短編

□手をつないで
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「姫子!一緒に夏祭りいこ!」

『他の女の子たちは?堀先輩とはいいの?』

「いいよいいよ!私は姫子と行くって決めたんだから」


堀先輩をいじめてる時くらいの
キラキラした笑顔に
しょうがないな、と首を縦に振る。

いつも大勢の女子に囲まれている遊。
「鹿島くん」と
まさに男の子のような呼び方を
されている、そんな幼馴染に
私はいつも話しかけられなくて。

だって普通の幼馴染じゃない。
学園の王子様である遊だから
平民同然の私は臆病で。
だから。


「いつも寂しい思いさせてごめん」

『え?』

「知ってるよ。姫子だけは私を王子扱いしない。大事な友達だし」


泣きそうなくらい、嬉しかった。




会場へ行くと、なんとも大人数。
人並みに酔いそうになるも、
隣を歩く遊に合わせて小走りで並ぶ。


「浴衣似合ってるねー!私も浴衣着てくればよかったなー」

『遊は昔から私服で夏祭り来てたよね』

「あれ、そうだっけ」


トン、と行き違う人に肩をぶつけ、
少しよろける。


『わ、』

「危なっ」


まるで男の人みたいに
私の体を受け止める遊。

重くないか汗かいてにおいがしないか
すごく心配だ。

というかなんでこんな事思うんだ。
女の子同士ってそもそもこんな事
考えたりするっけ?


頭上にある遊の顔。
彼女は余裕な笑顔を浮かべて。
小さく笑った。


「ふふ、次は怪我しないように、手つなごうか」

『恥ずかしくない?仮にも女の子同士…』

「そんなことないよ。だって今の私って男の子っぽいじゃない?」


大丈夫だよ、と手を重ねられる。

じわりと手から伝う熱にドキドキした。
手を繋いだのは、久しぶりだ。


「あっれ、姫子の手ってこんな小さいの?」

『遊の手足が長いだけだよ』

「そっかー!私はなんてったって王子様だもんね!」


本当の王子なら自分で言わないよ…。


なんて言葉は呑みこんで
私はこの短い時間を
楽しむことにした。




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