Blood will have biood.

□第一話。
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*もしかしたら気分を害される内容かもしれません。
*モブ前提ありのリヴァエレですが愛はあります。



跪いて命乞いする人間を観賞するのは彼の唯一の趣味だ。森の中で宝物を見つけたような輝かしい目で満面の笑みを浮かべ、青年は玉座に深く腰かける。豪華な王冠を重たそうに頭上に乗せながら高価な召物を身に付けている青年は足を組んで玉座に続く階段の下に蹲りガタガタと震える男に向かって言葉を述べる。
「とりあえず、あんたの家族は汚職の罪で近々公開処刑ということでいいかな。火あぶりとギロチンがあるけどどっちがいい?そのくらいは聞いてあげるよ、どっちか嫌な方を選ばせてあげる。何だよ喜んでよ、こっちは一人寂しく死ぬあんたが可哀想だと思ったからこうしてあんたの家族も送ってあげようと思ってるんじゃないか」
ああどうかお助け下さい、これからも国のため王様の為に尽くしますからどうかどうか命だけは。家族だけは。涙と鼻水をまき散らしそう嘆く男の横に覆面を被る屈強そうな男が斬首用の剣を携え立っている。クツクツと湧き上がる笑いに堪きれず青年は目を潤ませて高らかに笑うと
「あははっ今更何言ってんだよ、あんたらが今まで散々俺にしてきたことじゃんか!もっと蔑めよ、俺を犯した時みたいに俺を罵れって!ははは!…飽きた。もういいよ。やって」

ひゅん、と空気とそれ以外を切る音がした。広間の中央を通る様に敷かれた長く赤い絨毯、それを挟む様に距離をとって整列して立つ護衛の兵達は黙って一部始終を見ていた。皆恐怖で顔を引き攣らせ中には数人ガタガタと震えている者もいる。肉片に変わった男を処刑人が手早く玉座の間から引きずり出し赤く染まった床を綺麗にするため召使たちが手にモップを抱え慌ただしく掃除を始めた。誰も恐ろしくてこの国の王位に就く青年の顔を見ようともしない。静かな広間内、階段を数段上がった一番上にある玉座から一人、皆を見下ろして青年は退屈そうに欠伸をする。青年の名はエレンと言った。



「あー…つまんない、退屈過ぎて死にそうー…」
壁一面に施されたガラス面から差し込むオレンジの光を受け、朝の処刑を終え微睡むような日中を過ごしていたエレンは午後3時のティータイムをまったりと堪能していた。行儀悪く玉座にお姫様抱っこされるように横に座り、手の届く範囲に置かれたティースタンドから直接手でカップケーキを掴みもぐもぐと頬張りながら溜息を吐く。広間にはお付の召使や兵士もいるが誰一人として青年の行いを窘める者はいなかった。皆俯いて緊張の趣をしている。自身の腹の上に置いているソーサーからカップを掴み音をたてて紅茶を啜りながら青年は首をのけぞらせ脱力する。
「あー…ヒマ…ひーまー、暇ー!何か面白い事ないのー?ねぇ…全員聞こえてんだろう何か言えよ。そうやって立ってねーでさぁ、君達を立たせるためだけに国民から取り上げた税金で給金払ってるわけじゃないんだよねー…あー…暇。ねーもう地下牢には生きてる罪人いねーのー?…あ、そう。いないの?もう全員処刑しちゃった?…あーヒマーつまんねー。もう少し残しとけばよかったなー、あっじゃあ罪人の家族は!?一人くらい残ってるだろ!?うんそれでいいや見せしめにこ…え?ダメ?何で?…えー、でも罪人の家族じゃん親の罪は子の罪ってことで処刑しようよ…えー…ちぇっあー…ヒマ。……じゃあさ、君はどう?…うん、君。ちょっと前に出てよ、君ももうそこそこ生きてるでしょ今死んだって、え?ああいやいや罪人関係なく。ねぇ、ここにいるのは俺に忠誠を誓ってるからだろ?なら俺の娯楽のためにその命貢献してくれてもいいよね、出来るだろ?王に身を捧げるのが君らの仕事だろ?…嫌なの?嫌なの?なら別にお前の家族でもいいよ差し出して。俺の国で養ってる人間は全員俺の所有物なんだから俺がどうしようと俺の勝手なんだよね。ねぇ…?どっちがいい、自分の命と家族の命。俺はどっちでもいいからさ選んでよ、そのくらいは慈悲かけてあげるよ?ふくく…早く決めろよ、鬱陶しい」

