パラレル short

□惨劇Lover!
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「…リヴァイ…」
血反吐を吐きながらベッドに横たわる彼に寄り添うエレンが涙目でハンジを見上げた。切羽詰ったエレンの声に彼女も覚悟はしていたがまさかこれほどとは。微かな息を漏らし苦痛に顔を歪ませるリヴァイを見て戦慄が走る。どこから手を付けていいのかすらわからない、取りあえずは出血を止めるためハンジはリヴァイの血だらけの服を脱がせ傷口を縫い合わせる事から始める。
「ハンジ、さん」
「…手酷くやられたね」
「う、うぅ…」
「新参者にでもやられた?」
魔王として世に君臨するリヴァイにとって次々現れる勇者たちに命を狙われるのは運命だ。新参者の若い勇者に可愛くお仕置きすることもあれば練者の熟年勇者相手に死闘を繰り広げる事もある。いずれリヴァイの首を取る者が現れるのは覚悟していたがここ最近、強者勇者の話はとんと耳にしていない。レベル1の勇者にリヴァイがやられるとは到底考えられないし、一体、誰にやられたのか。百戦錬磨の彼をここまで追い詰める者は、一体。
懸命にリヴァイを守ろうとエレンも戦ったのだろう、体中傷だらけでドロドロの服を纏って悔しそうにリヴァイの手を握っている。
「ここまでリヴァイがやられるなんて、一体」
「俺も、姿は見てないんです」
「…姿は見てない?リヴァイと一緒にいなかったの?」
「いえずっといました。リヴァイさんとこの部屋で俺一緒に喋ってて…」
「じゃあ、遠距離からの攻撃魔法でも受けたのか。にしては、部屋はそんなに荒らされてないし窓も割られてない…一体どうやって」
「それがよくわからないんです」
「どういうこと?」
「初め、リヴァイさんが床に落とした羽ペンを踏んじゃったんです」
「え?ペン?」



―――っ痛!

―――どうしました?リヴァイさん。あ、血が出てるじゃないですか

―――ああ、チッ…床が汚れた

―――ああダメです歩き回っちゃ!ベッドに座って下さい、すぐに薬と包帯を持ってきますから

―――大げさなんだよてめぇは

―――でも…

―――…チッ。持ってくるなら、さっさともってこいグズ

―――は、はい!



「それで?」
「それで薬と包帯持って来て。傷口の洗浄して薬塗って、俺なりに処置しました」
「ああ、リヴァイの右足にだけ包帯が巻かれてるのね。で、それから?」
「そしたらリヴァイさん、急に痛がりだして」
「え?」
「尋常じゃない苦しみ方だったんで俺、すぐに薬草を取りに行ったんです」
うう、と堪えきれなかったのかエレンがグズグズと泣き出した。健気にリヴァイの手を握り「リヴァイさん、俺を残して死なないで」と喚いていて見ているこちらも涙を誘われるが、ここで何か嫌なモノを感じ取ったハンジはエレンに気付かれないようそっとリヴァイの足元にある、救急箱の中身を確認する。中にある包帯と薬、それに傷口を洗浄するために使ったであろう消毒されたみ
水の入った瓶を手にしたとき。ハンジの動きが止まった。
「…ねぇエレン。消毒って、これ使ったの?」
「え?…あ、はい。一応綺麗な水がいいかと思って。けど」
「…」

