HTF家の事情

□ポップ・ロック・デイ
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ジーーーー。
カメラが回っている。

派手な色とりどりのセットの中で、僕たち兄妹は気持ち悪いくらい口角を吊り上げた。作った明るい声で言い放つ。

「はじける楽しさ!」

「オッケー!」

黒いTシャツの監督が叫んだ。終わった……。

「おつかれ」
僕らの保護者兼監視役で来ていたラン兄がやって来た。ラン兄も出ないかと言われたが全力で拒否したらしい。

今、僕たちがやっていたのはCM撮影。父さんのオモチャ会社「トップ・ポップ・トイ(通称TPT)」が新作を出す度に、ギャラの出ない僕ら社長の子どもが子役として駆り出されるというワケだ。

今回はキャンディ菓子の宣伝。これがまた凶悪で、鉄みたいに固いキャンディの中に強烈なポップ・ロックーーパチパチキャンディって言えば分かるかな?ーーがぎゅうぎゅうに詰まってて食べ終えるのに相当苦労する。
きっと子どもたちはこれでサイダーのロケットを噴射させたり、嫌いな奴のスニーカーの中に忍ばせたりして楽しむだろう。

父さんの会社のお菓子は子供ウケはやたらいいから、今回もきっと当たる(親の評判はさておき)。

CMに出ることでクラスのやつからからかわれるのは癪だけど、街中のどこの子どもよりも先に新しいお菓子やオモチャが手に入るのはやっぱり役得だ。

僕は隣の妹を見た。なんだかいつもより震えてる。

「あ、あのね、このキャンディ、すごく痛くて…」
炭酸も飲めないフレイキーの事だ、こんな凶暴なポップ・ロックに耐えられるわけない。

そうだ!僕はふと思いついた。
ズボンのポケットに隠していた小さなエアガンを取り出す。スニフとの共同開発で、ラン兄も見つけられないくらいコンパクトなやつだ。

こっそり、もらったキャンディを装填する。僕の嫌いないちごミルク味。ピンク色の宝石みたいな銃弾を僕はフレイキーの足元にお見舞いした。

ガシャン!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

「ひぃいぅわぁぁあぁあ!!!!」

予想以上の反応に僕はニンマリした。やっぱりこいつのリアクションの良さは一級品だ。
キャンディが硬いぶん威力もバツグンだし、今度スニフと新しいイタズラの作戦を練ろう。

ゴキゲンな僕をよそにフレイキーは涙目だった。

「カド兄ひどいよぉ……ぼく驚いて死んじゃうかと思った……」
「生きてるじゃん。良かったな」
「!?……もうやだよぉ……」

床でキャンディの生き残りがまだ恨めしそうにはじけている。

まだ撃ち足りない僕はありったけのキャンディを装填してフレイキーに銃口を向けた。ニヤついた僕を見てガタガタ震えながら駆け出すフレイキー。


「やだっ、こないでえええ」
「抵抗しても無駄だ!こっちには動かぬ証拠があるんだぞ!」
「証拠ってなにいいいいい」

遠くでラン兄が「待て!カドルス止まれ!」と叫んでいたが当然無視だ。
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