緑の獅子


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ダイチが死んでからのアキトは荒れていた。

平気で人のものを盗み、暴力で弱者を脅し、自分を守った。

心をもたない獣のように、毎日生きているという実感もなく同じようなことを繰り替えしながら朝を迎えた。

でもそれも長くは続かなかった。

8歳の少年が1人で生きていくのにも、限界というものがあった。

彷徨い歩き、少しのパンをかじり、路地裏に座り込み、また寝床を探し歩く。

強そうなやつを見つけるとそこから離れる。

日に日に食糧を見つけるのは困難になっていった。















ある日、アキトは意識がもうろうとする中ふらふらと歩いていた。

気を抜けば倒れそうだった。

お腹が空いて死にそうだった。

そんな時、いい匂いがした。

何か料理の匂い。

何か月も嗅いだことのない火を通した料理の匂い。

懐かしい匂い。

久しぶりに記憶の底に追いやっていたダイチのことを思い出した。

たまにダイチの家でご飯を御馳走になっていたっけ。

ダイチの家のご飯はいつも温かった。

本当に美味しかった。

アキトは匂いにつられて歩いた。












たどりついたところは、もとは孤児院のようだった。

灯りがともり、花壇がよく手入れされていた。

アキトは吸い込まれるように門に手をかけた。

だけどそこでアキトの力は尽きた。

ドサっと重力に逆らわずに倒れこむ。












最後に視界に入ったのは、真っ赤な真っ赤な薔薇だった。





















そんなアキトを抱え、施設の中に入れる1人の老人がいた。

老人の瞳はこの上なく優しげだった。













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