氷帝学園中等部

□恋するロングヘアー
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コート上で揺れる


あなたの長くて綺麗な髪…





*-*-*-*-*-*-*

恋するロングヘアー

*-*-*-*-*-*-*





『泣くことねぇだろ…』


困ったように…、

鬱陶しそうに…、


ぼさぼさに短くなった頭を掻く宍戸くん。


「だって…っつ…だって…」


涙としゃくりで、言葉の続きが出て来ない。


彼が正レギュラーに戻って来れたって聞いて、急いで部室に駆け付けてみたら…


そこに居たのは…


私の大好きな宍戸くんの姿じゃなかった………。


『だいたい、何でマネージャーが泣くんだよ?髪切ったのは俺だぜ?』


そう、ため息を吐く彼の身体は傷だらけで…

短くなったばかりの髪は、不揃いで不恰好…。


だけど、
彼の努力と強い意志が…

痛いほど私にも伝わってくる…。



そうだよ…

泣くより先に言わなきゃいけないことがある…


涙を拭って…
彼を見上げる。



「レギュラー復帰おめでとう、宍戸くん」



さっきまで泣いていた奴が、今度はいきなり祝福の言葉を述べたものだから…

宍戸くんは少し拍子抜けした顔をしてから、照れたように背けた頭で“おう”と答えた。




「また…、髪の毛伸ばすよね…?」
『何でそんなに俺の髪にこだわるんだよ?』
「だって………、綺麗だったから…」



最初は憧れだった…


風に揺れる艶やかな長い髪。


初めて男の人の髪を…


綺麗だと思ったの。




コートの上で…

あなたの身体と一緒に…


髪がキラキラ動く度に、

ドキドキした……。






『じゃあ、今度はお前が伸ばせよ』



「え…!!!?」




頬にかかる、自分の髪の毛先をきゅっと掴む。


『お前ずっと短けぇじゃん』
「だめだめ!私にロングは似合わないもの…」
『そんなとねぇだろ』
「そんなことあるの!!!」


急に大声を出した私を、宍戸くんが鋭い目で見つめる。

その眉間に寄ったシワに耐えられなくてうつむけば…

ため息と一緒に大きな手が降ってきた。


「え?…ちょっ、あの…??」
『誰が、んなこと言ったんだよ?』


わしわしと、私の頭を強く掻き回す宍戸くん。


「も、元彼に…」


目にかかるぼさぼさの前髪から、彼を覗きこめば…
そこには更に深いシワを眉間に作った彼の顔。


『バカかよ!んなの、そいつがただショートが好きだっただけじゃねぇか!』

「え…!!!?」




『俺は似合うと思うぜ?』



ぐちゃぐちゃになった髪を…
大きな手が
今度は優しく撫でる…。


「ほ、ほんとに?」
『ああ…』


眉間に寄っていたシワはいつの間にか消えていて…

手のひらの温もりと同じように、優しく笑う。




きゅう……



と、胸が鳴った………。




ああ…


そっか…


髪の長さなんて関係ない。


長くても短くても…


宍戸くんは宍戸くんだ…。




私の大好きな宍戸くんだ。





「宍戸くん!!!」

『うおっ!何だよ⁉︎いきなり⁉︎』

「髪が伸びたら私と付き合ってくれない!!!?」

『はぁ!!!???』



突然の私の告白に、飛び退く宍戸くん。



再び寄った眉間のシワ…。


床に落とされた視線…。


さっきまで私の頭の上にあった手は、彼の口元を塞ぐように覆っている。






あ……


「ご、ごめん。迷惑だよね…」





私のバカ……。

なに告白しちゃってんの…。



絶望的な空気に…

だんだんと
滲んでいく宍戸くんの姿。


視界がボヤけてきて瞬きすれば…

ぱたぱたと床が鳴った。









『俺より長くなったらな』







え………?






『長かった時の俺より伸びたらいいぜ…』




さっき涙の落ちた床の上に…

宍戸くんの靴が見える。




「宍戸…くん…?」



顔を上げれば…
直ぐそばにある彼の顔…。


近いせいで…
その顔にも身体と同じように、たくさんの傷があるのが分かる。



『どうする…?』



やっぱり眉間には
たくさんのシワが寄っているけれど…


短くなった髪のおかげで…
よく見えるようになった彼の耳は嬉しいほど真っ赤で………






「頑張ります!!!」





『うぉっ!ちょ、桜井!』






飛び付いた彼の身体は…


汗の匂いと土の匂いと消毒液の匂いがした……。








『ったく……。痛ぇよ……』





そう…、
背中に優しく回される腕。



払い落としそびれた髪が
まだジャージに残っていて…



少し頬がちくちくしたけれど…



それさえも嬉しくて…



また涙が出た。


















(ただ伸ばすだけじゃ激ダサだぜ!キューティクルが大事だ!!!)
(は、はい……!)
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