Short story

□急に口調が変わったら。
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「あれ……? ない」


私はいつもの棚に視線を走らせて、首を傾げた。


図書委員の私が、いつもカウンターで暇な時に読んでいる本が見当たらないのだ。


(誰か、借りたのかなぁ?)


カウンターにあるファイルをチェックすれば、確認は出来るけど、面倒なので、まあいいや。

それに、あの本の読者が増えたら嬉しいし。



そんなことを考えながら、別の本を読む気分ではなかったので、カウンターに突っ伏す。


ちょうど、窓から日差しが入ってきて、何と無くまどろむ。


どーせ、図書室で本借りる人なんてほとんどいないし、と私はそのまま寝てしまった。



***



「──さん、ナナさん!」


「……んぅ…?」


眠い目をこすると、視界いっぱいに広がる水色。


「……って、テツ君じゃん!?」


うわ、カゲ薄くて気づかなかった!



「やっと起きましたか……。

 というか、委員の仕事中に寝ますか普通」


若干、呆れ気味のテツ君。


「いつもカウンターで読んでる本がなかったの。

 それに、あんま図書室利用する人いないじゃん?」


そう言うと、テツ君はため息をついた。


「僕はよく利用するんですが」


「私の番の時には来ないじゃーん」


テツ君とはクラスでは席が隣だったりするけど、図書関連の話はあんましない。


「まあ、それはいいんですが……。

 ナナさんの言ってる本ってこれですか?」


テツ君が見せてきたのは、ピンク色の表紙の……って、え!?


「テツ君! それ、ケータイ小説! 激甘! 乙女!

 テツ君、そんなの読むの?」


思わず、カウンターの椅子に座ったまま、若干距離を取ってしまう。


「それはこっちのセリフです、ナナさん。

 サバサバしてるようで、意外とこういうの好きなんですね」



そう、その本は、いつも私がカウンターで読んでるものだった。


その本はそれなりに人気だけど、ネットで読めるのにわざわざここに借りに来る人なんてほとんどいない。


だから、だいたい私が読んでいたんだけど。


「う……わ、悪い?」


ジト…と見上げてしまう


「……『別に、俺はいいと思うけどな』」


え?

いきなり口調変わった?


っていうかっ、い、いいと思うって……、


動揺を隠すように、私は目を逸らす。


「も、もう! い、意味わかんないっ」



「『わかんなくないだろ? その意味くらい』」



そう言って、しゃがんでカウンターの向こうから肘をついて、余裕の微笑みでこっちをジッと見つめてくる。


……ってか、こ、これって──



「『好きってことだよ』」



「そ、そそそ、それ、本気じゃないでしょ!?


 その小説の真似じゃん!」



私が必死でテツ君の持つピンクの本を指差すと、テツ君はため息をついた。




「はあ……、バレちゃいましたか」



「なんでそんなことすんのよ……」


びっくりするじゃん、と呟くと、


「ドキッとした、の間違いじゃないですか?」


また余裕の表情で聞いてきた。



「そ、そんなわけないじゃんバカぁあああぁぁ!」







ほんとは一瞬だけ。



ほんっとーに一瞬だけ、ドキッとしたよ、なんて、


その余裕の表情がムカついたから、言ってやんない。










急に口調が変わったら。

(ギャップ強すぎにつき御注意ください)





*fin*
 

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