立海大付属中学校

□不器用な本音
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私の気持ちなんて

あなたは絶対気が付かないでしょ?


だからお願い…

私だけを見てて…





*-*-*-*-*

不器用な本音

*-*-*-*-*





『桜井!!!』


誰もが怯える…

その怒鳴り声が廊下に響く。


“風紀委員”と書かれた腕章を付けて、ずんずんと向かって来るその鬼の様な形相に、周りの生徒はそそくさと教室に戻って行く中…

私の胸は…
ときめきの音でいっぱいになる。


「真田くん、おっはよ!」
『なんだそのスカートの丈はっ!?』
「うん、おはよ〜!」
『短過ぎるぞ!!校則違反だ!!!』
「真田くーん、お・は・よ!」
『直ぐに履き替えろ!!!』
「おーはーよーう!!」
『貴様、聞いているのか!!!?』


教室や廊下の窓が震えるくらいの、吠えるような声…。

この強張った空気ですら…
私にとっては、
彼が私を見てくれる大事な時間。














女「好きです」

『すまないが、恋愛などしてる暇など俺にはない』


聞き覚えのある声に、うとうとしかけた身体を起こす。

昼休みの人気の無い裏庭は、絶好のお昼寝スポット。



あぁ……、またか…。



そして、絶好の告白スポット。


ここで初めて真田くんが告白される姿を見たあの日…

私の恋は…
絶対に叶うことはないってことを知った。



テニス一筋の堅物だもんね…
真田くんに思春期なんて来るのかしら…?



女「けど…、桜井さんとは仲良いよね…?」


そっとその場から離れようとした身体が…、彼女の言葉で固まる。



は!?
ちょっと何言ってくれてるのよ!?


最初から諦めた恋だけど…

こんな間接的に失恋するなんて耐えられない!



早くこの場から逃げなきゃ…




そう思うのに…
2人の会話に身体が思うように動かない……!



『む、桜井だと…?』
女「毎日楽しそうに話してるでしょ?」
『あれのどこが楽しそうに見えるというのだ⁉︎』


さっきまで落ち着いたトーンだった声が、急に張り詰める。


女「楽しそうだよ!真田くんも嬉しそうに桜井さんのこと見てるじゃない!!!?」

『嬉しくなどない!!!こちらは風紀委員としての仕事を増やされて迷惑しているほどだ!!!』


いつもと違う…。
苛立ちの混ざった怒鳴り声…。

聞いたことのないその声に、完全に身体を動かす気力が無くなる。


『不愉快だ!!失礼する!!』


肩を怒らせながら、校舎の方へ消えていく真田くん。

残された女子生徒は、声をあげて泣き出す。



泣きたいのは…

私の方だ。













柳「下着が丸見えですよ?桜井さん」
「!!!?」


背後から聞こえてきた声に振り向けば、涼しげな顔で木陰で読書している柳生くんの姿。


「いつからそこに…」
柳「つい先程です」


植え込みに隠れるように、四つん這いにしていたお尻を慌てて下ろす。

どのくらいフリーズしていたのか…
泣いていた女子生徒の姿はいつの間にか消えていた。


「柳生くんのえっち!」
柳「貴方が勝手にいかがわしい体制で下着をさらしていたんじゃないですか」
「けど見えたなら直ぐ言ってよ!」
柳「残念ながら、私は苺柄の下着には興味がないもので」
「柳生くん!!!!!!」


会話している間も、文庫本から離されることのなかった視線がやっと上がる。


柳「貴方も不器用な方ですね」


眼鏡をかけ直した視線は、私の短い制服のスカートを捉える。


柳「校則違反です」


そう言う柳生くんの表情はいつも柔らかくて…
真田くんと同じ風紀委員なのに、彼はほとんど私を注意しない。


「馬鹿だって思ってるんでしょ?」
柳「そんなことありませんよ。単純だとは思いますが」
「私だって分かってるよ……」



こんなことじゃ…
真田くんの気は引けても、好きにはなってもらえないって。



柳「何もしないよりはいいと思いますよ」
「でも…、迷惑になってるみたいだし。逆効果…」
柳「真田くんも不器用な人ですからね」
「…?どういう意味?」
柳「そのままの意味ですよ」


パタンと本を閉じて、意味あり気に微笑む。
柳生くんの考えてることは、本当にいつも分からない。


柳「さ、予鈴が鳴ります。行きましょう」


いつの間にか
瞳に溜まっていた涙も

ちくちくと痛んでいた胸もすっかり落ち着いていて…


「柳生くんのせいで泣くタイミング失っちゃったじゃない…」


恨めしく目の前の背中を睨んだ。













『桜井!』


まだ賑やかな廊下の向こうから…
いつもと同じ落ち着いた彼の声にびくんと身体が跳ねる。


『丁度今探しに行こうと思っていたところだ。柳生、礼を言う』
柳「いえ、偶然中庭で出会ったので」


毎日授業ギリギリに教室に駆け込む私を、いつも怒りながらも迎えに来てくれてる真田くん。

単純な私はそれが嬉しくて嬉しくて…

だけど…
真田くんにとってはただの正義感でしかない。

そんなの、ちゃんと分かってたはずなのに…。


『桜井、まだスカートを直してないのか!保健室に予備の制服を借りに行くぞ!!!』


大きくてゴツゴツした手が私の手首を強く掴む。
痛いくらいのその力に、胸が一気に熱くなる!




