短編

□キスは契約違反です
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圧倒的王子の鹿島がいるなら、圧倒的姫がいたっておかしくはないはずだ。


「姫子なら昔からお遊戯会では主役やること多かったから演技上手いし、絶対やれると思うんだけど!」

『小さい頃はそうだったかもしれないけど…今の私に演技なんて恥ずかしいよ…』


黒髪ロングのまさに正統なヒロイン像に近い女子生徒。
鹿島の幼馴染らしく、高校までずっと一緒らしい。
そのせいか、この2人が並んでいるととても画になる。まさに王子と姫。


「一生のお願い!
ヒロイン役の子がまさかのインフルエンザで出られなくなっちゃったんだよ!もう姫子にしか頼まない!」

『う…』


頭を下げてまで懇願する鹿島に戸惑いを隠せない夢野。


『わ、わかった。今回だけ、やる』

「ほんとに!?ありがとう!助かるよ!!」


早速堀先輩に伝えてくるー!
笑顔でその子を置いて堀先輩に代役が決まったと報告しに行った鹿島。

扱い。幼馴染の扱いがひどいぞ、鹿島…!


『遊ちゃんに甘いの、直さなきゃいけないなぁ』


ぽつりと呟くようにいった言葉。
俺にはちゃんと聞こえたぞ。

カリカリ、鈴木とマミコの材料に活かせそうなシチュエーションはメモをとっておかないと。


「野崎くん、なにしてるの?こんな所で」

「佐倉!」

「あ!姫子ちゃんだ。やっぱり今日も可愛いなあ〜」

「ああ…御子柴と同様、マミコのキャラを引き立てる人材だ」

「(いいなあ、野崎くんにこう言ってもらえるなんて。姫子ちゃんは可愛いから当然っちゃ当然かぁ…)」





王子…!私を置いて行かないでください…!


すまない姫…!貴女を戦場に連れて行くわけにはいかない


夢野と鹿島の掛けあいは凄まじい勢いで流れていく。
聞いている周りの人たちも作業の手を止め食い入るように見入っている。

普段大人しい夢野に度肝を抜かれた。


「こ、これがギャップ萌えか!!」

「野崎くん!!??」


佐倉が顔面蒼白した。






演目もクライマックスに突入するころだな。
最後は幸せになった二人が口付けを交わす。


「本番はフリでいいよね」

『フリに決まってるでしょ…!?』

「私はどっちでもいいんだけど…」

「鹿島くんは姫子ちゃんが大好きだねえ」

「幼馴染で女の子同士なのにね」

「堀ちゃんの意見は?」

「あいつらに任せる」

「なるほど」


堀先輩は即答だった。
きっと鹿島の顔に夢中で反射的に答えただけだろう。

リハーサルなので見た目は完璧に本番向けの出で立ちだ。
かっこいい王子風の鹿島は、前髪を上げ、若干オールバック。
美しい姫風の夢野は長い髪の毛先を巻いて、銀色に輝くティアラを頭に乗せて。




「じゃあもう一回クライマックスいこうか」


ようやくこの日が来た…私は幸せ者だよ、アニータ姫

ええ、私もよルーカス王子


見つめあう二人。
ベールを捲り上げ、王子が顔を近づける。


 『愛しているわ、ルーカス…=x


あ、夢野がアドリブを入れた。
それも、聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で。
ここであの言葉を言うことでさらに気持ちが高ぶるのか。
周りがざわっとした。


「…!」

『あ、ちょ、ゆう…!』


静かに、合わさった唇。
真正面からはフリに見えるかもしれないが、横から見れば、完全にくっついている。




『約束と違うじゃない遊ちゃん!!』

「ごめん、姫子があんまりにかわいかったから、つい…。
 でもほら、無意識に動いちゃったから、これがまさに役になりきるってことだよね!」

『…はあ…』


堀先輩も何か言ってあげたらどうですか、と俺は提案する。


「よかったんじゃねえか。本番もこんな感じで頼むよ」


明日に控えた演劇は成功するのだろうか。


『遊ちゃん、明日は契約違反のキスはナシだからね!』


鹿島は笑って誤魔化した。


*end

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