…エレン様!隣国にて勝利を収めた兵団が今帰ってまいりました!

「…リヴァイが?」
鋭く目を細めて兵士の一人を睨んでいたエレンが瞳を丸くし顔を上げた。王の気まぐれで一人の命が消えるのを阻止するためタイミングを逃すまいと急いだのだろう、広間の隅から走ってきて報告する召使の女は息を切らせている。

はい、今城下にて休んでおります。

「ふーん、そう。けっこう早く制圧できたんだな…いいよ、兵士達は今日は休ませてやって。酒もうんと配給してあげて、国内の医者たちに怪我人の治療にあたるよう連絡してあげてよ。あ、リヴァイは今ここにくるように伝えて。あいつの事だから大した怪我もしてねぇだろ?」

かしこまりました、今すぐに。

「…」
あ、もうお前いいよ。下がれ。エレンの興味の対象が移ったおかげで命拾いした兵士は小さく震えた声で返事をし、元の立ち位置に戻った。再び静まり返る広間、エレンは手にした食べかけのケーキを口に入れ楽しみを待つ子供の様に目を細め口角を上げた。「ふふ」と声をこぼして上機嫌に紅茶を啜る。数分後、静かな広間に再び召使の声が響いた。

エレン様、リヴァイ兵士長をお連れしました。

「ああ、来たか…。もうおやつはいいや、片づけて。…いいよ、通して」

はい

「…失礼致します。陛下、ただ今戻りました」
広間の扉を潜り一礼し、赤い絨毯の上を歩いてくるのは小柄な男だった。兵士の装備は置いてきたのだろう軽装で多少泥に汚れているがこの国では珍しい黒髪に見る者を射抜くような鋭さを持つグレーの瞳は、それなりの修羅場を潜り抜けた者が持つ風格を感じさせる。玉座に上がる段差の手前でリヴァイは足を止め腰かけたままこちらを見下ろすエレンに向かってその場で跪いく。恭しく頭を下げ一礼し、「顔を上げろ」とお許しを出したエレンをゆっくりと見上げた。
「陛下、ご機嫌麗しゅう…」
「随分早く制圧したね。もっと日数がかかるかと思っていたけど」
「陛下が支給していただいた物資のおかげです。他の兵士達の士気も下がることなく無事隣国を制圧出来ました。皆、陛下に感謝しております」
「ああそう。まぁ難しい話はわかんないけどとにかく制圧ありがとう。で、隣国では何かめぼしい物はあった?」
「そうですね…領土も特産品もこの国と変わりありませんが土壌が豊かで資源が豊富です。これで農民たちも陛下からの支給に頼ることなく安心して冬を越すことが出来るでしょう」
「へーそうか。じゃあ農民の何割かは支配した隣国の農地で好きなように耕してもらおうか。それならもう少し税金も上げても文句言われないよね?…そうだ、元からそこにいた隣国の国民達は取りあえず逆賊の一味ってことにしてある程度処刑して残りは適当に奴隷として働かせるか、あっ奴隷市場を作るなんてどう?新しい特産品になるじゃないか」
「…敵国の民とはいえ、そのように命を軽んじて扱われるのは、私は賛成出来ません」
「…は?何、俺に説教?」
「悪戯に処刑するのは国民たちの不安を煽るだけです。陛下には、もう少し慈悲の心をかけてやることを学んでいただきたい」
「…」

