青春学園中等部

□しおあめ
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焼けるような日差し。

ジトジトと、身体に絡まるような空気。

吐く息までも熱く、鬱陶しいこの季節が・・・

俺をイラつかせる。





*****

しおあめ

*****





「だる・・・」


リズムよく・・・
ボールが飛び交うコート。

6月に入ってから・・・
雨が降ったり止んだりと、不安定な天気に毎日のように振り回されて。
それだけでもイライラしているというのに、久しぶりに晴れたと思ったらこの暑さだ。

額からこぼれる汗が視界を幾度となく邪魔をするし、ラケットのグリップはベトベトとしていて気持ちが悪い。


「越前くん!交代だよ!10分休憩!」


マネージャーの声に、コートを出て近くのベンチに腰掛ける。



あー・・。
身体がベタベタする・・・
早く帰って風呂入りたい・・・。



「大丈夫?顔色悪いよ?」


タオルとドリンクを抱えた小さな身体が、心配そうに俺を覗き込む。

別に・・・と短く答えて、抱えていたものを軽くひったくり、一気に喉に流し込んだ。


「ねぇ…、これちょっとぬるいんじゃない?」
「え?そう?いつもと一緒だよ?」
「もっと冷たい方がいいんだけど・・・」
「あまり冷たすぎるのは、身体に吸収され難いって乾先輩が言ってたよ?」


俺とは違う涼しそうな顔で微笑んで、隣に腰掛ける桜井。
記録ノートを開いて、先輩たちの練習メニューを書き込んでいく。


「マネージャーはいいよね。この暑い中、走らなくていいんだから・・・」


誰のせいでもないって分かっているのに・・・
熱に侵された頭が、つい冷たい言葉を吐き出させる。


「そんなことないよ!マネージャーの仕事って結構ハードなんだよ!」
「―――っ」


怒っているわけでもなく、呆れているわけでもなく・・・
ただただ明るく返す桜井に、ムッとして睨み付ければ・・・

真剣な顔で、コートとノートを交互に見てはペンを走らせている姿。
ノートに俯くたびに見えるうなじが、真っ赤に焼けている・・・。

ベタっと汗のにじむ背中に、薄っすらと下着のラインが浮き出でいるのに気が付いて、慌てて視線をコートに移した。


「・・・まぁ、頑張ってるんじゃない?・・・俺の次にだけど」
「ふふ。ありがとう」


やっとのことで絞り出た言葉があまりに子供っぽくて、今度は自分にイラッとする。
逆に桜井の方がなんだか大人の態度なのも気に入らない。

ちらっと横目で睨み付けると・・・

コロコロと桜井の口の中で、何かが転がってぷっくり膨らむ頬・・・。


「何食べてんの?」
「え?」
「あめ?」
「あ、うん。塩あめなめてるの」
「は?塩?」


しょっぱいのか甘いのか・・・
考えただけで舌が気持ち悪くなるフレーズに、思わず眉間にしわが寄る。


「熱中症対策だよ。マネって忙しくて、つい水分補給おろそかになっちゃうから・・・」
「へぇ・・。それって美味いの?いかにもまずそうな名前なんだけど・・・」
「うーん・・・。特別美味しくはない・・・かな?てか、不味い部類かも・・・」


そう俺に弱弱しく笑ったかと思えば・・・
次は凛とした顔でコートを見つめる桜井。

そこには、全力でボールを追いかける先輩たち・・・。

キラキラと・・・
流れ落ちる汗が、太陽の光に反射して、宝石の様にコートにこぼれる。


「夢に向かって、みんな全力で頑張ってるんだもん!サポートする私が、体調不良になんてなってらんないよ!」


狭い肩幅。細い腕。折れそうな首。


いつもは守ってやらなきゃって思うのに。


こうやって不意打ちみたいに、お前は俺の心動かす・・・。



「まったく・・・。それ、反則・・・」
「え?誰が?」


きょろきょろと慌ててコートを見渡す桜井に、思わずぷっと吹き出す。


「テニスじゃないってば・・・」
「え?じゃあ、なんのこ―――」
「おちびーーーー!交代だよーん!」
「ういーーーっす!」


遠くのコートの菊丸先輩に、軽く手を挙げ立ち上がって返事を返す。
言葉を遮られた桜井は、仕方なく考え込むように、再びノートに視線を戻しペンを走らせる。


「ねぇ・・・、俺にもくれない?」
「え?」
「塩あめ」
「え?う、うん。いいけど・・・」


戸惑いながらも、素直にポケットから新しいあめを差し出す。


「違う。それじゃないやつ」
「え?」
「もういっこあるじゃん。そっちがいいんだけど?」


俺を見上げる・・・
不思議そうに揺れる大きな瞳。


「だから、こっち・・・・」
「―――――んっ!!!?」


その無防備な唇に、そっと俺のそれを重ねれば・・・

さらに大きく揺れる瞳。


唇の熱と一緒に伝わる、甘くてしょっぱい味に・・・

頭の奥が痺れる・・・。


こぼれる吐息・・・
押し込んだ舌が、熱いその塊を自分の中へ誘う・・・。


コロン・・・


「さんきゅ」


奪い取ったそれが、俺の中を転がり、小さく歯を鳴らす。

俺を見上げたまま・・・
真っ赤な顔で、空っぽになったその口をパクパクさせる桜井。



「まだまだだね」



暑苦しい空気を振り払うようにコートへと駆け出す・・・



まだ頭上には、太陽がギラギラと射すような熱を照り付ける。



ベタっとしたユニフォーム。

頭にこもる熱。

口の中に広がる不愉快な味。



ま、別に悪くないかもね・・・


















(う・・・、気持ち悪い・・・)
(慣れねぇもんなめってっからだよ!出しちまえ!)
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