君はともだち

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ずっとずっと探してる…

君以上の恋を





*-*-*-*-*

君はともだち

*-*-*-*-*





「合コン!??」


つい大きくなってしまった声に、慌てて口を押さえる。

いつものいきつけのカフェで、少し遅めのランチ。
目の前では、頭の上にお花をたくさん咲かせて興奮気味に話す後輩。


「もちろん先輩も行きますよね!」
「は?私?行かないわよ」
「え〜!?何でですか?あの営業部との合コンですよ!」
「興味ナシ!だいたい、別れてまだ1ヶ月よ?そんな気分じゃないし…」
「そんなこと言わないで行きましょうよ〜!こんな機会二度とないかもしれないんですよ!」


テーブルから身を乗り出して、熱く語る彼女の目は真剣そのもの。
お願いだから、その熱を少しは仕事に向けてくれないものか…。
彼女の教育係として、先日もこってり上司に叱られたことを思い出す。弱々しくこぼれた溜息が、カップのミルクティーを揺らした。


「それにしても、よくあの営業部と合コン取り付けたわね?」
「そうなんですよ〜!実は〜、総務の堀尾が越前さんと知り合いで…」
「今度デートしてあげるから合コンセッティングして〜、ってお願いしたんだ?」
「え!?よく分かりましたね!」
「や…、誰でも分かるから…」


大きな目をクリクリさせて…
友達に合コンしたいって頼まれたの〜!とか何とか言って、堀尾くんに頼み込む彼女の姿が容易に想像できる。
あのお調子者は、この可愛い小悪魔に利用されてるってちゃんと気が付いているのだろうか…。


「じゃ、今週の金曜日!」
「は!?」
「絶対来てくださいね!先輩も来るって、もう言っちゃってるんで!」
「いやいやいや、ほんと無理だから!その日は実家に帰る予定なの!」
「この時期にですか?10月ですよ?」
「ちょっと、色々ね…。同棲してた彼のこととか、説明しろって両親がうるさくて…」


その言葉に、お尻を飛び跳ねるように話していた後輩の動きが止まる…。


もう私も26…。
両親の反対を押し切ってまで同棲した彼。
当然のことながら…
両親は、私と彼が結婚するのだろうと思っていたはず…。

電話越しの母の声は、重く、何処か苛立っているように聞こえた。


「先輩…」


先程とは打って変わって、落ち着いたトーンで絵理菜ちゃんが私を呼ぶ…。


「ご実家って確か都内でしたよね?」
「え?えぇ…。そうだけど…」
「近いんですか?」
「うーん、電車で1時間かからないくらいかな」
「ふーん…、なるほど…」
「…?、え……?」


きゅっと閉まっていた彼女のぷっくりとした唇が…
いつものように、白い歯をのぞかせて妖美に笑った……。





「「「かんぱーい!」」」


重なる男女の声。
賑わう店内。
傾け合うのは、色とりどりのグラス…

ではなく…、少し重めの湯のみ。

そして座敷のテーブルに並ぶのは、綺麗に握られたたくさんのお寿司。


「美味しい…」


見た目もさることながら、口の中でとろけるような新鮮なお魚とシャリのバランスに、自然と声が漏れる。


「気に入った?」
「え?あ…、は、はい!」


テーブルの向かい側の席で、穏やかに微笑む海外部のプリンス。
女性よりも美しいそのルックスに、つい緊張で言葉がつまる。


「クス…、よかった。実は、ここの大将僕らの友人なんだ」
「そうなんですか?こんなに美味しいお寿司初めて食べました」
「…だって、タカさん」
「ははは、なんかテレるな。ありがとう」


さっきまで燃えるような気合いで魚をさばいていた大将が、包丁を置いた途端に頬を染めて恥ずかしそうに笑う。


「でもまさか、お寿司屋さんで合コンなんてびっくりです」
「うん。僕も桃に呼ばれて来てみたら、まさかの合コンでびっくりしたよ」
「え?知らなかったんですか?」
「あー…、すんません不二先輩。こういうの好きじゃないって聞いてたんスけど…」
「俺はやめとけばって言ったんスけどね」
「ば!ちょ、おい!越前!俺を売る気か!??」
「不二先輩の女性の好み知りたいって言ったの桃先輩っしょ?」
「お前もノリノリだったじゃねーか!!」