ああ…

私って何処までもバカ………



「……痛い…」



小さな悲鳴に…
真田くんが振り返る。


「痛いよ……真田くん…」


我慢していた涙がいっぺんに溢れ出した…


『桜井!?』


目を白黒させて、慌てる真田くん。


困らせてるって分かってるのに…

涙は次から次へと流れだす。


『すまなかった!強く掴み過ぎたか!!?』
「…っ…ご、ごめんなさい……」
『何故お前が謝る!?』




分かってるけど…

どうしても好きで好きで好きで…

苦しくて…

胸が痛くてたまらないの………



柳「まったく…。不器用な方たちですね…」


気がつけば、好奇の目で溢れる廊下に柳生くんが静かにつぶやく。


柳「真田くん、そんなに彼女に校則を守らせたいですか?」
『風紀委員として当たり前だろう』
柳「ですが、スカートが短い生徒なんて他にもたくさんいらっしゃいますよ?」
『…む…』


黙り込む真田くんに、小さくため息をこぼすと…
今度は柳生くんの白くてきれいな手が私の腕を掴み取る。


柳「赤くなっていますね。私が一緒に保健室まで行きましょう」
『お、おい…待て、俺が…』
柳「今の真田くんには彼女の素行を正すのは無理ですよ」
『!??』
柳「風紀よりも先に、真田くんはその凝り固まった頭をなんとかする方がよろしいと思います」
『…どういう意味だ?』
柳「そのままの意味ですよ。これからは私が彼女の生活指導を担当しましょう」
『ま、待て!!!』


幼い子供のように、引かれる手に身体を預ける。

何か言いたそうな真田くんを背に…
歩き出そうとした時、目の前の背中が立ち止まってゆっくりと振り返った。



柳「それと……。

桜井さんはスカートより、子供っぽい下着のセンスから直した方がレディーとしてよろしいかと思いますよ」


にや…っと笑った柳生くん。

彼の発言に驚く間も無く…
一瞬にして目の前から姿が消えて…


バンッという大きな音と

恐怖の混じる悲鳴に包まれた。


『貴様!!!どういう意味だ!!?』


廊下に響く怒鳴り声。

真田くんが柳生くんの胸ぐらを掴んで、壁に押し付けている。
強い衝撃を受けた窓が、柳生くんの背中でミシミシと鳴る。


「真田くん!!!?」


見たことのない真田くんの表情に震える声。

打って変わって静まり返る廊下…。

なのに…
柳生くんはいつもの冷静な口調で穏やかに話し出す。


柳「仕方ないでしょう、たまたま見えてしまったんですよ」
『…っ!!!』
柳「おや?そんなに気になるのでしたら、どんな柄の下着かお教えいたしましょうか?」
『貴様…っ!!!!』


真田くんの押し付ける力に、また窓が大きく鳴く。
今にも硝子が割れてしまいそうだ。




柳「チッ…、ほんと不器用な奴らじゃのう…」


さっきまで、薄っすら笑みを浮かべていた柳生くんの表情が突然変わる。


柳「見てるとイライラするんじゃ」



この声って……!?



柳「正直になればいいじゃないですか。

彼女の事が気になってたまらないと…。
短いスカートを履かれると、他の男子の目が心配でたまらないと…。

彼女を注意するのも、彼女と話すのも…
彼女に触れるのも…

自分でなくては我慢出来ないのだと…」


一瞬冷たくなった柳生くんの表情が、また柔らかい笑顔に戻る。

何が起こっているのか分からなくて…
柳生くんの言葉に頭がついて行かない…!

真田くんはというと、柳生くんの胸ぐらを掴んで動かないまま…。
けれど、その手にもう力はない…。




キーンコーンカーンコーン…




チャイムの音で、
静かだった廊下にみんなの意識がはっと引き戻される。


柳「さ、皆さん教室に入って下さい。授業が始まりますよ」


いつの間にか、真田くんの腕から脱出した柳生くんがみんなを教室へ促す。


柳「先生には彼女を保健室に連れて行ったと報告しておきましょう」


右手で顔を覆ったまま俯く真田くんに、笑顔でそう言うと…
私達を残して、柳生くんはみんなと一緒に教室へ入って行ってしまった。


再び静けさが戻った廊下に、真田くんのため息だけが聞こえる。


『…桜井』
「は、はい!」
『とりあえず、その腕を冷やすぞ…』
「!!!!?」



引かれる腕に、心臓が跳ねる。





さっきと違う……



そっと…



優しく…


繋がれる手…







「好き……」






大きな背中に小さく呟いた気持ちは…

彼に届いたようで……


振り返ることも話すこともしないけど…



真っ赤になった彼の耳。





私…

自惚れてもいいよね…?









明日も短いスカートで登校しよう…


貴方が私にかまってくれるように。



貴方が私に話しかける理由を…


私がこれからも作っていこう。







不器用な貴方の為に…






だからこれからも…


私だけを見てて…


















(仁王くん!私が下着フェチだという噂がたってますよ!!!!)
(プリッ)
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