HTF家の事情
□一家の朝
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午前7時。
ようやく一仕事終えた俺は、大きく息を吐きながらテーブルの椅子に腰を下ろした。
「はぁー……」
何の仕事かって、それは弟妹たちの目覚まし係である。
強引に毛布をひっぺがして、むにゃむにゃとごねるヤツらを揺すぶったり頬をペチペチしたりしてそれでも起きないならリビングまで引っ張って連れていくという一連の作業を5回近く繰り返せばバテるのも無理はない。
ペチュニアやラッセルのように自分で起きてくれればいいものを、我が家のガキどもは全員低血圧で朝が弱いときている。
嫌な所で似るものだ。
「そういや俺も低血圧か……」
呟いて大きくあくびをする。
俺は別に早起きしなくてもいい身分だが、何て言うか、まぁ、朝飯は家族そろって食べるもんだ。
とその時、俺の目の前に皿をのせた手がにゅっと突き出された。甘い匂いが胃を締め付ける。
「ほら、ランピーの分だ」
目線の先には長男ーーーースプレンディドが並びのいい歯を見せて笑っていた。
軽く礼を言って皿を受けとる。
俺の好きな、生クリームとバナナのサンドイッチだった。
「それと、皆の分。テーブルに並べておいてくれ」
声と共に次々とカラフルな皿が差し出される。弟妹の好みに合わせて中身を変えているらしい。朝から元気な奴だ。
皿の中身を確認しながら、テーブルに並べていく。
カドルスとペチュニアは卵、フレイキーとラッセルはハム・チーズ、スニッフルズはシーチキンだ。
弟妹たちの好みを全て把握している俺も兄さんとそう変わらないな。
最後にナッティの皿を置く。
俺と同じ生クリーム&バナナサンド。
ただし奴のはクリームに大量の砂糖が入っている上に、パンの内側に濃い蜂蜜を塗りたくってある危険物だ。
そういえばこの間、ナッティのおやつをつまみ食いしたカドルスが冷蔵庫の前で奇声をあげながら悶絶していたっけ。
俺はふと横の壁にかかっているコルクボードに目をやった。
小学校の保護者会のプリントやこの前家族そろって花見に行った時の写真にまじって、正方形のメモ用紙がピンで留めてある。
『自分のおやつには名前を書くこと』
黒のサインペンで殴り書きされた文字を見て思わず苦笑してしまった。
視線をテーブルに戻す。
多分このサンドイッチはうかつに手を出すと死傷者が出るレベルの代物だ。
そんなものを朝食に平らげるあいつの気が知れない。