騒ぎ出す、桃城くんと越前くん。
それを見て、いつもの倍以上あるであろうまつ毛をパチパチさせた後輩達が、嬉しそうにきゃあきゃあはしゃぎだす。

そして座敷の一番奥のテーブルには、絵理菜ちゃんを心配そうな表情で見つめる幹事の堀尾くん…。


「バッカだよねー!堀尾。真子ちゃんもそう思うっしょー?」


穴子ばかり乗せたお皿と共に、隣の席に移動して来た広報部のアイドルが、二ヒヒと私の陰からこっそりと指差す。

その先には、目をハートにして越前くんに話しかける絵理菜ちゃん。


「あれは完全におチビ狙いじゃんね〜!」
「なんだか楽しそうですね、菊丸さん」
「へへへー!だって楽しいもん!」


ぶぃーっとピースする姿は可愛らしく、人懐っこい笑顔が眩しい。


「英二、桜井さんと知り合いだったのかい?」
「ほら!4月の社内広報の表紙!担当したの俺だったんだよねー!」
「ああ、それなら覚えてるよ。すごくいい写真だったね」
「だろ?だろー?あれはすんごい評判よかったにゃ〜」
「きっとモデルさんが良かったんだね」


からかうように、わざと私を見ながら会話する2人。
その視線に耐えられず、頬がだんだんと熱くなっていく…。

あれはたしか…
表紙モデルをやるはずだった新入社員が熱を出したとかで、急遽頼まれた撮影だった。

ロビーでいつものように花を生けているところを、いきなりフラッシュが光って、すごく驚いたことを覚えている。



あんな無防備な写真…。
思い出しただけで恥ずかしい!



「クス…、可愛いね」


とどめのような一言。
お寿司の味も消し去るその破壊力に、私はただただ下を向く。

慣れない席に、目の前と隣には社内で人気のプリンスとアイドル…。

言葉に困っていると、奥の席からダンッとテーブルを叩く大きな音がした。


「おい!こら越前!それ俺のマグロ!」
「は?名前でも書いてあったんスか?」
「おーまーえーなぁー!吐け!返せ!」
「やだ!」
「返せ!」
「やだ!」
「返せっつーの!」
「やだったらやだったら、やだ!」


仕事中は落ち着いて冷静な面倒見のいい桃城くんと、いつもクールで挨拶くらいしか声も聞いたことのない越前くん。
彼らの意外な姿に、私も後輩達も唖然とする…。


「ありゃりゃー…、まったくあいつらは〜!」


見兼ねた菊丸くんが仲裁に入るけど…
何故か今度は3人で、大将の持ってきたちらし寿司の取り合いを始めてしまった…。


「ミイラ取りがミイラになっちゃったね」
「…ぷ。子供みたい…」


3人の姿に思わず吹き出せば…

頭の奥で懐かしい声が響き出す…。







『おい!真子!それは俺のだっつーの!』
『がっくん、さっきたくさん食べてたじゃん』
『お前女だろ!食い意地はってんじゃねー!』
『なによそれ!男女差別反対ー!』
『自分女ちゃうやんけ』
『ちょっと、侑士。さらっと悪口言うのやめてくれる?』
『ステーキ肉3枚も食べるやつは女って言わんわ』
『3枚じゃないし!ジロちゃんと半分こしたから2枚半ですぅー!!』
『大して変わらんわ、アホ!』


テーブルに並べられたたくさんの豪華な料理。
その上座の主が、ぎゃいぎゃい騒ぐ私達に綺麗な顔を歪ませる。


『てめーら、いい加減にしろ!今日は俺様のバースデーだぞ!!!』


中学3年の秋。
この日15歳になった跡部の自宅で開かれた、仲間内だけの小さなパーティー。

部活を引退してから、高等部への進学試験に向けてそれぞれ忙しく、みんなで集まることなんてなくなっていた…。

そんな物足りなかった毎日。
今日は久しぶりに明るく賑やかで楽しい時間。


『なによ跡部。彩が来られなかったからって拗ねないの〜』
『な、なに言ってやがる!俺様がいつあいつのこと気にしたってんだ!』
『あ〜、俺、彩ちゃんから跡部にってプレゼント預かってるよ〜』
『な!ジロー本当か!?…って、おめーら何ニヤついてやがんだ!?あーん?』


