備えエレンの身の回りを世話をする召使達も早いうちに己の宿舎で休みをとっているのだろう。
その静かな城内の深部にある浴室で、この国を治める齢15のエレンと、エレンの側近であるリヴァイ兵士長が二人湯気の立つ広い湯船に体を浸かっている。本来身分の低い兵士長が陛下と共に入浴などとんでもない事のはずなのだが、国王であるはずのエレンはリヴァイに激昂する事無く薄い笑みを浮かべ、それを許してしまっている。二人きりの浴室内ではリヴァイを窘める者はいない。まぁ、元より常識はずれなこの二人を窘める者など、この城には一人もいないのだが。
蒸気でほんのり紅く頬を染めたエレンが大きな瞳をリヴァイに向ける。
「えー、そんなぁ。浴室でセックスなんてそんなに出来ないじゃないですかぁ。いつもリヴァイさん俺の知らないとこで先にお風呂入っちゃうんですもん。たまにはいいじゃないですかぁ」
「風呂でやってもどこでやっても変わらんだろう。好き者の相手をするこっちの身にもなれ」
「はは、俺のここにこーんな物付けといてよく言いますね!けっこう邪魔なんですよこれぇ…ね。リヴァイさん。俺だってリヴァイさんの言う事ちゃんと聞いてこれ取ってないんですから、少しは、ねぇ…ご褒美。くれても、いいんじゃないですか?りヴぁいさん、って、うわ!」

ばしゃん!

エレンが艶めかしい手つきで雪のような肌をリヴァイに摺り寄せた瞬間、エレンは飛沫を上げて湯船の中に沈んだ。水中でリヴァイがエレンの足を引っ張り上げたのだ。水の抵抗によって柔らかい尻を打つことは無かったが急に水中に沈んだせいで気管に湯が入り、エレンは咽ながら湯から顔を出す。
「ぷはっ!な、何するんですかぁリヴァイさん!ゲホッうう、お湯飲んじゃったじゃないですかぁケホッ…あ、あれっリヴァイさん出ちゃうんですか?本当にしないんですか!?」
急いで顔を出した時、既にリヴァイは背中を向いて湯船から出ていた。用意された柔らかい布で髪を拭き、エレンの方を見ずにエレンに返事をする。
「だからしねぇと言ってるだろう。少しは節操覚えろ雌猫」
「ちぇ〜…せっかく浴室エッチのチャンスだと思ったのに…とか言って、ホントは女抱きに行くんじゃないですかぁ?リヴァイさんどっちもいける人だから心配ですよ
「女と会うのは正解だな」
「え」
クスクスと笑っていたエレンの顔から笑みが消えた。驚いた様に見開き振り返ろうとしないリヴァイの背中に視線を投げる。小柄ながら、引き締まった筋肉を纏うリヴァイの体には至る所に大小さまざまな戦傷が刻まれている。
「今来ている隣国の使者たちの中に一人だけ女がいただろう。表向きはお前に物資の支援を要請するための訪問のようだが、俺に縁談を持ってきやがった。相手は王族の血を引く貴族らしい。…隣国には海がある。港を押さえておかねば後々厄介な事になる。邪険にはでき
「あー、まぁ、難しい話はいいですよ」

ちゃぷん

エレンが再び湯に浸かり水面が揺れた。いやに聞き分けの良い声にリヴァイは驚き振り返りエレンを凝視する。特に機嫌を損ねた様子の無い子供はリヴァイに向け、悪意の無い笑みを向け
「縁談を受けるも女抱くもリヴァイさんの好きにして下さいよ、俺、面倒臭いの嫌なんで。でも女に飽きたら、たまには俺を抱きに来て下さいね」
と、白い歯を見せ言い放った。
そしてリヴァイに興味を失くしたのかエレンは鼻歌交じりに湯船の中に浸かりリヴァイに背を向けてしまう。エレンの言葉が衝撃だったようでリヴァイは少しの間、その場から動けずにいた。









