あいをおしえて

□*4*
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“彩ちゃん…”


長い髪を揺らして

可愛らしく私を見上げる


“彩…”


頬を淡いピンクに染めて

キラキラと笑う



昔からそう……


私に出来ないことを

彼女はいとも簡単にやってのける…





*-*-*-*-*-*

あいをおしえて

*-*-*-*-*-*





『ほら、あれが岡本くん…』


グラウンドを駆け回るサッカー部の部員達。その中の濃いブラウンの髪を、教室の窓から真子が指差す。


「うーん…。夕日で顔がよく見えないわ」
『結構かっこいいんだよ〜!爽やかで優しいし!』
「またそんな事言って…。菊丸くんに怒られるわよ?」
『大丈夫、大丈夫!英二は部活中だし、それに誤解は解けたし〜!』


窓から身を乗り出せば、グラウンドの端にある、テニスコートに見える小さな青いジャージ。
そのひとつがこちらに大きく両手を振る。


「菊丸くんだよね?すごい視力…。しかも何か叫んでるし」
『聞こえるわけないのに、バカだなぁ。あ、叱られてる。あれ、きっと手塚くんだね…』
「グラウンド何周かしら…」
『うーん…。10…かな?』


さすが、顔の広い菊丸くん。
グラウンドを走れば、他の部にからかわれては舌を出して笑い合っている。女子からは声援も飛ぶ。


『バカ英二…。真面目に走らないと追加くらうわよ〜?』
「そういえば、真子は菊丸くんが他の女子に話しかけられてもヤキモチ妬かなくなったのね」


付き合いたての頃は、それで何度も泣く彼女を見て……
泣くほど嫌なら別れればいいのにっなんて思ってた…。


『ヤキモチ妬くよ〜!めちゃくちゃ妬く!』
「え?」
『時々泣きたくなる事もあるけど…。その分2人きりの時に思いっきり甘えるようにしてるから!』


頬を染めてそう言う彼女は、女の私から見ても可愛いと思う。
男の菊丸くんにはもっと可愛いく見えてるんだろうな…。独占欲わくのも納得。


「それにしても…。もうちょっとマシにならないものかしらね…。菊丸くんのヤキモチ」


グラウンドに視線を戻すと、案の定手塚くんに捕まってお説教されてる菊丸くん。
2人で小さくため息をつく…。


『まぁ、今回は私が悪かったし…』
「!?」


この前のお泊りに来た時には無かった、素直な反省様に少し驚く。
言葉だけでなく、彼女の顔にもしっかり書かれたごめんなさいの文字。


「私の言った意味理解してくれた?」
『あ!それは英二とも話し合って、お互いお友達は大切にしなきゃねーってなったの!』
「あ…そう……」


また喧嘩しても話聞いてあげないわよ…。

賑やかなお昼休みを思い出して、今度は私だけが窓の向こうに小さくため息をつく。

グラウンドでは、気が散るからか菊丸くんは学校の外回りを走らされることになったようだ。

門の外にかけていく彼をサッカー部がからかう。その部員達の横で、穏やかに笑う濃いブラウンの髪。
タイプは違うけど、何処と無く不二くんに似た落ち着きがある。


『実はね…サッカーの応援行った後にね、岡本くんと2人でスタバ行ったの。それ、桃ちゃんと越前くんに見られてたらしくって…』

「は!?」


てへへ…と笑う真子。

呆れて言葉が出ない。

反省して落ち込むどころか、ふにゃふにゃと笑って頭をかく親友に苛立つ。

よっぽど私の顔が恐ろしいらしく、おろおろと真子は言葉を続ける。


『浮気じゃないよ?相談があるって言われて仕方なく…』
「それってただの口実でしょ?だいたい真子は男に対してのガードが甘いのよ!!!」
『そんな事ないよ!誰にでも付いてくわけじゃないもん!!!』
「けど、岡本くんには付いてっちゃったんでしょ!?かっこいい人に声かけられたからって調子にのっちゃったんじゃないの!?」
『違うよ!なんでそういうことになるの!?彩変だよ!ちゃんと私の話聞いて!』
「変じゃないでしょ!?彼氏でもない人と2人きりでお茶する方が変でしょ?昔からそうだけど、真子ってなんで誰にでも気のあるふりするわけ!?菊丸くんのことがダメになった時の為に、気になる男みんなに唾でもつけてるわけ!!?」


そこまで言って、ハッとする。
真子の愛想笑いでもない泣きそうでもない、ただ真っ暗な瞳の表情。


しまった………。
謝らなきゃ…………


そう思うのに…、空気だけが喉を通り過ぎる。


謝らなきゃ…

いや、私間違ったこと言った?

謝らなきゃ…

ちょっと言い方はきつかったけど

謝らなきゃ…

真子の悪いとこ教えてあげただけよ

謝らなきゃ…

私は間違ってないでしょ?



「真子…」


顔を上げれば、少し寂しそうに笑う真子。


『ごめん。今日は先に帰るね…』
「え?菊丸くんは?今日は一緒に帰るんでしょ…?」
『英二にはメール入れとくから平気』


バックを肩にかけると、振り返りもせず教室のドアまで走って立ち止まる。


『高森さんのことで相談があるんだ…』
「え……?」
『岡本くんが私をお茶に誘った口実』
「それ…って……」
『ムカつくからこれ以上は教えてあげない』


背中のまま廊下に消える真子の姿。
声は少し震えていた。


教室にやけに大きく部活動の声が響く。


なんで私あんなこと言っちゃったんだろう…

たしかに、真子は昔から甘え上手で、みんなに愛想良くて…
そんな性格を羨ましいって思うこともあった…。


けど…



“なんで誰にでも気のあるふりするわけ!?
気になる男みんなに唾でもつけてるわけ!!?”



そんなの…思ったことないのに………。

なんであんな言葉が出たの…






ちくん…


ちくん…




ああ…

まただ…。


この前から胸の辺りで痛む
小さな陰。


その陰が

自分は悪くない
安心しろよ

って、言う様に
私の心の中で小さく疼く。



なんだか…
前より少し大きくなったような…



「……っ…やだ!」



気持ち悪い

気持ち悪い

気持ち悪い

気持ち悪い




痛みを消すように…

陰を追い出すように…


何度も何度も、
胸を強く叩いた…















あいをおしえて*4*

〜 鉛色のサンセット 〜

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