弟はおとなりさん
□弟はおとなりさん*5*
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遠慮してるわけじゃない。
これでもシャンプーにはこだわる方。
だけどここに来た時は…
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弟はおとなりさん
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桃「は?まじかよ!!!?」
脱衣所にまで聞こえる武の声。
誰かと電話してるみたいだ。
武が用意してくれたTシャツ。
「いつの間にこんなに大きくなったんだか…」
裾が膝まで届きそうなその大きさに、やっぱり男の子なんだなぁ〜と思う。
「姉ちゃん、寂しいよ…」
そういえば…
タケに背を抜かれたのって…
いつだったっけ…?
桃「わかってるって!おぅ…。ああ、こっちは大丈夫だからよ!」
脱衣所を出て、リビングの扉を開ければより一層はっきり聞こえる会話。
桃「ああ…。じゃぁ、気を付けて帰って来いよ!」
「……おばさんから?」
桃「ああ。高速も通行止めで、ただでさえ渋滞してるってのに、前を走ってた車が追突事故だと…」
「え?だ、大丈夫なの??」
受話器を戻して、ぽんぽんと私の頭に手をのせる。
桃「心配いらねぇよ。こっちは被害ねーみてぇ…………」
「………タケ???」
固まったまま動かない武。
不思議に思って、武の視線の先に目を向けてみるけど…。
あるのは私の膝小僧だけ。
桃「…お前、短パンは?出してやったろ?」
「短パン?ああ、暑いからいっかなーって」
桃「はいとけよ…」
「えーー!?いいよ別に〜。Tシャツだけでも十分ワンピみたいだし」
大きな溜息をしてから、武はゆっくり手をおろす。
桃「よくねぇだろ」
なんだか困った様な…武の表情の意味がわからなくて、私は軽くなった頭をかしげる。
桃「いくらなんでもその格好はダメだ!」
「なんでよ〜?見えるわけでもないのにー!」
桃「だーーーーーーっ!!!ちょっとは考えろよ⁉︎」
今度は自分の頭をがしがし掻いて、いきなり叫ぶ武。
「びっくりするじゃん!何がよ?」
桃「男の家に2人きりなんだぞ!!!?なのにその格好は普通に考えてやべぇだろ!!!」
「………おとこ?」
何処に???
「男って…?
家にいるのタケだけじゃん?」
武の怒ったような顔が一瞬悲しそうな顔になって、それから呆れた顔になった…。
小さく溜息をして、私の頭にまたぽんぽんと手をのせる。
「……?タケ…??」
桃「親父たち…帰りがかなり遅くなりそぉだけど、それまでには下はいとけよ?」
「あ、うん。そだね〜!流石におじさんの前ではね〜」
桃「そうそう!親父びっくりしてひっくり返るぜ!」
「まっさか〜!昔は夏はよく下着だけでここで過ごしてたじゃん!」
桃「…だから、お前それいつの話だよ?」
「痛っ!」
飛んでくるデコピン。
いつって……
あれ?いつだっけ…?
桃「あれ?お前、また俺と親父のシャンプー使ったのか?」
「あ、うん!」
微かに香るリンスインシャンプーの優しい香り…。
桃「母さんの使えばよかったじゃねぇか!ノンシリコン?とかがいいんだろ〜?」
まぁ、家ではそうなんだけど…
「このシャンプーじゃなきゃ、なんか落ち着かないのよ。もう癖みたいになってるし」
桃「まぁ、真子がいーならいいんだけどさ。せっかく伸ばしてんのにもったいねーじゃん?」
子供の頃からずっと短かった髪を、なんとなく中学を卒業する少し前から伸ばし始めた。
今はやっと鎖骨が隠れるくらいになって、自分でもなかなか女らしくなったと思う。
見た目だけね。
濡れた毛先を触れば、少しごわごわとした感触。
「さっき玄関でぐちゃぐちゃにしてくれた奴がよく言うよ」
桃「あー、悪かったって〜!…ぷぷ」
「あ!ちょっと思い出し笑いしたでしょー!?」
桃「へいへい。またメデューサになりたくなかったら早く乾かして来いよ!それとも俺が乾かしてやろーか?」
「なに言ってんのよ?頭洗ってあげたり、ドライヤーかけてあげるのは私の役目だったじゃない?」
そう…
小さい頃からずっと…。
ここに泊まった時は2人で一緒にお風呂入って、一緒のシャンプー使って…私が頭洗ってあげて。
いつも目に泡が入ったってタケが泣いてた。
それから私がタケの着替えやドライヤーを手伝ってあげて……
一緒の布団で夜中までふざけ合ってて、よく叱られたっけ…。
あれ……?
桃「だから…、いつの話してんだよ?」
いつからだっけ……?
一緒にお風呂入らなくなったのは…
タケの前で着替えをしなくなったのは…
一緒の布団で寝なくなったのは…
背を抜かれたのも…
腕相撲で負けたのも…
徒競走のタイムを抜かれたのも…
いつだったっけ…………?
昔と変わらない…
シャンプーの優しい香り…
家族の香り…
何も変わってないはずなのに…
違うと思ってしまうのは
なんでなんだろう……
弟はおとなりさん*5*
〜 いつかの家族 〜