絆創膏と高熱

□待たされた男
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【待たされた男 逢坂 孝之助】

  第3話 他人以上の付き合い
       Taninnizyou no thukiai






「逢坂君は隣で話し合わせてくれるだけでいいから」
そう言ってすがるように俺の手を取る久島。



「いやでも、なんで俺なんですか」
夕方、誰もいない大学の研究室。
講義が終わって教室から出た俺を、彼が手を引き無理にここに連れて行かれたのだ。
そんな俺の姿を見ているせいか、外は少し騒がしい。

それでも彼はそんなことを気にせず、興味本位で中に入ろうとした生徒は、内側からかけられた鍵にそれまた騒ぎを大きくして。
また、面倒なことになったと俺は溜息を吐いた。





久島 昇。
見栄えのしない厚いレンズの眼鏡に、ぼさぼさの髪。
皺の多い白衣。
が、これでもいちよ、それなりの権威をもった教授である。

なんでも海外で有名大学を卒業してすぐ、同じく国内でも有数、難関大学のこの大学の教授に抜擢されたといい。
この春はその噂だけで生徒たちは様々な憶測を立て、多くの者がこの教授の授業をとった。
なんたって今までは表舞台に出てこず、有名になった論文だけが世間に出回り、誰も彼のことを知らなかったのである。



そうして、新任教授として現れたのがこの男。
今と同じ服装で、壇上では緊張しているのか何度も躓き、挨拶の際にはあまりに小さな言葉でぼそぼそと名前だけを呟いたのを覚えている。
その後、授業もなにかと分かりにくく、多くのものが彼のもとを離れては大きくなった噂だけが残り、一方で授業でも彼の進行を妨害するような生徒も出てきたというところだ。





「だって、僕の授業真面目に出てくれる男の子って逢坂君くらいだし」
「だからって俺に頼むんすか」
ぐいぐいと近づく彼の肩を置いて、一定の距離をとる。
彼の目があまりに真剣でいて、少し怖いくらいだ。


「僕、酒代くらい奢るよ」
その言葉に自分の眉がピクリと動いたのがわかる。
同じくその様子を彼も見逃さなかったようだ。



結局、酒、という単語に押し切られた俺は彼の提案に頷いてしまい。
嬉しそうに微笑んでは、また躓き近くの試験管を落として割った彼に、俺は苦笑いを隠せないでいた。





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