青春学園中等部

□まいごのまいごの子猫ちゃん
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知らない道ってドキドキしない?

いつもと違う

新しい景色

新しい匂い

なにかステキなものに出逢えそうな…

ワクワクの予感がするの





*-*-*-*-*-*-*-**-*

まいごのまいごの子猫ちゃん

*-*-*-*-*-*-*-**-*





「タヌキだ…」


このふわふわのシッポ…
目の周りの模様…

やっぱり…


「タヌキだ〜!!!!」


いつもより早く終わった部活。
そのまま真っ直ぐ帰るのがなんだかもったいない気がして、いつもは通らない路地に入ってみたら…

住宅街の中にあった小さな公園で…
早速出逢ってしまった!
ステキな生き物!

今日はなんていい日なの!


「かわい〜!!」


ゴロゴロと擦り寄ってくる姿はまるで猫みたい。

ほぁら〜


「タヌキって鳴くの⁉︎初めて聞いた〜!」


しゃがんで首元を撫でると、嬉しそうにまた鳴いた。


「そうだ!タヌキさん、お腹空いてない?」


今日の調理実習で作ったカップケーキをスクールバックから出すと、タヌキさんの目が大きく開いた。

綺麗にラッピングされた袋から、赤いリボンをほどくと微かに広がる甘い香り…
待ちきれないと言うようにタヌキさんが手元に飛びついてきて、袋がパリパリと鳴る。


「あはは!そんなに急かさなくてもちゃんとあげるよ〜」


クリクリっとした瞳がたまらなく可愛い!

カップケーキを袋から一つ出して、アルミのカップを丁寧に外す。
食べやすいように小さく手でちぎってあげた。


「ふふ、美味しい?なかなか上手に出来てるでしょ?」


ほぁら〜と、私に返事するみたいにまた一声鳴くと、またカップケーキに夢中になるタヌキさん…


「本当はね、好きな人に渡すつもりだったんだ〜。このカップケーキ…」


だけど…
他の女子からたくさんもらっている彼の姿を見たら、やっぱり渡せなくなってしまった。


「けどね、あなたが食べてくれたから一生懸命作ったかいがあったよ〜!…ありがとう」


タヌキさんの口元に付いたケーキの破片をそっと落として綺麗にしてあげる。
お礼を言うようにまた鳴くタヌキさんが可愛くて、ラッピングしていた赤いリボンを首元にちょうちょ結びしてみた。


「きゃ〜!もっと可愛くなった!」


ふわふわのクリーム色の毛に、赤いリボンがとっても映える。


「ふふ、あなたも気に入った?すごく似合うよ〜!」


抱き上げると、またゴロゴロ喉を鳴らすタヌキさん。
ほんとに猫みたい。


「あ!でもこんなの首に付けてたら、森に帰った時に危ないよね…?木とかに引っ掛けちゃうかもだし…」


リボンをほどこうと、腕の中のタヌキさんにそっと触れる。
指先に感じた硬い感触…


「…?あ、あれ?首輪?」


タヌキに…?

あ、あれれ?
よく考えてみたら、タヌキがこんな街中にいるわけないし…
そういえば昔動物園で見たタヌキはもっと大きかったような…
それに、あの喉を鳴らすゴロゴロとした音…


「もしかして…あなた…」


猫?


言いきる前に、腕の中から飛び出すタヌキさん!いや、猫?


「え⁉︎ちょ…ちょっと待って!」


赤いリボンを揺らしながら公園を駆け抜けていくふわふわ!
慌てて追いかける!


「お願いっ!待って!返して!」


そのリボンにはーーー
あのリボンを人に見られるわけにはいかない!









「っはぁ、っはぁ…っはぁ…」


脇腹が痛い…
こんなに走ったの初めてかも…

無我夢中で走ってたら、いつの間にか周りは全く知らない景色…

どこまで来ちゃったんだろ?
それより…ここって…


「お寺?」


見上げれば、長い石段を駆け上っているふわふわのあの子…


「ま…待って…返して…リボン」


まだ苦しい呼吸…
重たい足を引きずるように長い長い石段を登る。


見えてきたのは…
立派な本堂と高い鐘楼堂と…


「…テニス…コート…?」


お寺の広い敷地の中に…
普通ならあるはずのないものが
そこにある…。

あ…あれ?
なんでこんなところに?
住職さんの趣味…?とか…?


「そうだ!あの子…」


意外な景色に、一瞬目的を忘れてた!

キョロキョロとあたりを見回してみるけど、ふわふわのあの子は見当たらない。


「あれ〜?どこ行っちゃった?」
「なにが?」


突然聞こえて来た声に息が止まる…

鐘楼堂の陰から現れたクラスメート…


「越前くん⁉︎」
「他の誰に見えるわけ?」
「なんでここにいるのー⁉︎」
「…声…でかい…。
なんでって、ここ俺んちだし…」
「…うそ……」


ちょっと寄り道のつもりで入った路地から、とんでもないところにたどり着いちゃった…


これってラッキー?アンラッキー?


あたふたする私を怪訝な顔で見てる越前くん。
その彼の腕の中にあったモコモコの物体がぴょこんと動いた。


「ーっ⁉︎あっ!その子!!!」


あのタヌキさん!
いや、違った猫?


「カルピンのこと知ってんの?」
「知ってるって言うか…さっき学校の近くの公園で見かけて…。
越前くんちの…ね、猫?さんだったんだ…」
「…なんでそこが疑問形なわけ?」


やっぱりタヌキじゃないんだ…
って、そんなことより!!!