Blood will have biood.3










「リヴァイ様…?どうかされましたか」
微睡んだ思考から覚めるように、反射的にリヴァイはゆっくりと隣に座る女を見た。透き通るような肌に幼さの残る顔。健康的な長い茶髪の髪にシンプルな髪飾りを付けた姿は清楚な印象を抱かせるが、身に付ける濃い紫のドレスは肌の露出が多く、体だけを見ると卑しい印象を抱かせた。澄んだ星空の下で二人は、よく手入れされた庭に設置された鉄製のベンチに並んで腰かけている。
「ご気分でもすぐれませんか」
優しげでころころと鈴が鳴るような可愛らしい声で女は首を傾げながらリヴァイの表情を窺っている。そういえば自分はいつからここにいて何をしていたのだろう。珍しくぼんやりとそんなことを思いながらリヴァイはいつもの作り笑みを浮かべ女に仮面の顔を見せる。
「いえ、何でもありませんよ」
と。女はホッとしたような、申し訳なさそうな柔らかい笑みを見せ
「よかった…リヴァイ様はあまりこの縁談に、乗り気ではないのだと思ってましたから」
と答えた。そして気恥ずかしそうにスリットの入ったスカートを布を引き隠しながら、俯きがちに笑う。
身に纏う格好は下卑てはいるが、見ていると彼女自身はそれに恥じらいを持っているようで顔を赤らめ出来るだけ肌を隠そうとしている。なら何故そんな服を着てきたのだと疑問は抱かせるが礼儀を払った振る舞いと言葉遣いは、身に付けた教養と品の良さを窺わせている。揺らぐランプの灯りに照らされる彼女の薄い唇が濡れた様に光り、それが何とも嫌味の無い清純な色気を放っていて、しばしリヴァイは彼女に見とれた。彼女は久しぶりに見る、リヴァイにとってエレン以外に「美しい」と思える人物だった。

細い唇を開き、リヴァイは彼女に話しかける。
「なぜそう思われたのですか」
「…失礼ながら、兵士長様のお噂は私の住む国までよく知れ渡っておりますから。戦に出ては鬼神のようなご活躍、お国へ戻ればエレン陛下に忠義を尽くし政治に勤しまれるお忙しい身…例え私を気に入って下さったとしても、女の私が側にいた所で邪魔になるだけでございましょう?それに、急なお話でございましたし…まだ。結婚にはそんなに興味はないものとばかり」
「ああ…なるほど」
なかなか聡い女だな。とリヴァイは思った。リヴァイがこの縁談に乗り気でないのはその通りだが、正確に言うと少し違う。「元より実現に至らない持ち掛け話」に興味が無いだけだなのだ。願望は無いが、どうせ全て白紙に戻るなら労力を注いでも無駄と言うものだ。初めから動かなければ色々と疲れることも無い、エレンがこんな話を了承する訳がないのだから。そう思っていた。てっきりあの風呂場で「断ってこい」と言うものだと頭から思い込んでいたのだ。だがエレンの反応は、冒頭の文の通りあっけらかんとしたものだ。エレンの事をよく知っているつもりでいたリヴァイだったが、あの子供は、時にリヴァイの予測範囲を大いに越える行動をする。自分に決定権を与えられたことが意外すぎて、リヴァイは何だか力が抜けてしまい魂が抜けた様にただ空を仰ぎ見、女の話を聞いている。

「今日は、その…美しい、夜ですね」

間を持たせようとしての事だろう、たどたどしい口調で彼女は実にありふれた事を言う。特に反応を示すことなくリヴァイは黙って別の事を考えていた。

「私、星が好きでよく夜空を見上げますの。きょ、今日は、リヴァイ様と一緒だからかしら。いつにも増して、とても綺麗に見…。…ごめんなさい、リヴァイ様。私は、あなた様にとってはつまらない女だと思います…生まれてずっと城での幽閉暮らしでろくに外の世界も見たことない世間知らずな女で…本当は、私もこの縁談はあまり乗り気ではありませんでした。昨日、急に私の国の大臣達からの命令で支度をされてここに来て、それで。政略結婚だとは気付いております…でも…ここに来て。リヴァイ様のお姿を見て、お声を聞いて。私の不安は消えました…私は、もう、ぁの。あなた様の事が…ですけども、私の国があなた様のいるこの国に何か目的があって近づいたのは事実。私を見初めればそれ相応の、要求や要請があると思います…だからどうか、リヴァイ様が、望まない婚約なら、この話は、」