ピシリ。

その場にいる全員、空気の割れる音を聞いた気がした。エレンの顔から笑みが消えたのをきっかけに、広間内で緊張の糸が張ったのだ。並び立つ兵士とお付の召使たちの顔色がみるみる青くなり、怖くて誰も言えなかった窘めの言葉を言い放ったリヴァイに皆視線を向ける。厄介な事を言ってくれた、とばっちりがこちらまできたらどうするのか。元は剣奴のこの男が処刑されるのは構わないが自分たちの命まで危うい。
そんな痛いほどの視線を背に浴びながらリヴァイは跪いたまま変わらず射抜くようにエレンを見据えている。それどころか「ふっ」と鼻で笑い、下座にいるというのに王であるエレンを嘲るような笑みを浮かべた。途端に

エレンも「ふっ」と息を吐いて笑いだす。そして目を細め愛おしそうな甘い声で
「…リヴァイ、ここに」
「…陛下、私は単なる兵士に過ぎません、失礼ながらそちらに上がる事は
「いいからここに来い。命令だ」
「…かしこまりました」
少し間を置きリヴァイは立ち上がり、エレンに向かって再び一礼して静かに玉座へ続く階段を上がり始めた。国の王にお目通りするだけでも位が問われるというのにたかが兵士の、しかも元・とは言え奴隷以下の剣奴だったこの男が玉座に上がるなど本来あってはならないことで、そんな無作法なことをすれば即処刑が当たり前の事態なのだが誰もその行いに意見する者はいない。あっというまにリヴァイは階段を上がり、エレンが座る玉座の横に立った。隣に立ったリヴァイを目を細めて数秒眺め、エレンが豪華な装飾の施された玉座から颯爽と立ち上がる。玉座から数歩遠のきリヴァイに向き直った。
「ここに座れ」
「…」
「何だまた謙遜?そう遠慮しないでよ、これはリヴァイの功績をたたえての俺からの褒美なんだから。さぁ座れよ、早く」
「陛下…さすがにそれは。他の者たちの目もあります」
「座れ」
低くなった声色にさらに広間の空気が張った。今度はエレンが嘲るような笑みを浮かべてリヴァイを見据える。無言の駆け引き、王自ら招いたとはいえこれ以上ない無礼をこの男は行うのか他の者達は注目する。
「…かしこまりました、陛下」
「はは。初めからそうしろよ」
ああ、この男は身分もわきまえることを知らないのか!そう言いたげな兵士や召使たちの無言の視線に気付かないように今しがたまでエレンが腰かけていた、国内唯一の王位に就くエレンにしか座る事を許されていないその玉座に悠々と、腰を下ろした。
するとどうだろう、本来リヴァイよりも格上であるはずの広間にいる者たちの頭上の上からリヴァイは見据える事になる。身分を重要視する王家に仕える者にとっては何とも耐えがたい屈辱のことだろう。その中、立っている事で唯一リヴァイよりも高い位置から見下ろすエレンが
「座り心地はどうだ?」
と、リヴァイの首に腕を絡ませながらすり寄る。
「代々、王位に就くものしか座る事を許されていない椅子だ。当時の国内の最高の腕を持つ職人たちに作らせた最高級品だぞ…本来はお前みたいな剣奴だった者が、座るどころか見る事すら許されないであろうこの椅子の、座り心地は…いかがかな?率直な感想を述べてよ」
「…私には、少々柔らかすぎる感触です」
「柔らかい、か…ふふ、だろうな違いない、家畜小屋の隅で育ったお前にはビロードのクッションは柔すぎて頼りないだろうな。ふくく…なぁリヴァイ、見て見ろよ。ここからの眺め…みんな馬鹿みたいに頭を上げてこっちを見てるだろう。…今は、あいつらみーんな、お前の家臣だぜ?」
「…」

