氷帝学園中等部
□キングからの招待状
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好きとか嫌いとか…
そういう次元じゃない
始まることなんて絶対にない
だって彼はキングだから…
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キングからの招待状
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跡「桜井、これバレンタインのお返しだ。有難く受け取りな!」
穏やかな昼休み。
セレブ組が学食にランチに行っている静かな教室で、のんびり食べていたお弁当…
大好きな玉子焼きが…
突然のキングの登場で床に転がる。
「あ…ありがとう……」
ふっ…と、偉そうに笑ってから教室を出ていくキング…。
ふと気付くと、
一緒にお弁当を食べていた彩も、ミートボールを机に転がして固まっていた。
『いつの間に、キングにチョコ渡したのよ?』
やっと箸が動かせるようになったけど、渡された金色の封筒のせいで全く味がしない。
あれは1ヶ月前の今日…。
忘れ物をしたのに気が付いて、一度学校に引き返したのがいけなかったんだ…!
たまたま昇降口で…
山のようにチョコレートが入った段ボールを運ぶ樺地くんと、手ぶらで歩く跡部くんを見つけて…。
自分は一生のうちに食べることが出来るか出来ないかのたくさんの高級そうなチョコを…
もらえることが当たり前のような顔をしている彼に腹が立って…。
「嫌味のつもりで…余ってた友チョコを跡部くんに渡したの……」
『と、友チョコって…!私達にくれたあのマフィン!!!?』
そう…あの、
手作りキットで混ぜて焼いただけの……。
庶民のお菓子。
「まさか…こんなことになるなんて!」
キングがくれたピカピカの封筒の中身は見なくても分かる…。
毎年とんでもない数のチョコをもらうキングは、わざわざ一人一人にお返しするのが大変だからと、ホワイトデーにはチョコをくれた人を彼の豪邸に招待してパーティーを開くのだ…!
『どうするの…?行くの?』
「まさか。パーティーに着ていく服もないのに…」
こぼれるため息…。
もしかして…、これはキングの仕返し?
庶民の私が安いお菓子なんか渡したから……?
恐る恐る封筒を開けると、パーティーの日付は明日の土曜日の夜…。
「明日は1日家で大人しく寝てよう…」
やたら眩しい封筒を制服のポケットに押し込む。
無かったことにしよう…!
そう思うのに…
キングが残して行った
香水の香りが邪魔をする…。
・
・
・
けたたましいチャイムの音で目が覚める…
窓から差し込む朱色の光…。
昨日徹夜でゲームしてたせいで、ついつい長い昼寝をしちゃってたみたいだ。
「お母さん、お買い物かな?」
だるい身体を起こして、玄関に向かう。
髪の毛ぐちゃぐちゃだけど…ま、いっか。
どうせせっかちな宅配のおじさんだろう…。
跡「遅え!!!!!!」
え!!!?
跡「この俺様を待たせるとはいい度胸じゃねえの、アーン?」
「あ、あ、あ、跡部くん!!!?」
うちの狭い玄関ポーチに、私服姿のキングが立っている…。
な、なんで!!!?
跡「何だその無様な格好は⁉︎今日は俺様の開くパーティーだぞ⁉︎その格好で行く気じゃねぇだろうな?」
慌てて手ぐしで髪を整えるけれど、くたびれた部屋着はどうすることも出来ない。
「あ、あの…せっかくのお誘いなんだけど…。私ドレスとか持ってなくて……。
ごめんなさい!!!」
閉めようとした扉に素早く滑り込む、高級そうな靴。
急に強い力で扉を引っ張られるものだから、手がドアノブから抜けなくて、身体も一緒に外に飛び出す。
気が付いた時には、跡部くんの腕の中で…
跡「お前に拒否権はねぇ。行くぞ!」
みっともない姿のまま…
彼の長くて高級そうな車に乗せられた…。
・
・
・
跡「なかなか似合うじゃねぇの?」
無理矢理連れてこられた豪邸。
その眩さに目をぱちくりさせていると、あれよあれよと言う間にメイドさんが私の服を剥ぎ取り、代わりに真っ赤なドレスを着せてくれた。
ボサボサだった髪も、今は綺麗に編み込まれて、頭の高いところでドレスと同じ色の花と一緒にまとまっている…。
通された真っ暗な部屋…
月明かりに照らされたキングが、バルコニーの手すりにもたれかかりながらシャンパングラスを揺らしている…。
その姿があまりにも美しくて思わず見とれてしまった。
跡「お前も飲めよ」
「私達まだ未成年だよ?お酒はダメ!」
跡「バーカ…。アルコールは入ってねぇよ」
グラスを受け取ろうと伸ばした腕を掴まれたと思ったら…あっという間に彼の腕の中に閉じ込められる。
「ちょっと…、人が来るから離して…」
跡「他に誰が来るって言うんだ?アーン?ここは俺様とお前2人だけだぜ」
「え⁉︎だって他にもいっぱいチョコもらって……???」
跡「ああ…、他の女どものパーティーはさっさと昼間に済ませちまったよ」
な、んで……?
すぐ近くで得意気に笑う綺麗な顔…。
背中が大きく開いたドレスのせいで、回された腕の熱が直接肌に伝わってくる…。
とくん…
と、心臓が跳ねた気がした…
跡「お前が初めてだ…。この俺様にあんな不細工なものを渡して来たのは…」
「ぶ、不細工……」
確かに褒められたものじゃなかったけれど…
けど私なりに一生懸命…
跡「それに、あんなに想いの込められたものを食べたのもな…」
「…え?」
跡「お前、一度じゃ上手くいかなくて何度も作り直しただろ?たかが、友人にやる菓子の為に」
「なんで知って…」
混ぜて焼くだけの手作りキット…。
ちゃんと説明書通りに作っても作っても、不器用な私にはなかなか成功させることが出来なくて…
徹夜した明け方…、最後の最後になんとかまともな形に焼けたチョコレートマフィン。
跡「バーカ。俺様のインサイトでなんでもお見通しなんだよ。
お前が気もないくせに、当て付けで俺様にチョコを渡してきたこともな!」
「!!!?」
さっきまでのドキドキが、冷や汗のドキドキに変わる。
やっぱりこれはキングの仕返し!!!?
跡「おっと、逃がさねぇぜ?」
キングの腕から逃れようとするも、更に強く抱きしめられる…!
自分の顔の横に、跡部くんの綺麗な顔…。
耳にかかる彼の息が熱い……。
跡「俺様のものになれ……」
囁くような甘い息。
驚いて見上げた瞬間…
今度は唇に伝わる甘い息…。
月明かりに照らされた、彼の顔が怪しく微笑む。
跡「必ず俺様に惚れさせてやる…」
自信満々にそう言うと…
また落ちてくる熱くて甘いキス。
ああ…
これはやっぱりキングの仕返しだ…
だって、
もう既に…
私の心は彼でいっぱいだもの…
(よう、真子!そろそろ俺様に惚れたか?アーン?)
(ほんとにインサイトなんて使えるの?)