切羽詰った声が彼女の純真で優しい人柄を表している。きっと彼女がリヴァイに惹かれたのは本心なのだろう、申し訳なさそうにポソポソと事情を話し始めた。自分は王の愛人の子だとか今まで幽閉され人目を避け生きてきたとかここには無理矢理連れて来られたのだとか。だがリヴァイには関心の無い事ばかりなので内容は一切頭には入って来ない。初めて己の胸に湧く哀愁感が理解出来ずぼんやりと、己が今までここで何をしてきたのか思い出していた。

初めてエレンと出会った日の事。
初めてエレンの城に連れて行かれ傷口の治療を受けた事。
エレンの憎む大臣の最初の一人を殺した事。
初めてエレンを抱いた日の事。
そう言えば自分はいつから女を抱いていなかったか。思えばどうして自分はエレン以外に手を出そうとしなかったのだろう。自分でもほとほと意外だ。抱こうと思えばどこにでも相手はいたのに。なぜ自分はたかだか15の子供にあんなに執着していたのか。
あの子供と自分との関係は世間一般の恋人同士でも伴侶と言う訳でもない。それらに己を当てはめようとするだけで寒気がする。ただ貪り合うだけの関係のはずだ。
なら何故自分はこうもショックを受けているのか。まさか引き止められると思っていたのか。妬いてくれるとでも思っていたのか。一体自分は何を期待して、

いや…それでもない。そうじゃない。そんなつまらない悲壮感などでは。

「リヴァイ様は…どう思われますか」
「あ?」
不意に名を呼ばれリヴァイは素の声で女に返事した。急に低くなったリヴァイの声に驚いて女はビクリと体を震わせる。
「あ、すみません私ったら…喋って、ばかりで、あの。ごめんなさい…」
「…」
「リヴァイ様…の、お返事を、お聞きしたくて」
おどおどした態度がリヴァイをイラつかせるが彼女自身は悪意なき純真な好意でリヴァイにすり寄ってきているのは分かった。先ほどから調子の治らないリヴァイはそれをどこか他人事のように見ていていまいち理解出来ていない。そもそも、この女の名前は何だったか。さっきこの女が何の話をしていたのかさえも聞いてはいなかった。
「…、リヴァイ様、どうか…本心で、仰ってください。ダメでも、私…」
「…」
「それでもリヴァイ様をお慕いします…」
耳まで赤く染め視線を下げ、身を縮める彼女の、なんと可愛らしくいじらしい事。よく梳かされた髪の間から覗くその細い首。その首にナイフを突き入れたらどんな空気の漏れる音がするだろう。
まったく関係の無い事を思いながら、リヴァイは唇を開いた。紡ぐ言葉を見つけた訳ではない。自身では気付いていない自棄に近い心情で、不安げにリヴァイの言葉を待つ彼女に、軽率な返事をした。

「…かまわん」
「…ぇ…かまわないって。それって、」
「…」
「っ。あ、ありがとう、ございます…私…!嬉しいです…!」
トフッと右半身に軽い衝撃が当たる。横目でチラリと見ると彼女が嬉しそうにリヴァイの半身に抱きついているのが見えた。長く美しい髪から香る微かないい匂いが香りそれがリヴァイの鼻を掠め、心情を逆撫でられた彼は目を細めた。幸せそうに眼を瞑る彼女からはリヴァイの表情の変化は見えていない。
「…」

幸福に満ちる彼女を置き去りにし、一人リヴァイが仰ぎ見る夜空は実にキレイで星が瞬いていた。強く色を発する星もあれば霧がかったように星雲に飲まれ淡く光を発する星々の群れもある。地下街で剣奴として生きていた頃には決して見られなかった景色だ。実に美しい。隣に座る女といい、この夜空といい。自分の周りには気付かないだけでこうも美しいものが溢れていたとは。
それもこれも、エレンがこの国を治める王になったからだ。自分の暗躍でエレンを王に成し上げたからだ。とくに望みの無いままエレンと貪り合いの関係を続けてきたが、少し離れて見るとそれは何と実のならない虚しい事だったのだろう。
いささか、慣れていない感傷に浸っているリヴァイだったがふとリヴァイの瞳が僅かに細められる。後ろから近づく足音が、リヴァイのすぐ側まで迫って来たから。

「リヴァイ兵士長様」
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