装飾もないシンプルな透明の小瓶。貼られたラベルに書かれている文字は



『聖水』となっていた。
「それを使ったあたりからリヴァイさん痛がり始めて」
(そりゃそうだよータツムリの傷口に塩塗られるようなもんだもん)
魔王、と言うからには例え容姿は人間と変わらなくても種族上、リヴァイはアンデッド系だ。アンデッドと言うからにはこの世の理など一切通用しない特殊な身体で、全生命を癒すホーリー系の魔法やそれを施されたアイテムなんかには滅法弱い。うっかり使われたらアン(非)デッド(死)なのに死んでしまう事もある。勘違いされがちだが存外デリケートな種族なのだ。
「…それでこんななっちゃったの?体中射抜かれてるこの傷は一体…」
「その後、山に薬草を取りに行って戻ってきて煎じてリヴァイさんに飲ませました」
「だからエレンこんなに泥だらけなんだね…で。煎じた薬草見せてもらっていいかな」
「はい…これです」
「…」
「え。毒草ですか?俺間違ってました?」
「いや。回復に適した薬草だよ」
「ああ、よかった!」
(でも何で回復してないんだろう。ホーリー系じゃなければ回復するはずなのに)
「リヴァイさん、ね。起きてこれ飲んで下さい、ハンジさん言ったとおり回復しますから!」
「…や、やめっえれっげふ…!ハンジ…!」
「ほらもっと飲まないと!ダメです!うう、リヴァイさん。煎じ湯も飲めないほど衰弱して…」
「…」

心底辛そうにリヴァイを介抱するエレンははらはらと涙を流し懸命に薬草の煎じ湯を飲ませようとする。銀食器のグラスを手に持って。
「リヴァイさんお願い、飲んで…死なないで、グスッりうぁいさぁ、うええん」
「…助けてくれ…ハンジ…」
「…」
古来から銀には魔よけの力がありその力は狼男や吸血鬼退治にも用意られるほどで名高い。触れるものは何だって浄化してしまうのだから、魔族であるアンデッド系の種族から見ればそれこそ魔の鉱物だ。何だって浄化してしまう。触れるものが例え水だって。
聖水に変えてしまう。

(塩を塗られたカタツムリが塩水飲んじゃったみたいな…)

憫然たる状況にハンジは微笑を浮かべるしかない。
「リヴァイさん、これ飲んだら苦しみだして。もしかしたら毒かもって思ったから魔方陣の上に寝かせて聖なる祈りを謳ったんです、そしたら今度はのた打ち回って呻きだして」
「ほほう、毒消しにつかう浄化魔法だねぇ」
「何とか回復してほしくて、滋養になるっていう崖に生えてるこのキノコを採りに行って」
「うーん図鑑でこのキノコの横にドクロマーク描かれてなかったぁ?」
「はい、このマークはいずれ自分が世を治めたときに今虐げられてる者達へ広める『救いのマークだ』ってリヴァイさん言ってたので」
「あっれー何かその話知ってるーw」
「そのキノコでスープ作って食べようとしないリヴァイさんに無理矢理飲ませたんですけど」
「銀食器で」
「はい」
「ちょww聖水に毒ww」
「でも、よ、余計苦しみだして」
「うんww」
「もう何かの呪いかと思って、グスッ麓の教会の司祭様たち呼んで洗礼儀式やってもらってそしたら、そしたらリヴァイさん発狂して」
(www魔王に洗w礼w)
「俺も、つたないですけど悪魔祓いの呪文唱えてリヴァイさん助けようとしたんです!けど、けど、叫ぶわ呻くわ吐血するわ悶絶するわでいよいよダメで。もう、ホントに、マズイって思って」
「でww何やったのww」
「俺のありったけのMP使い果たして、ホーリー最強呪文かけました。空から100の天使たちが現れて聖なる火矢で悪しきものを消滅させるって魔法ですっ」
「おwwふぅwwアンデッド殲w滅w魔法ww」
「これで悪いモノは毒でも呪いでも消えるはずなんです!しっかり天使たちの矢を受けたはずなのになのに、なのにぃうわああんリヴァイさん何でこんな!誰にやられたんですかあぁそいつ駆逐してやるぅぅ!!」
「wwww」


うわんうわんとリヴァイを抱きしめながら泣きだしたエレンは流す涙をだばだばリヴァイに浴びせている。普段のリヴァイなら「汚い」と言って平手打ちの一つも飛ぶだろうがそれすら出来ないほど深いダメージを負ってしまったらしい。きつく締められるエレンの腕の中、ピクリともしないで廃人の様に血を吐きながら大人しくなっている。
その様を見てハンジは


