紅薔薇U

□2
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―ガッ




―バシッ





「うっぐ」





―ガッ、ガッ





まだだ、もっと、もっと.....








我を忘れて、もうすでに戦闘意欲のない相手を殴り続ける。

どれくらいたっただろうか。

教師たちが真っ赤な顔をしてこちらに走ってくるのが見えた。

やめるつもりはなかった。

でも、今にも死にそうに倒れる奴らを見てると、少し正気に戻って来た。

弱すぎて、殴った気もしない。

なんだこいつら。

口ばっかで力じゃ何も反抗してこれねぇじゃねーか。

こんな無力な奴らより、俺は下の人間らしい。

この世界は、弱肉強食ではないみたいだ。

あの殺伐とした、今日を生きるのに必死だったころがばかばかしく思えてくる。











教師たちに押さえつけられ、俺は今に至る。

特別鑑別所。

問題を起こした0区の人間が、ここに入る。

もはやあの学校に戻るのは絶望的。

いや、戻りたいとも思わないけれど。

もしかしたら、また少年院かもなとか思ったけれど、そうでもないらしい。

もとはと言えば、あいつらからふっかけてきた喧嘩だし。

あれ、あいつらはからかっただけだっけ?

先にキレたのは俺の方だ。

それでも俺がキレた原因はあっちにある。

0区だからって、あからさまに除け者扱いするからだ。

俺と同じ0区出身でも、きけばD級とランクが低い奴にまででかいツラして。

でもあいつはいいんだって言っていた。

生きていられればそれでいい、と。

俺にはそうは思えなかったから、だからあいつらを殴った。

別にD級のあいつのためじゃない。

俺が我慢できなかったから、小さかったから、殴ることしか感情の抑え方を知らなかったから。

俺が今更弁解も虚しいだろうと殴ったことに関して口を閉ざしていたにも関わらず、鑑別所どまりになったわけは、もしかしたら、あのD級がかばってくれたのかもしれない。

10人くらい怪我させて、そのうち3人くらいは全治2,3か月の怪我を負わせたのに。

もう、確かめようなんかないけど。

てゆうか、あいつの名前なんていうんだっけ。

聞いたことなかったな。

聞けばよかったなと、少しだけ後悔する。











それにしてもあからさまだった。

あいつらは俺たちの、0区の、何を知っているんだろう。

「人殺ししか脳のない集団」

そんなことはなかった。

「教養も道徳も何もない、獣」

違う、違う、傍から見ればそうかもしれなかったけど、俺は別として、あの紅薔薇の仲間を獣だと思ったことなんて一度もない。

「あいつらは人間じゃない、近づくな、殺されるぞ」

なぜ人間として認めてもらえないんだろう。

少なくとも1週間は我慢したんだ。

変わった環境に慣れようともした。

わからないことがあれば、声をかけて聞いてみようと、コミュニケーションをとろうと思ったりもした。

だけど、みんな逃げて行った。

別に俺には、お前たちを殺す理由なんて何もないのに。

だけど、正面から言うでもなく、ひそひそと聞こえてくる言葉には我慢がならなかった。

なぜ、正面からこない?卑怯だ。

俺は睨むだけで誰も近寄らなかった。

でも弱そうなD級のあいつは、すぐに的になった。

この言葉も、外で初めて聞いた。

“いじめ”

それは見ていてイライラするものだった。

ここの人間はこれを見てなんとも思わないのか。

狂ってる、俺たちと残酷さは同じじゃないか。

なんであいつがこんな仕打ちを....。








1回だけ話しかけたとき、彼は言った。

「生きてさえいれば、こんなこと」

彼は強いと思った。

今、急にその言葉を思い出してまた、恵一の言葉も思い出す。









“龍、強いってどういうことか知ってるか。

強いっていうのは、拳の強さだけじゃない。

死んでもいいと突っ走る度胸だけじゃない。

1つ、大切なことがあるんだ。

強さの意味をはき違えればそれは傲慢だ。

守るものを見失うな。

もしかしたら外での強さは、0区とは違うかもしれない。

弱いものを守るために、己の意志を守るために、仲間を守るために使う強さは、心の強さだ。

自分を見失うな、龍。

お前は名前のように強い男だ。

お前のことも、お前の強さも、俺は信じているよ。

堕ちるな、何があっても、昇っていけ”











多分恵一のいう強さは、あのD級の奴がもっているものを言うのだろう。

少しわかった気がした。

でも、俺には無理だ、恵一。

わかっても、恵一の言う強さに納得はできない。

俺は弱いよ。

弱くてもいい。

俺はあの、仲間と生きた時間を否定されることだけは、どうしても耐えられない。

小さいって笑われるかもしれないけど、それが、俺の守りたいものだ。

恵一、不器用でごめん。

俺はこの世界、きっと上手く生きていけないと思う。

こんなダメな俺のこと、呆れながら見ていてくれ。

どこに行っても、俺はゆずらないものはゆずらない。

これが、俺の生き様だ。










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