冷たい指先

□泣き濡れた頬
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浩太は泣いていた



「浩太…?」
「まぁくん‼‼」
飛びついてくる彼
泣きぐずっている彼を抱いて、リビングに向かうが
そこにいつもの圭吾の姿はなく

どことなく、少し落ち着かないリビングは、
洗濯物や空の缶やゴミが多く落ちていた


「浩太、俺と話しが出来るか?」
首を振る彼
落ち着くまで様子を見ようと、ソファに座るが
彼が俺の胸に顔を埋めたまま

静かな夜だった


ここに来ることを圭吾に連絡したが
いつもくるはずの返信はなかった




「も、う。…いなっ、いんだよ」
彼の背をゆっくりと撫でていれば、小さく彼が呟いた


「浩太?」
「兄ちゃんは、もう、帰ってこないの」
泣きじゃくる彼に、悪い予感がする



「事故か、病気か!?」
それらに、彼からの返信がなかったことも理解できる
それを知らず、過ごしていた自分が憎い



「ち、違うよ。違うの」
また、彼が嗚咽に言葉を失う
そのまま、言葉を飲み込んでしまった彼に、どうしたものか、と悩んでいると
家の扉が空いた



「来てたのか」
疲れた様子の玲汰
その手には2人分の弁当と酒類を持っていて

「どうなってる、これは」
「…あぁ、ちゃんと説明する。だから、まずシャワーを浴びさせてくれ」
具合が悪そうにそう言った彼は、浩太に食べさせておいていいから、と弁当を置いて行った




「浩太…ご飯食べないか」
「いらない」
「…でも、食べないと元気になれないぞ」
「兄ちゃんのご飯じゃなきゃ、嫌」
頑なに動こうとしない彼
どこかやつれたような表情も、きっと間違いじゃないはずで
彼は、ここ数日殆ど口にしてないんじゃないだろうか


離れない彼を抱いたまま立ち上がる
冷蔵庫を開けても、酒類が入っているほか食材はほとんど見られない

圭吾がいたころはそんなことはなかった
大抵3日以上は、食事が出来るだけのものが入っていて


彼らと出かけるために、仕事の調整を無理にして
そこから5日以上、ここに来れなかったのが俺を後悔させる







それから、ソファに戻り泣きじゃくる浩太を抱いて過ごす
何度か食事を進めるが、いらないと答えるばっかりで、
俺に抱き着いたまま、何かを話出す様子もなかった



「やっぱり食べないか」
風呂から上がった玲汰が、濡れた髪のままそう話す
そのまま冷蔵庫へ向かえば、酒を出して煽った


「食べないかじゃないだろ、お前ももっと真剣に」
「いや、明日病院で栄養を入れてもらうから」
ぴくり、と俺の胸で浩太が震える


「病院、やだ」
「しょうがねぇだろ、飯食わねぇお前が悪い」
その言葉に、浩太はきっ、と玲汰を睨んでは
弁当を開けて口に入れる


けれど、喉を通らなかったのか
急にトイレに走り出した




「いつから、食ってない」
「あいつがいなくなってからだから3日か、4日か」
「んなもん、普通の食事は通らねぇよ」

ソファから立ってキッチンに向かう
がさがさと棚を漁っては、レトルトのお粥を出して温める



「そんなの、あったのか」
この家のキッチンのことはある程度分かっている



「圭吾が風邪を引いた浩太によく食べさせていたよ」
「あいつが作るんじゃなくてか」
「圭吾は、お粥だけはうまく作れないって話してた」
「へー」
そういって、また、酒を口にする彼に冷たく視線を向ける




「お前はあいつらの父親だろう」
「…まぁな」
気まずそうに視線をそらしては、ソファに戻り、
自分の分の弁当を開ける彼


「俺じゃ駄目なことくらい、とっくにわかってる」
そんな小さな声が聞こえて
視線を彼に移せば、何事もなかったかのように
テレビをつけては食事を進めていた




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