「リヴァイさああん、リヴァイさん、嫌だ死なないでください、うああん、ああん!」
「…ハンジ…助けろ…」
「ハライタwwウフェwwww」

笑いで痛む脇腹を擦った。

「ハンジさん笑ってないで助けてくださいよ!リヴァイさん死んじゃう!!」
「ひふ、ひー、はぁー…あーごめんごめん。今、処置するよ。泣かないでエレン」
「う…クスン…」
グズグズに泣き崩れるエレンの背を擦りながらハンジは床に黒いチョークで魔方陣を描き始めた。心配そうにエレンはそれを見守る。
「エレン。もう一つ薬草を集めて欲しいんだけどお願いしていいかな」
「ん…はい…でも、」
「リヴァイの事は私が見てるから。ね?」
「…はい。お願いします…」
「…」

…。

広い部屋に、横たわるリヴァイと魔方陣を絵がき終えたハンジが残される。
「さてと。出来たよリヴァイ、歩ける?」
「…手…貸してくれ」
「いいよ」
「…っ、少しは優しく、引っ張れねぇのか」
「あなたの首絞めてたエレンよりかは、優しいでしょ」
傷口を縫うため上半身裸にさせたリヴァイをズルズル引っ張りハンジは彼を魔方陣の中央に横たわらせた。魔方陣から出たハンジが何やら呪文を口にすると、ジワリと方陣の線から紫の光が上がり始める。
「しばらくそのまま横になってれば回復するよ。傷も癒えて、体内の毒も浄化作用もじき消える」
「…助かる…」
「ってか、聖水の時点で抵抗の術はあったんじゃないの?相変わらずエレンには甘いねぇ、いつもは勇者と聞いたら問答無用で敵視するのに」
「うるせぇ」
「あなたがタフだから言わなかったけどさ。そろそろ魔王だってこと、エレンに打ち明けたら?将来勇者になろうとあなたの元で修行してるつもりのエレンに、いつかホントに殺されちゃうよ?嫌だよ迂闊にポックリ死んじゃったらそれこそ笑えない」
「…言えるか、バカ野郎…」
「?」



『リヴァイさんっ痛みますか!?すみません俺下手くそで』
『どうしたんですかリヴァイさん苦しいんですか!?俺薬草とってきます!』
『リヴァイさん…これ食べて…キノコ…』
『魔方陣っすぐ描きますからリヴァイさん死なないでくださいね絶対ですよ!?』
『今、今楽になりますからね!絶対俺が助けますから!』
『うわああありヴぁいさああんしなないでぇぇぇ』


「…」
「まぁ、あんな顔されて言われたら、確かに言いにくいけど」
彼が悪名高い魔王だとも知らずにもろ刃の慈愛を注ぐエレンと。傷どころか死にかけながらもエレンを気にかける魔王リヴァイ。つり合いも調和もとれるはずのない組み合わせだと誰でもわかることだ。本来は強者のリヴァイがエレンを殺すなり従わせるなりして手籠めにするのが筋に合った話だ。なのにリヴァイは何かとエレンを可愛がってるものだから滑稽だ。絶対的魔王ともあろう男が。一人の青年に骨抜きにされ、あげくホントの魂まで奪わそうになっているのだ。
魔王に従う身としては、ハンジからすれば笑えた状況ではない
はずだ。だが彼女は、
「でも、ま。私は、優しい魔王様ってキャラ設定は嫌いじゃないんだ」
「あ?何の事だ」
「あなたの想いが報われることを祈ってるよ」
「…チッ…」
「でも今度デレたらあなた死ぬからね」
「…うるせぇ…わかってる事だ」
「エレンのためなら死ねるって?」
「黙れメガネ…」
「はは」
傷だらけの彼が健気に思えて、手を貸したくなってしまうのだった。



惨劇Lover!
(血反吐散らして命絶え絶え)
(それでも君を愛してる!)



ハンジは願う。
この先二人がどうなるのかわからないが。我が友人の不器用な恋が、どうか実りますように。




.fin
*あとがき→
2014/09/03
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