パラレル short

□Beware of he dearing gifts!
1ページ/9ページ

「エレン、あと何軒?顧客名簿はちゃんと持ってる?」
「あと…一軒で終わる、あぁこの先の森の中の家だ」
「なら一緒に行く」
「ええ!?いいって、俺一人で行けるからミカサは先に家に帰ってろよ」
12月24日の深夜。シンシンと雪降る静かな町でヒソヒソと何やら怪しげに話す2人の声。
「遠慮しなくていい。それより早く仕事を終わらせないと」
「大丈夫だって!!いいから帰れよあとこれだけで終わんだから」
「いい。私は行く」
「だ〜…家帰ったら風呂入りてぇから、誰か先帰って湯を沸かしててほしいんだけどなー」
「先帰ってるね」
「おぅ」
ミカサ、と呼ばれた少女は踵を反してまるで猫が走るように音無く素早く立ち去った。用事を言い付けられたのが嬉しかったのか手はなぜかガッツポーズだ。その背中が小さくなるのを確認して
「…っし。あとは、え〜…りばい、ん?リヴァイ…って読むのかな。まぁいいか、リヴァイ君の家、あとはそこだけだな」
縁に白いフワフワが着いた真っ赤な服を着て、軽くなってぺそぺその袋をいかにも重そうに背にしょいながらエレンと呼ばれた少年は少女とは逆の方向へ向かって歩きだした。



「うわ、家広いなぁ…えーと寝室どこだ…?って暗いなぁまったく見えない…」
「何やってる」
「ぎゃあ!!」
火の消された暖炉から屋敷内に侵入出来たエレンだったが運悪く住人に見つかってしまった。失敗だ、この仕事をするにあたっての第一の掟、『住人に姿を見られてはいけない』を今日最後の仕事で破ってしまった。照らされたランプの光にエレンは顔を隠す。
「泥棒か?サンタに化けるとは考えたな。だが俺に見付かった以上お前もう家に帰れないな…しばらくは地下牢暮らしだ」
逆光で顔は見えないが声は大人びている。しまった。よりによって大人に見つかるとは。リヴァイ君の父親だろうか。
「どろぼ!?お、俺泥棒じゃありません!!…って、まぶし…」
「じゃあ何だ、ご丁寧に白い袋も持ってきやがって、まるで自分が」
「さ、サンタクロース、です!」
「………」
「…まだ、非契約ですけど…」
まずい。もう終わりだ、これは。顔を青くしながらエレンは思った。サンタの掟その2『決して身分を明かさない』それも破ってしまったのだ。
早くに両親を亡くしたエレンがサンタクロースの仕事に目を付けたのは給料の高さと安定した永久就職先だからだ。夏の間は違う仕事につけるし、忙しいのは12月だけ。何とも美味しい仕事!ただ、掟を破ってしまうと即クビになるが。
「………」
「今年、雇われた新人です…ぁ、嘘だと思われるかもしれませんがサンタクロースって本当にいるんです!今日はこちらのお子さんの、プレゼントを!プレゼントだけ置いたらすぐ出ますんで、サンタ本人じゃないのが申し訳ないんですが…地域ごとにプレゼントの配達員がいてそれのアルバイトで」
「証明書は?」
「え」
「お前がサンタだっていう証明書はあんのか?」
「ない、です、けど…俺、アルバイトなんで」
「アルバイトだろうが何だろうがサンタってのは仕事上人の家勝手に入る以上、自分がサンタだっていうサンタ証明書が発行されんだ。持ってないのか?」
「………」
(え…そんなの俺もらってないよな…。ってかこの人、サンタクロース信じてるんだなぁ。大人なのにめずらしい、ん…?あれ?
目が、慣れてきたから見えてるけどこの人、もしかして子供…?声のわりには、なんていうか、背が随分…)
「…持ってねぇのを見ると、偽もんだな。やっぱり泥棒か」
「あの…」
「何だ」
「おと…お兄さん、ですか?」
「あぁ?」
「失礼しました。お父さんで?」
「この家には俺一人で住んでるが」
「…えぇ!?じゃあ君が、りばい君!?」


どごぅっ!!