クスクス…。
陛下、お戯れが過ぎます。

笑みを浮かべ青年を窘める無礼者の肩に手を置き、耳元で囁く王の声色の何と甘い事。じゃれ合っている様にも見えるが確実に常軌を逸した二人の行いに狂気の色を感じその場にいる者たちは顔を伏せ悔しさに顔を伏せるがやはり誰も二人を咎める者はいない。心身ともに植え付けられた恐怖がわが身可愛さに口を噤ませているのだ。
その空気をさっしているだろうリヴァイは口元に薄い冷笑を浮かべて下の者たちを眺めるだけ。首元にすり寄り瞳を蕩けさせ己を見つめるエレンの視線にも向き合いもしない。が、それでもエレンは機嫌を崩すことなくふくふく笑うだけだ。次第に二人の距離は近づいていく。エレンの唇がリヴァイの耳に触れそうなほどに。
「…君達はもういいや。みんな下がって」
…は?
先ほどまで上機嫌だった青年の声とは思えないほどの冷たい声だ。皆言われてる意味が分からなくてザワリとしたざわめきが広間に響く。
「出て行け、って言ってんだよ。俺が呼ぶまで好きなように時間潰してこい。これ命令ね。その間俺はここで、こいつに遊んでもらうから」
「…」
「ほら。聞こえてんだろ?…出てけよ」
静まり返るそこに、ドスの利いた青年の声だけがよく響いた。



「しばらく見ねぇうちに随分家臣を飼いならしたようだな」
「見せしめの拷問と処刑が、よく効いたみたいです」
誰もいなくなり、静まり返る玉座の間に男二人の戯れる声が響く。聞こえるのはここに残るエレンとリヴァイなの声だが、今しがた敬語で喋ったのはエレンの方だ。荒々しい口調で上記の言葉を発したのはその場にいるエレン以外のもう一人の人物、リヴァイである。今の無表情な彼からは先ほどまでのエレンを前にしての恭しさは微塵も感じられない。彼は頬杖をつき、はぁ、と面倒そうな溜息を吐く。
「お前も飽きねぇなぁ。死に様なんかパターン化してるだろうにそう面白い物か?」
「リヴァイさんも前までは愉しんで嗜んでたじゃないですか」
「飽きた」
「ふ…くく、」
「何だ、何が可笑しい」
「今日、最後の大臣を処刑しちゃったんです」
ふふ、と艶っぽい声をあげ玉座に座るリヴァイの上に腰を下ろし、エレンはリヴァイの首に腕を絡めた。まるで女が男にすり寄る体勢である。
「…最後の大臣を殺したのか…」
「いけなかったですか?」
「いや…悪くない。お前の好きにすればいい」
「リヴァイさんならそう言ってくれると思ってました」
「お前を散々犯した奴なんだろう?」
「はい」
「拷問は愉しめたか」
「そりゃあもう」
「なら、いい。その場を俺が見れなかったのが残念だが」
「あれ、人の死に様には飽きたって言ってませんでした?」
「お前が愉しむ様を見たかっただけだ」
「ああ。そっちですか」
「…ここはお前の国だ。気に入らねぇ家臣を消したところで誰からも言われることもねぇ。お前は好きなようにやれ、エレン。その影で俺も好きなようにさせてもらっている」
「ここはリヴァイさんの国でもありますよ?この国は俺達二人の物です…好きなようにって言いますけど、実際リヴァイさん何をやってるんです?酒も煙草も女も欲しがらない、ギャンブルもしない富も名声もいらない、俺と違って処刑狂いでもない、それと言って何も問題も起こしてくれないじゃないですか。本当に好きなようにやってるんですか?リヴァイさんはもっと欲をもったほうがいいと思います。褒美を渡す側も何を与えればいいのか悩んで困っちゃいますよ」
「そうか」
「そうです」
「…」
「ね、リヴァイさん。それより…もういいでしょう?そろそろ、ねぇ?俺にも、ご褒美、くださいよ…はぁ…リヴァイさん」
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