急いで越前くんに駆け寄るけど…
首に付いてたはずのリボンがない…


「越前くん…この子何か持ってなかった?」
「なにかって?」
「う、ううん。知らないならいいの…」


頭をかしげる越前くんの腕の中でカルピンがゴロゴロと喉を鳴らして甘えてる。


おかしいな…石段のところまでは確かに赤いリボンが見えてたのに…。
けど、越前くんがあれを見てなくて良かった…。


「あ、そういえばね!
私、越前くんちの猫ちゃんって知らなくて…さっき公園でこの子にカップケーキあげちゃったの…。ダメだったらごめんね?」
「カップケーキ…?ああ…女子が授業で作ったって言ってたやつね…。
別にかまわないけど…さんきゅ」


小さく笑った越前くんにドキッとする…。


はぁ…やっぱりかっこいい〜!


「え、越前くんはみんなからたくさんもらってたよね〜!美味しかった?」
「知らない」
「え?食べてないの…?」
「あんなにあっても食べきれないし…。
それに、昼休みに昼寝してたら勝手に桃先輩が全部食べてたんだよね…」
「……そんな殺生な………」


みんなあんな一生懸命作ってたのに…


「あの量を食べろって言う方が酷いんじゃない?」
「そ、それは…まぁ、たしかに…」


悲しすぎる現実に他に言葉が出ない。
彼に渡せなくて、あんなに悩んだ自分はなんだったんだろう…。


けど…
渡しても渡さなくても、結局越前くんに食べてもらえることはなかったってことか…。
あのリボンのメッセージに気が付いてもらうことも……。


そう思ったら、
身体の力が一気に抜ける。


なんか…急に疲れた…


美味しいって言ってもらいたかったな…



「桜井のは、上手く出来たみたいじゃん?」



……え…?



「こいつ、結構味にうるさいんだよね。缶詰も気に入ったのしか絶対食べないし…。
カルピンが食べたなら、桜井の作ったやつは、かなり上手いできだったってこと…」
「…そ…そ、そうなの?」
「まぁね」


ニッと笑う越前くん…
心臓がトクンと跳ねた。



これって…チャンスかな…?



「…まだね……」
「なに?」
「まだ残ってるの…カップケーキ…。
良かったら…越前くん食べてくれないかな⁉︎」


最後の方はほとんど早口に近い勢いで言いきった!
肩にかかってるバックを握る手に、自然と力が入る。


「別にいいけど…」
「ほ、ほんと⁉︎」
「うん」


自分でも驚くくらいの速さでバックを開ける。
さっき公園で出したばかりの袋をつかんで、目の前の彼に差し出す…
パリパリっとラッピングの袋の音がした。


「あ…えっと…
さっきこの子にひとつあげちゃって…。食べかけみたいで悪いんだけど…」


封の空いたラッピング袋に
カップケーキがひとつ…



綺麗に結んであった赤いリボン…
彼の為に結んだ…赤いリボン…
想いを込めた…赤いリボン…



それが無いのを見ると、ちょっと悲しくなった。



差し出した袋を見つめたまま、受けとってくれない越前くん…


しばらく何か考えてたみたいで…
ふーん…とだけ言うと、静かに腕からカルピンを降ろした。


「なるほどね…」


袋に来ると思った手が、そのまま彼のポケットを探る。
そこから出て来た…赤い…


「…ぁ…!」

「あんたもなかなか可愛いことするよね」


そう言いながら…
彼がラッピング袋に結んだ赤いリボン…


そのリボンの先に書かれた
小さなメッセージ…



「これ、あんたからだったんだ?」
「ーーーっ!!!」


顔が赤くなってくのがわかる。
そんな私を見て、越前くんがニヤッと笑う。



な、、なんで!!!?
恥ずかしすぎて涙出そう…



「ねぇ…もういっかい…
それ、ちゃんと渡してくれない?
最初から俺にくれるつもりだったんでしょ?」
「…え…?」


越前くんの顔を見れば…
さっきの笑みが消えていて、
代わりに真面目な顔の彼の大きな瞳に私が写ってた。




手の中にあるケーキを見つめる…

ひとつ足りないけど…

彼に渡すはずだった…

可愛くラッピングしたカップケーキ…



赤いリボンが風に揺れて、袋がパリっと小さく鳴いた。





「越前くんの為に作ったの…。
良かったら食べて下さい。」



「良く出来ました」



越前くんの手の中でパリパリっと音がする。


赤いリボンを見て、越前くんがぶっと吹き出した。


「〜〜〜っ、何で笑うの〜〜⁉︎」


口元を抑えて必死に笑いをこらえてる越前くん…

さっきまでの空気は何処に⁉︎


「…ひ、ひどい……」


本日二度目の脱力…。
悲しくなって、その場にしゃがみ込む…


「ごめん、ごめん…ぷぷっ…」



まだ笑ってるし…


ぽんっと頭の上にのった越前くんの手が、優しく私の頭を撫でる。


「桃先輩に見られなくて良かったと思ってさ…」


越前くんもしゃがんで、うなだれた私の顔を覗き込む。


「これ、リボンだけ見たら、かなり積極的なメッセージだと思わない?」


私がずるずると顔を上げると、
越前くんが袋からリボンを外して、そこを指差していた…




「………あっ…!」





再び赤面した私を見て、越前くんが吹き出す。



あ、穴があったら入りたい…!



しゃがみ込んでた膝に顔をうずめると

今度はおでこに優しいキスが降ってきた…








“越前くんが好きです。

誰よりも大好き。

食べて下さい。”


















(じゃあ、いただきます)
(え⁉︎、ちょ、ちょっと待って!!!)
(何勘違いしてんの?カップケーキのことだけど?)
(ーーーっ!!!)
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