かなり偉そうな口ぶりとは裏腹に、大事そうに包みを抱える跡部。
らしくないそんな彼の姿を、みんなで目を合わせて微笑む。

跡部の片想いはもう2年以上。
彩のこととなると、いつもの自信も冷静さもなくしてしまうらしく、未だに告白出来ていない。

今まで色んな女の子に告白されてきたけれど、跡部の気持ちは1ミリも…
いや、1ヨクトも変わらないらしい。

そんな一途な恋をする跡部が、私には羨ましくってならない。


『そーいや桜井、この前紹介されたとかっていうメル友とはどうなった?』
『あー、それな。もう終わったでー』
『はぁ!!?どーいうことだよ?』
『ちょっと侑士!勝手にペラペラ喋んないでよー!』
『ええやないか。写真と実物がちゃうのはよぉあることや』
『桜井先輩、騙されたんですか?それはお気の毒でしたね…』
『長太郎、深く考え過ぎだC〜!』
『で?で?どんな男だったんだよ?』


何処かの有名パティシエが、跡部の為に特別に作ってくれたとかいう特性のタルトケーキを頬張りながら、今度はみんなが私の恋愛談義に入る。
お節介な侑士のせいで、私の恋愛事情は奴らに筒抜けだ。


『だいたい、お前は簡単に気を許し過ぎなんだよ』
『跡部が重すぎなのよ』
『何でそんなに惚れやすいんだー?』
『真子の場合、ただ逃げとるだけやわ』
『忍足は真子ちゃんに甘過ぎだよねぇ〜』
『は!?このエロ眼鏡の何処が甘いの!?』
『そやで、俺は優しさの無駄遣いなんかせぇへんで』
『ふざけんな、この変態エロ眼鏡〜!』
『それしか言えんのかいな…』


バチバチと火花を散らして睨み合う私達の間を、フォークが素早く通り抜ける。
振り返った時には、既に私のタルトはがっくんの口の中でプレス中…。


『あー!!がっくん、酷い!私がタルト好きなの知ってるくせにーー!』
『ぼーっとしてる方が悪いんだよ!』
『返して!』
『無理』
『返せ!このおかっぱピンク!』
『無理つったら無理つったら、むーりぃーー!』


なだめる長太郎を無視して、再びぎゃいぎゃいと騒ぎだす私達…。
いつものことだと呆れ顔で、跡部や侑士はもう聞こえないふり。
ジローちゃんは既に夢の中。
下克上男は端から無視を決め込む。





そんな時…、
いつも聞こえてきた…

身体を震わせるような
試合終了を知らせる怒鳴り声。

長い長いテーブルの端から。
眉間に、めいいっぱいシワを寄せて…


『飯くらい静かに食いやがれ!!!!』








「ーーーっ!?」


腕に広がる鳥肌に、思わず店内を見渡す。
そんな私を、不二さんが不思議そうに首を傾げる。


「ごめんなさい、空耳かな…」
「少しぼーっとしてたね。大丈夫?」


心配そうな表情の不二さんの手が、私のおでこを覆う。

全然元気なのだけど…。

急な接触に身体は固まり、触れた部分は一気に熱を持つ。


「少し熱いね。送るよ」
「や、だ、だ、大丈夫です!」
「いいから、遠慮しないで。実は僕もそろそろ帰りたかったんだ」


素早く立ち上がると、まだまだ盛り上がっているみんなに私の気分が優れないらしいと軽く伝える…。

不二さんの手には、いつの間にか私のバッグと上着。


「あ、お金…」
「そんなの後日でいいよ」


綺麗な指が私の手を包み込む…


「さ、行こう!」


上着を着る間もなく、引かれるがまま夜の街に飛び出す。


頬に当たる秋の風…。

それは不思議と冷たくなくて…


繋がれたままの右手は、より一層熱を持ち…


激しく揺れる鼓動が、

私の胸をぎゅうっと締め付けた…。















君はともだち*2

〜 ぷりんす 〜

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