「ぎゃふん!!」
「てめぇに君付けされる歳じゃねぇ」
「うぐぅ…ゲホ…」
「ふん…」
突然腹を蹴られエレンはうずくまる。まるでゴミをみるかの様な目でエレンを見下ろし、エレンが背にしょう白い大きい袋を取り上げた。中を確認するとまだ何も盗られてはいないようだが、袋の底に可愛らしい包みに入った小さなボトルがひとつある。瓶の形からその中身が酒だとわかったのはその酒がリヴァイの好物だからだ。
と、いうことは、やはりエレンはサンタと言うことになるのか。リヴァイとは今日初めて会った事になるエレンが、リヴァイの好みの酒を知ってるわけがない。まるでサンタクロースに仕事を委託されたプレゼント配達員のようで、
でもエレンはサンタ証明書を持っていない。身分証明になるサンタ証明書がないのにサンタクロースの仕事は受ける事は出来ないはずだ。なら、エレンは何故ここに来たのか。泥棒でもサンタでもなければ一体なぜ?考えれば考えるほどリヴァイの眉間のシワが深くなる。
エレンの行動にまったく理解が出来ないリヴァイはその場でしゃがみ、うずくまるエレンの前にランプを置いた。
「いっ…てぇ、ケホ…」
「…てめぇ、本当に何しに来たんだ」
「だ、から…プレゼント、を」
「ほー…この小せぇ一瓶がプレゼントか?不法侵入にしては随分安い言い訳だが、信じるには不十分だなぁ」
「ほ、んとなんですっケホ…」
「まぁ、いい。酒のセンスは悪くない…これを置いて今すぐ出ていけ。見逃してやる」
「………ぅ…れ、なぃ…」
「あ?」
「帰れない、んです…このままじゃ」
「金ならやらねぇぞ?」
「ちが…お客様に、満足していただけないと…帰れない、ん。です、俺」
「客…?」
そう、それがエレンの最後の仕事だった。
いくらエレンがサンタクロースに志願してもサンタクロースになるのは簡単じゃない。知識から体力まで幅広い能力の高さを要求される、そして今回、この配達は各地にいるサンタクロースに雇われるための最終試験なのだ。
試験の内容は無事に配達を済ませ、後日配達先にサンタクロースからの派遣社員がアンケートを取りに来るのだが、配達先の子供達から満足いく配達だったかその感想で試験の結果が決まる。
過去の事例では、子供に見つかってしまい慌てた試験生が乱暴な言葉で子供を寝かし付けようとし泣かれて失格、
暗闇の中で配達先のペットを誤って踏んづけつけそのペットが死んでしまい失格、
寒さゆえ急な腹痛に襲われトイレを借りたが運悪く詰まってしまい迷惑をかけて失格、
中には煙突から落ちてしまいその音で家族全員が起きてきてサンタだということがバレてしまったがそこの家族と意気揚々し、楽しいクリスマスパーティーになったと喜ばれその試験生はなんと合格、という結果の者もいる。配達先の子供の満足度で、この試験の結果が決まってしまうのだ。だからエレンは焦っていた、今このまま帰ったら後日くるアンケートにリヴァイが何と答えるのか。想像は容易い。
「――お客様に満足されないと俺っもう…仕事出来ないんですっ働けないんです!…俺、××地区の出身でいい働き口は、もうこれしかなくて、だから、お願いします…どんな事でもしますから、俺で、」
「××地区…て、事はお前」
「……どうか、俺で、満足、していただけませんか」
「…あぁ。そっちの仕事か」
リヴァイの目が一瞬開かれた。
××地区はエレンの出身の地区で、治安は最悪、犯罪の掃き溜めの様な地区だ。生まれがこの地区だと人に言ってしまえば大抵は仕事などもらえない。関わりすらも嫌う人間が多いだろう。エレンとミカサは訳あって生まれはその地区出身だか、生まれてまもなくすぐに違う地区に引っ越したので今はその地区に近寄る事もしないが、いくつになっても、出身地の名前は重くついてくる。だから給料の良いサンタクロースの仕事は悲願なのだ。
そして生まれてすぐその地を離れた二人は知らないが、町の男達の間ではその地区は娼婦街としても有名だった。
「…いくら客引きにしてもサンタのフリするのは悪質すぎる。それに俺は男には興味がない。他をあたれ」
「興味…って、この仕事に男も女も関係な

どふぅっ!!

ゲホっひぐ…!!」
「お前を相手にしてる客と一緒にすんじゃねぇ」
「〜〜〜うぐ、うぅ…」
「………」
汚い物を見たような目を閉じ、息一つ吐いて、ランプを持ちリヴァイは立ち上がった。腹に2発目の蹴りを入れられエレンは再び床にうずくまる。リヴァイは、エレンが持ってきた酒の小瓶をズボンのポケットにねじ込みながらもう一度エレンに冷たい視線を送る。
「帰れ」
「〜〜〜……」
「…二度は言わない」
リヴァイは背を向け歩き出だす

歩き出そうとした、が
「………」
うずくまるエレンに左足のズボンの裾を掴まれた。
「…お願い、しまゴフッ…!します…満足…」
「………」
「…させ、満足させてください…」
「はぁ…違う客を探せばいいだろう。今日はクリスマスイブだ、お前みたいな趣味を持つ人間も相手探してそこらに転がって…」
振り返ったリヴァイの目が一瞬見開かれた。
「満足、させますから、必ず」
「………」
「…あ、の。りば、りばい…くん…?ふぇぶ!!」
ぐり。見下ろすリヴァイが黙って足でエレンの頬を軽く踏んだ。ランプの光が顔に直接あてられて眩しい。
「ちょ、ふぇぶっりぶぁひふ、やみぇ…っふ…!」
「………」
ぐり。今度は左の頬。
ぐり。もう一度右頬。
ぐい、今度は顎の下に足を入れてきて軽く支え上げられる。ふぐふぐ情けない声を上げされるがままのエレンをよそに、品定めするかのような真剣な目でリヴァイはエレンを見下ろしていた。1分ほど、足でぐりぐりとエレンの顔を隅々まで確認した後、
「…悪くねぇな」
「うぇ?…う、わぁああ!!ちょっと!なにすっおおろして」
「っせぇ、黙れ」
あわあわあわ。パクパクと口を動かしてエレンはリヴァイに訴える。リヴァイが小さく何か呟いたかと思うと素早い動きでエレンはリヴァイに抱き抱えられたのだ。何とかして下ろしてもらいたいが殺意を抱くようなリヴァイの視線に刺され喉から出掛けた言葉も引っ込んでしまった。
「俺を満足させてくれんだろ?」
「ぇ。はい…」
「…お望みの仕事をさせてやる…俺が満足するまでな」
「………」
ギシ…ギシ…
胸に抱き抱えたままリヴァイは階段を上がっていく。小柄ながら、この少年はなんて力持ちなんだろう、と的はずれな事を思いながらエレンは黙って、リヴァイの寝室に連れていかれた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